NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2022, No.89

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ

アジア各国・地域の拠点から届いたNNA記者のコラムを紹介。香港からは、待ちに待った行動・営業制限緩和にまつわるエピソード。ベトナムからは、昨年秋に開通した都市鉄道のその後など、計11本をピックアップ。

ベトナム初の都市鉄道、ハノイ2A号線の始発駅の改札=2021年11月、ベトナム・ハノイ市カットリン駅

ベトナム初の都市鉄道、ハノイ2A号線の始発駅の改札=2021年11月、ベトナム・ハノイ市カットリン駅

中国

自分の手料理に飽き飽きしてきた。上海でロックダウン(都市封鎖)が始まって約1カ月半。最初の頃は頑張って料理をしていたが、だんだんと自分で作る食事がおいしく思わなくなってきた。作る気力も食べる気力もうせてきた。

近所に住む1人暮らしの友人に電話で話したところ、友人も同じように自炊生活に限界を感じていた。そこでお互いの郷土料理を作り合い、自炊のマンネリを打破しようということになった。安徽省出身の友人から鶏肉とじゃがいもの煮物を教えてもらい、こちらは肉じゃがを教えた。

料理が出来上がった後は、テレビ電話をつないで一緒に食べた。普段と異なる味付けの料理だったので、久々に食欲が湧いた。何より人とともにする食事はやっぱりおいしかった。ロックダウン後に楽しみにしている食べ物はたくさんある。ただそれ以上に友人との食事が楽しみで仕方ない。(東)


香港

夜の外食が解禁、博物館なども営業を再開して迎えた初の週末、街はにぎやかだった。ハッピーアワーで立ち寄ったなじみのエジプト料理店のスタッフは「夜は予約でいっぱいなんだ」と笑顔。夕食時に九龍地区・佐敦(ジョーダン)の屋台街を通りかかると、これまた満席だった。

予約した韓国料理屋で夕食をしていると「もう食べ終わってるね。いま結構、外に並んでいるんだよねぇ」とおかみ。店の苦労を思うと退店催促もむげにはできず、残っていたマッコリを急いで飲み干した。

映画館も混んでいた。再開初日の木曜、アカデミー賞受賞でも話題の邦画『ドライブ・マイ・カー』をレイトショーで鑑賞。席は8割方埋まっていて、エンドロール後に拍手が起こった。通常なら拍手は作品に対するもの、となるが、この日ばかりは映画館への「おめでとう」も含まれている気がしてならなかった。(粥)


台湾

先週末、台北の夜市を訪れた。新型コロナウイルスの新規感染者が10万人近く確認され、飲食業が苦境にある中、夜市の状況も厳しいだろう、と想像していたが、思いの外にぎわっていて驚いた。

日が沈み屋台の明かりがともると、若者たちが次々とやってきた。B級グルメの胡椒餅(こしょうもち)や臭豆腐などを売る屋台が通りに並び、あちこちで食べ物を買い求める人たちで行列ができていた。屋台のテーブルでは、その場で目当ての料理をつつきながら談笑する若い女性たちやカップルらの姿も。しかし、料理が運ばれ、食べ始めるまではマスクを外さないようにするなど感染を警戒しているようでもあった。

最近読み返した台湾を舞台にした小説では、主人公が夜市を訪れて「台湾に生まれてよかった」と感じる場面がある。何の不安もなく、再び夜市を思いっきり楽しめる日が早く来ると良い。(祐)


韓国

クワタ・ケイスケー!  1980~90年代の音楽を流すバーで、数人の客が歓声を上げる。小さい頃から耳にしていた軽快なそのメロディー。桑田佳祐さんの「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」が韓国で聴けるとは思っていなかった。サビの部分では、思わず他の客らと一緒に合唱してしまった。

韓国では98年まで日本の大衆文化の流入が制限されてきた。しかし、実際のところは海賊版が出回り、日本の歌謡曲に触れる韓国人も多かったそうだ。中でも桑田佳祐さんの人気は高く、KUWATA BANDの「スキップ・ビート」はディスコの定番のナンバーだったという。

人気グループ「TWICE」らをプロデュースするJ.Y.PARK氏もその影響を受けた人の一人。最近も日本語でカバーしたライブを配信するなど、尊敬の念を隠さない。音楽に国境はない。民主化前のことなら余計にそう思う。(公)


タイ

スーパーでワインの棚を見ていて、タイ産のワインがあることを知った。バンコクは1年で最も暑い季節ということもあり、ワイン作りのイメージが湧かない。ただ、調べてみるとバンコクから車で3時間ほどの高原地域にワイナリーがあるとのことだ。意外に近い。

そういえば、ベトナムでもインドでも、ワインがあった。ともに国内で評判を確立している印象はなかったが、グレードによってはおいしいと感じるものもあった。特にワインに詳しいわけではないのでブランドや産地にこだわりはほぼなく、よほどまずくなければ気づかないのは強みだ。何より、珍しい地産のワインを楽しめるのはうれしい。

試しにタイ産を1本買ってみた。タイらしくライチのフルーツワインも並んでいたが、それはまた今度の楽しみに。いつかワイナリーも訪ねて、生産者の話を聞いてみたいと思う。(小)


