NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2022, No.88

【アジアエクスプレス】

デニム輸出が拡大
パキスタンの躍進

世界的な綿生産国で糸や綿布が輸出の中心だったパキスタンで、デニムジーンズの輸出が拡大している。原料産地ならではの一貫生産体制により納期が短く、最新式の設備や高い技術力を誇る。発注先をバングラデシュやベトナムから切り替える動きも出てきた。地場メーカーは「バングラデシュに負けない」と強気だ。(NNA 坂部哲生)

パキスタンのデニムメーカー、クレセント・バフマンの製品。同国ではデニム製品の輸出が拡大している(同社提供)

パキスタンのデニムメーカー、クレセント・バフマンの製品。同国ではデニム製品の輸出が拡大している(同社提供)

ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章氏によると、パキスタンでは綿産国という強みを生かし、経済の中心地であるカラチなど中心に綿糸からジーンズの生産までを手掛ける一貫工場を持つ企業が増えているという。

パキスタン産の綿花は中繊維綿で布地が厚くなりデニムの製造に向いているという利点もある。一貫生産の強みを生かして、バングラデシュなど周辺国と比べて納期も早い。日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所の山口和紀所長は「欧州などのファッション業界にとって、最後まで売れ筋を見極められるメリットがある」と指摘する。

デニムメーカーの技術力も高い。東部ラホールにジーンズの製造工場を構えるクレセント・バフマンで、副会長を務めるザキ・サリーミー(Zaki Saleemi)氏は「パキスタンには、政府からの支援もあって染色技術など最先端の設備を導入している企業が多い。定期的にイタリアやトルコから技術者を呼んで、技術をアップデートしている。バングラデシュに負けない」と説明する。

海外の企業の買収に乗り出すパキスタン企業も現れ始めた。大手のアーティスティック・ミリナーズは2021年1月、米カリフォルニアにデニム製品の製造工場を持つスターフェイズインターナショナルを買収すると発表した。同工場の月産能力を現在の3倍の30万枚に拡大するとした。

パキスタンのメーカーがロサンゼルスに工場を持つのは同社が初めて。パキスタンの元商務相アブドゥル・ラザック・ダウッド氏は自身のツイッターに「海外シェア拡大に向け、パキスタンの企業はどんどん海外企業を買収すべきだ」と投稿し、激励した。

大手のアーティスティック・ミリナーズは、国際的企業としてフェアトレード(公正取引)や女性活躍の推進などの活動にも熱心に取り組む(同社の公式フェイスブックより)

【動画リンク】大手のアーティスティック・ミリナーズは、国際的企業としてフェアトレード(公正取引)や女性活躍の推進などの活動にも熱心に取り組む(同社の公式フェイスブックより)

バングラやベトナム
「顧客がパキスタンに」

米商務省国際貿易部・繊維衣料品局(OTEXA)によると、パキスタンの米国へのデニムジーンズの輸出額は21年に3億8,976万米ドル(約464億7,000万円)と、前年比で54.8%増加した。バングラデシュ(7億9,842万米ドル)やベトナム(4億149万米ドル)を下回ったものの、増加幅では両国を上回った。

地場のアリフハビブ証券は「バングラデシュやベトナムに発注していた顧客がパキスタンに流れたようだ」と分析。人権問題や通商問題で米国との関係が悪化している中国からパキスタンに注文を切り替える動きも進み、金額ベースでは中国(3億8,791万米ドル)を超えた。

深刻な経常収支の赤字に悩むパキスタンにとって、繊維産業は貴重な外貨獲得手段。ジェトロの山口所長によると、20年3月にコロナ禍で都市封鎖が実施された時も、繊維工場だけが条件付きでいち早く再開を認められたという。

デニムメーカーも工場の稼働継続に向けた努力を惜しまなかった。多くの市民が接種会場までの移動手段に頭を悩ませる中、従業員にワクチン接種の機会を迅速に提供した。ナヴィーナ・デニム・ミルズでは毎日40~45人の従業員を接種会場まで貸し切りバスで輸送。前出のクレセント・バフマンは保健当局と協力して自社施設内に会場を設け、短期間で従業員ほぼ全員の接種を終えた。

綿花高騰が足かせ
転作進み耕作地減

オンライン取材で「パキスタンのデニムメーカーの技術力は高い」と話すサリーミー氏(NNA撮影)

オンライン取材で「パキスタンのデニムメーカーの技術力は高い」と話すサリーミー氏(NNA撮影)

勢いのあるパキスタンのデニム産業だが、生産減による綿花の価格高騰は悩みの種だ。前出の坂口氏によると、綿花耕作地の減少が世界的に進んでいるという。サトウキビやナッツなど利益率の高い農作物への転作が進んでいるからだ。パキスタンは昨年、国内で消費された綿花のうち半分以上は米国やブラジルなど海外からの輸入に依存した。

クレセント・バフマンのザキ・サリーミー副会長によると、パキスタンではコスト削減に向け、綿とポリエステルの混紡など代替素材の開発に現在力を入れているという。


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