【現場ウオッチ】
香港発の教育企業キュリオ
福岡から全国へ、100校目標
今から20年後、日本の社会はどんなふうになっているだろうか。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の急速な普及により、世界でも日本でも、働く環境は急激に変化している。米国では、今の子供たちが大人になる頃には、現在ある仕事の65%はなくなっているとの予測もある。そんな未来の社会に向けて子供たちが準備できるような教育を提供したいと、英語で学ぶ国際塾を運営する香港企業「CURIOO(キュリオ)」が5月、日本に最初の教室を開校した。場所は東京や大阪ではなく、福岡。向こう5年以内に全国で100校の開校を目指す。(NNA福岡支局 吉岡由夏)
授業イメージ。全てのカリキュラムが英語で進行する=5月11日、福岡市(NNA撮影)
インターナショナルスクールや大学などが立ち並ぶおしゃれな街、福岡市早良区百道浜。ここに5月16日、英語やプログラミング、起業家精神などの授業を通じグローバル感覚を育む国際塾「CURIOOkids (キュリオキッズ)」が開校した。生徒の対象年齢は3歳から12歳(小学6年生)まで。同19日現在、4歳から11歳までの56人が在籍している。
5歳の長女を教室に連れてきた母親は「英語を習うのは初めて。自分からやりたいと言い出して、すごく楽しみにしているようだ」と笑顔で語った。南区から小学1年生の息子を通わせる母親は「これからは英語が必要。世界に通用するような大人になってほしい」と期待を込める。
日本法人「CURIOO Japan(キュリオ・ジャパン)」(福岡市)の代表取締役である小島譲氏は、将来役立つスキルが身につく実践的なプログラムに加えて、意欲や協調性など数値化が難しい「非認知能力」を高める教育を提供すると意気込む。
キュリオ・ジャパンの小島譲代表取締役=5月11日、福岡市(NNA撮影)
外資系金融会社でキャリアを積んだ小島氏がキュリオの企業方針に賛同したのは、日本の「失われた30年」への危機感を切実に感じていたから。今や世界経済を支配するのは、かつて日本が世界に誇ったもの作り産業ではなく、グーグルやアップルなど「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米巨大IT企業。そして時代は確実にメタバース(仮想空間)に進もうとしている。日本の未来のためにも、子供たちのためにも、今こそ新しい教育プログラムが必要だと感じた。
日本では2020年に公立小学校で英語教育とプログラミング教育が必修化され、こうした授業を取り入れる塾も増えている。小島氏はキュリオの特長について、公立小学校よりも先に進んだ授業内容と自主性の尊重を強調する。子供たちはキュリオで楽しく学びながら、将来自分に何が向いているかを見つけていく。
プログラミングも英語で
キュリオは20年に香港で最初の教室を開設。現在の教室数は日本のほか、香港2、中国本土8、タイ3、ベトナムとマレーシア各1。インドネシア、ミャンマー、中東でも近く開校を予定している。
キュリオでは授業カリキュラムを◇英語(English Communication)◇アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)◇テクノロジー(Technology)◇創造性(Creative Design)――の4つの柱で構成。
例えば、起業家精神を育むことを目的にしたアントレプレナーシップではリーダーシップ、イノベーション、問題解決、金融リテラシーなどを学習し、テクノロジーではロボット工学、3Dアニメーション、アプリ開発、人工知能(AI)などを段階的に学ぶ。
英語については、小学校卒業時点で高校生レベル以上の英語力を身に付けることを目指す。カリキュラムは全て英語で授業を行う。プログラミングやデザインも英語で学ぶことで、子供たちは目的意識を持って英語の授業を受けるようになり、社会に出たときにすぐに役立つ「生きた英語」を習得することができる。