ベトナム

ポリ袋を両手に下げたおばさんが自動改札機に突進し、案の定、行く手を阻まれた。乗車券をかざすよう教えると「わたしゃ田舎者。何にも分からんよ」と言い放たれた。

ハノイに開業して半年がたつベトナム初の都市鉄道。土曜日朝の主役たちは、券売機に戸惑い、改札口で引っ掛かり、車両を背に撮影会に興じる「初メトロ」市民たち。突進おばさんはプラットフォームに上がるとまずベンチで休憩。出発する電車を見送っていた。

車両に乗り込むと、陣取っていたのはシートに両膝を立て窓枠に手をかけて景色を見やる子どもたち。走り出すと小学校低学年らしき男の子が「意外と遅いんだね」とつぶやいた。弾丸特急でも想像していたのだろう。

週末の利用者は1日1万5,000人と平日の平均1.5倍だそう。「都市鉄道が普及した」と言えるのは、この比率が逆転したころになりそうだ。(鍋)


インドネシア

マスクの着用義務を緩和するというジョコ大統領の発言に、まず頭をよぎったのは驚きよりも、買い足したマスクの在庫が無駄にならないだろうかという心配だった。それほどまでに感染者の数は抑制され、かつてほどコロナの話も少なくなった。

一方、マスクを外してもいいのは一定の条件下のみ。無駄にならずに済みそうだが、マスクの箱が空くころには、さらに緩和されているだろうか。

深夜、外に出て周りに人がいないことを確認し、そっとマスクを外す。マスクの着用が常であったためか少しの違和感を覚えながらも、吸い込んだ空気に新たな生活へ向かっての期待に胸が躍る。コロナ禍で出会った人は、顔の半分以上を隠した状態での「初めまして」だった。マスクを外しての出会いは、新たな初対面になる。緊張感と期待が入り交じる、新学期の前日に似た雰囲気だ。(高)


シンガポール

ショッピングモールに入場する際、無意識にスマートフォンを取り出していた。新型コロナウイルスの感染対策で過去1年以上、どこへ行く際もQRコードをスキャンして、入退場の履歴を記録するのが習慣になっていたためだ。周辺を見回して、そっとかばんにしまった。

4月末に感染対策規制の大幅な緩和が行われたため、現在はもうモールや飲食店などに入る際にQRコードを読み取る必要はない。めったにないが、スマホを持たずに外出することも可能になった。店舗前のゲートや立ち入りを制限するためのテープなども撤去されている。履歴を残しているかを確認する係の人もいなくなった。

障害物のない自動ドアをくぐりながら、かつてのような日常が戻ってきたのを実感する。まだところどころに残されている色あせたQRコードが、コロナ禍の月日の長さを物語っていた。(薩)


マレーシア

華人は健康意識が高いといわれるが、夫の親族はその最たるものだと思う。日本への一時帰国後、義父母から「ウイルスを持ち帰ったかもしれないから、しばらく訪問しないでほしい」と伝えられた。2週間の旅行期間中に両国で計5回も検査を受けたので、市中の人よりよほど安全だと思うのだが。

義姉はさらに慎重派で、パンデミック(世界的大流行)のさなかに妊娠・出産したこともあり、1年ほど自宅にこもりきりだった。「通行人からコロナをうつされそう」と庭先にすら出なかったが、最近「子どもたちを公園で遊ばせて、夕食を食べよう」と誘われ、コロナ禍の収束を実感した。

ただ、店の予約も済ませた後になって「店内飲食が不安」などと言いだしたため、家族で唯一コロナに関心の薄い夫は激怒。「タイムマシンで過去から来た人だと思いなさいよ」となだめたが、まだ先は長そうだ。(旗)


フィリピン

フィリピンに関する知識があまりない人からの「お薦めの料理は何ですか」との質問。また現地の人から「好きなフィリピン料理は」と尋ねられた際、いずれも回答に困ることがある。酸味が利いたスープ「シニガン」など特徴的でおいしい料理は多いが、食べる機会が少なく、胸を張って好きと言うことができない。

対応策として、最近は「鶏料理」と答えている。国民食ともいえる「ジョリビー」のフライドチキンをはじめ、独特の風味が食欲をそそるバコロド風バーベキューの「チキンイナサル」、路面店で販売している丸焼きも含め、いずれもシンプルな料理だが、飽きがこない味わいのため、日常的に食べている。

そういえばオフィスの近くにも、食事時にいつも人だかりができているチキン料理店がある。鶏好きを自称する身としては、人気の秘密を探るため、いつか行列に並ばなくてはならない。(中)


インド

インドでは、渋滞や信号待ちで止まっている車めがけて、行商人がさまざまなアイテムを売りに来る。コンコンと窓をたたいて商品をアピールする販売方法で、毛ばたき、ペットボトルの水、カットしたココナツ、プラスチック製の人形まである。渋滞中に新鮮な果物を見せられた時などは、窓をあけて「1つください」と言いたくなる。

よく通る道では、決まって本を薦められる。タイトルに目をやると、お金の心理学、マネジメントの基礎、とビジネスの実用書が多い。いつ見ても同じ行商人が同じ本を携えているから、どうやらなかなか売れないらしい。

猛暑の時期は、行商人たちによる車道販売は少なくなる。ただ、最近のデリーは雨の到来とともに、時折、涼しい風が吹くようになった。いつもの道でも、渋滞中の窓越しのセールスがもうじき再開されることだろう。(成)

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