【アジア取材ノート】
インドの電動バイク
地方で人気が加速中
インドの中小都市や農村部で、電動二輪車の販売店が続々と増えている。世界的な原油高の中、燃料費を節約できる経済性が魅力だ。地方では充電インフラや車両サービスの不足は否めないが、消費者の関心と需要は急速に高まっており、メーカー各社は大都市以外への出店を加速させている。(NNAインド Atul Ranjan)
インタビューに応じたパンカジ・アガルワル氏=インド・中部チャッティスガル州(NNA撮影)
「フル充電した電動スクーターなら、50~60キロメートルを移動することができる。この地域に住む人には十分すぎるほどだ」。インド中部チャッティスガル州、バスタール地区のジャグダルプールという小さな町で電動二輪車の販売店を営む、パンカジ・アガルワル氏はそう語った。
地方では、電動二輪車の販売が伸びている。低速(時速25~30キロメートル)や中速(時速40~50キロメートル、都市内移動向け)の電動スクーターの多くは、家庭のコンセントで充電が可能。何より、高騰する燃料代を節約できることが、地方の顧客を引き付ける大きな理由になっている。
ジャグダルプールに昨年開業した販売店=インド・中部チャッティスガル州(NNA撮影)
「この地域の住民は、補助金をもらって電力供給を受けている。1日に少なくとも100~200ルピー(約160~320円)かかるガソリン二輪車の燃料代とくらべると、電動二輪車の充電コストはほとんど無いも同然だ。当地に住む所得が低い人にとって、このことは非常に大きな意味がある」(同氏)
アガルワル氏は2020年5月、隣接する東部オディシャ(オリッサ)州で製造される「イービー(EeVe)」ブランドの電動スクーターの販売を始めた。これまでに150台余りを販売。地方では電動車向けの充電インフラや車両サービスが不足しているにもかかわらず「不足を心配している顧客には会ったことがない」という。今後の需要増をにらみ「新たに発注をかけたところだ」と強気だ。
充電所なくてもOK
山間部でも利用者増
バスタール地区周辺の小さな町や村にも販売店がいくつも開業していた。大半は従来のガソリン車の店より小規模で、低速~中速タイプが主流だ。相場は4万~8万ルピー(約6万~12万円)。アンペア、オキナワ、イービー、トゥンワル、オカヤ、ジョイeバイクなど新興企業を含む国内メーカーの現地生産モデルを扱う。
昨年、ジャグダルプールに開業した店の担当者は「近い将来、この地域の需要はもっと拡大するだろう」と自信たっぷりだ。モダンな外観、手頃な価格、維持費の低さなどが人気の背景にある。
町で電動二輪に乗っていた人に、ガソリン車から乗り換えた理由を尋ねた。「燃料代が節約できる上に維持費が安い。高齢の私は町内を走るだけで、充電所がなくても問題ではない」と返ってきた。
電動スクーターを購入したばかりと語ったイエナ氏=インド東部オリッサ州(NNA撮影)
ティア2都市(※)に相当するオリッサ州の州都ブバネシュワルや、隣接するカタックを訪れると、さまざまなブランドの電動車のショップで溢れていた。森に囲まれたデンカナル地区では建設中の店も見かけた。地区内の村で出会ったイエナ氏は、電動スクーターを購入したばかりだという。
※規模による都市の分類。ティア1(大規模)、2(中規模)、3(小規模)、4(町村)、農村部などに分かれる
同氏は「森の地形に対応できないのではと不安だったが問題なかった。改善の余地もたくさんあるが、ガソリン車に比べてコストが低く、買う価値はある。ガソリンスクーターが恋しいかと聞かれれば、答えは『いいえ』だ」と強調。村の住民も徐々に電動タイプに引かれ始めているという。
ティア2が電動化を促進
「最初の選択肢」に浮上
インド東部オリッサ州デンカナル地区付近の村で、地場オキナワ・オートテックの販売店が建設中だった(NNA撮影)
需要が拡大する地方に、メーカー各社が店を開くのは当然の流れだ。