キュリオの教師ら=5月11日、福岡市(NNA撮影)
小島氏が特に強調するのはアントレプレナーシップ教育の重要性。米国のように新しい産業が育っていない日本で、創造性を鍛える教育が広まらなければ国際競争力の低下は避けられないと訴える。
キュリオ・グループ最高経営責任者(CEO)のポール・ブラックストーン氏は「キュリオで学べる論理的思考とコミュニケーション能力は、学校の授業や社会生活にも生かされる。カリキュラムは実社会の想定に基づいているので、子供たちは好奇心をかきたてられ、学習に前向きだ」とコメント。生徒の親からも「子供のコミュニケーション能力が発達した」「周りの世界にもっと関心を持つようになった」など評価を受けていると自信を見せる。
目標は3年内に生徒3千人
カラフルで人目を引く教室外観=5月11日、福岡市(NNA撮影)
百道浜教室には5つのクラスルームがあり、教師は開校時点の段階では4人。1クラス最大8人の少人数制で、1人1人の子供たちの能力に応じたカリキュラムを用意する。1日2レッスン(計85分)の講座を週2回受けて、受講料は月4万円ほど。教科書は全て英語。英語以外の授業はバイリンガルの教師が担当し、必要に応じて日本語でサポートする。
小島氏によると、今後3年以内に日本での生徒数を3,000人まで増やす計画。年内に福岡市内でさらに2校を設立し、5年以内に全国で100校を開設する目標を掲げている。
1校目に福岡市を選んだのは、アジアとの地理的近さや、若者人口が多く活気があること、国際金融都市を目指す福岡市から誘致があったことなどが理由だ。働き方の変化が進み、地方で働く人が増えていることから、今後全国に展開するに当たっても、必ずしも東京のような大都市圏である必要はないと考えている。
学研教育総合研究所が毎年実施している小学生の習い事に関する調査によると、ここ数年の人気トップは「水泳」だ。21年の最新調査では「英語塾・英会話教室」に通う小学生の割合は14.3%で全体の4位。「プログラミングやロボット教室」は1.9%とまだ少ない。一方、同研究所の18年の調査にはなるが、保護者が子供に習わせたい習い事の中で、英語塾・英会話教室は1位、プログラミングは6位だった。社会の急激な変化を感じている親世代が、子供の将来への準備としてこれらの習い事に注目しているようだ。
「難しくなかったよ」――。キュリオの教室で初めて英語を習ったばかりの6歳の男の子はそう答えてくれた。子供たちは大人が想像する以上に、大きな可能性を秘めている。そして一人一人が社会の宝、未来の希望。ここで学んだ子供たちがこの先、どんな未来を切り開いて、社会に羽ばたいていくのか、今から楽しみだ。
【動画】キュリオキッズ百道浜教室の様子=5月、福岡市(NNA撮影)
福岡の国際金融都市構想
日本に世界の金融ハブ(拠点)をつくる日本政府の「国際金融センター構想」に呼応し、東京や大阪とともに福岡も名乗りを挙げた。2020年9月に、九州経済連合会、福岡市、福岡県、九州大学などが参加する産官学組織「TEAM FUKUOKA(チーム福岡)」を設立。本格的に外資系金融機関の誘致に動き出した。
重点的に誘致する分野として(1)資産運用業、(2)フィンテック(ITを活用した金融サービス)、(3)BCP(事業継続計画)対応業務――の3つを設定。福岡が支援に力を入れるスタートアップとESG(環境・社会・ガバナンス)に投資を呼び込むとともに、地元技術人材や留学生らの雇用機会の拡大を目指す。金融機関だけでなく、「外国人の生活環境の整備」「快適なビジネス環境の整備」に役立つ企業も誘致の対象としており、その1つがキュリオだ。
チーム福岡はこれまでに11社の誘致に成功。アジア企業としては香港からキュリオ、金融グループの「MCPホールディングス」、シンガポールからフィンテック企業「キャップブリッジ・ファイナンシャル」、国際法律事務所の「ワン・アジア・ロイヤーズ」が進出を決めている。