【アジア・ユニークビジネス列伝】
大麻オイルを合法処方(タイ)
DX武器に農村で金融事業(ベトナム)
それを売るのか、そんなサービスがあるのか。アジアでは思いもよらない商品やサービスに出会う。現地ならではのユニークなビジネスから今回は、医療用大麻オイルで治療を行うタイの病院と、日立とベトナムポストなどが始めた金融サービスを紹介する。
【タイ】
大麻オイルを合法処方
医療観光の展開視野に
3月に開業した「ハービダス・メディカルセンター」のクルアーソーポン会長(右)と医師ら=5月3日、バンコク(NNA撮影)
2019年2月に医療目的での大麻の使用が合法化されたタイ。同国で医療用の大麻オイルの処方を始めた初の外資系病院「ハービダス・メディカルセンター」がバンコクに開業した。同センターのトム・クルアーソーポン(Tom Kruesopon)会長によると、主にパーキンソン病やアルツハイマー病のほか、がん患者や摂食障害の患者らが訪れている。中でも不眠症に悩んでいる人が多いという。
医師は6人。いずれも高い専門性を持ち、大麻オイルの処方だけでなく、血液検査を実施したり、カウンセリングしたりするなど患者の生活習慣の改善に力を入れているのが特徴だ。
同病院では不眠症などの患者に対し、必要に応じて目薬用サイズの小さな容器に入った大麻オイルを処方する。タイでは、高揚感をもたらす成分である「テトラヒドロカンナビノール(THC)」の含有率が1%未満のものはヘンプ、1%以上のものはマリフアナと区別されている。ヘンプとマリフアナはいずれもカンナビス科に分類される大麻草だが、マリフアナの用途は法律で厳しく制限している一方、ヘンプは民間企業が栽培や加工に携わることができる。
ヘンプを使ったチョコボールやグミなど食品の販売も=5月3日、バンコク(NNA撮影)
同病院で処方している大麻オイルは、向精神作用がない「カンナビジオール(CBD)」オイルにTHCを10%ほど混ぜ合わせたもの。同病院が政府当局から450バーツ(約1,700円)で購入しているため合法だという。患者には1,000バーツで販売する。患者は寝る前に処方された大麻オイルを1~2滴ほど口にする。不眠症に悩んでいたという60代の男性は「大麻オイルを使用して2日後にはよく眠れるようになった」と話す。
病院は今後、「THCを8割含有する製品を処方することもある」としており、必要と判断すればTHCの割合が高い大麻オイルも独自で処方していく考えだ。
タイ政府は6月9日、医療などへの利用を目的とした大麻の家庭栽培を解禁した。娯楽での吸引は引き続き違法だが、規制緩和が進む中、同病院がその先に見据えるのは、ビーチやスパで大麻成分の入った製品を楽しむ「医療観光」だ。「クリニック事業よりも大きな収益が望める」とクルアーソーポン会長は期待を語った。
※在タイ日本国大使館は、「日本の大麻取締法は国外犯処罰規定が適用され、タイを含む海外に居住する日本人が大麻の栽培や輸出入、所持、譲渡等を行った場合に処罰対象となる可能性がある」として、安易に大麻に手を出さないよう注意喚起している【ベトナム】
日立とベトナムポスト
DX武器に農村で金融事業
日立がベトナムポストに設置するタブレット型端末。農村部で金融サービスを申し込めるようにする(同社提供)
日立製作所はベトナム郵便総公社(ベトナムポスト)などと協力し、ベトナムの農村部でデジタル技術を活用した金融サービスの普及事業を進めると発表した。全国に張り巡らせたベトナムポストの拠点に日立のタブレット型端末を設置し、地場消費者金融ベトクレジット・ファイナンスによる個人向け融資を申し込めるようにする。
日立の現地法人日立アジア(ベトナム)が開発した端末「C―ACM」を5月からベトナムポストの40拠点に設置。ベトクレジットとビデオ通話でつないで個人ローンの申請や契約を可能にする。ベトクレジットは申し込み内容をその場で確認することができるため、手続きの効率化につながるという。融資審査には日立の人工知能(AI)を活用することで標準化を図り、精緻な判定を可能にする。
農村部での金融サービスでは紙を使った手続きが主流。契約までに時間がかかり、不正取引にもつながりやすい。ベトナムポストのチュー・ティ・ラン・フオン副社長は「デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指した技術の活用で、地方都市をはじめとした遠隔地や孤立した地域の人々にも、便利で手軽な金融サービスを広く提供していきたい」と展望を語った。
今後はベトナムポストが全国に展開する1万3,000カ所の拠点にサービスを拡大するとともに、保険などの金融商品の提供も可能にすることを目指す。