地場メーカー、アザーのポケラ氏は、ティア2都市の消費者の関心と需要の急激な高まりが車両の電動化を促進していると語る。昨年進出した南部カルナタカ州フブリでは、同7~9月期の販売台数が2倍に増加した。11月には州内3つ目の体験型ショールームを設置。「試乗の申し込みや車両の予約が急増している」と手応えを強調する。カルナタカ州マイソールや東部・西ベンガル州シリグリへの進出も発表。進出都市数は昨年12月時点の19から、今年3月には42まで増やす計画だ。
地場複合企業(コングロマリット)、ラタンインディア・エンタープライジズ傘下のブランド「リボルト」は昨年12月、南部アンドラプラデシュ州のティア2都市ビジャヤワダで店を開業した。州内2つ目、全国20カ所目。その前月には同州ティア2相当のビシャカパトナムでも開業した。
【動画】走行するインドの電動二輪車(NNA撮影)※映像に一部乱れあり、撮影によるもの
同社は、大都市以外への進出も強化する方針。「ガソリン価格の上昇と消費者の需要に対応するため、22年初頭までに新たに北部チャンディガルやラクノーを含む60カ所の都市や町に参入し、販売網を強化する」と表明している。
別のメーカー、ホップ・エレクトリック・モビリティーは昨年11月、東部ビハール州のティア2都市パトナに初の体験型ショールームを設置。また、オカヤ・エレクトリック・ビークルは165の販売店のうち20店を中部マディヤプラデシュ州ボパールや、西部ラジャスタン州ジャイプールを含む中小都市に設置した。
同業最大手、ヒーロー・エレクトリックのナビーン・ムンジャル社長はNNAの取材に対し、「現在の販売店網は全国700カ所だが、3年以内に1,500に増やす予定だ」と答えた。
「ジョイeバイク」のブランドで電動二輪車を展開するウィザード・イノベーションズ・アンド・モビリティーのスネハ・ショウチェ最高財務責任者(CFO)によると、燃料価格の高騰や政府の支援策といった複数の要因から、多くの州で電動車が消費者の最初の選択肢になりつつある。「好ましい移動手段という認識が強まり、全ての販売店で消費者から良い反応を得ている」という。
年率50%超で急成長
電動二輪車「主流」に
ウクライナ危機による部材の不足や製造コストの増加といった懸念があるものの、インドの電動車市場は成長を続ける見通しだ。地場格付け会社ICRAは3月に開いたウェビナーで、政府が普及に注力し続ければ、電動二輪車と三輪車の市場は急成長するとの見方を示した。
ICRAのリツ・ゴスワミ氏によると、20/21年度の電動二輪車の販売台数は合計14万台だった。21/22年度は2倍に増える見通し。リチウムイオン電池を用い、高速走行が可能なモデルは5倍の成長が見込めるという。
同社は、新車販売に占める電動二輪車の割合は24/25年度までに13~15%(台数換算250万~300万台)、29/30年度までに30%(同750万~800万台)に達すると予測。ゴスワミ氏は「22~30年の間に、年平均成長率50%超で伸びる」と成長のスピードを強調した。
「ライドシェア(相乗り)やシェアリング(レンタル)を手掛けるオラ、ウーバー、ボゴ(Vogo)、バウンスなどの企業は、導入を計画している。アマゾンやビッグバスケットなどの電子商取引(EC)各社も導入しているか、電動車を活用する物流企業と提携している」(同社)といい、短期需要の見通しも良好だ。
同じくICRAのシャムシェル・デワン氏は、販売台数の伸びについて「エコカー普及支援制度『EV生産・普及促進(FAME)インディア』第2期の補助金支給と、複数の州政府が導入した政策の恩恵で、所有にかかる費用が減少した」と分析。新規参入が続いていること、各社の生産能力の増強、多数の新製品の発売が控えていることから、電動車が「主流」になりつつあるのは明らかだという。
一方、現在の国際情勢から、「重要な部品、特に電池セルの現地調達率が低いことは、短期的には制約となり得る」と懸念も示した。
(Atul Ranjan)