NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2022, No.86

【アジア・ユニークビジネス列伝】

「スマホ装着で眼病診断」
「ココナツ農家にDX」

それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。


【インドネシア】
スマホ取り付け診断
眼科疾患を早期発見

ウイインクが開発した眼科医療機器「スマート・アイ・カメラ」はiPhoneに取り付けて使用する(同社提供)

ウイインクが開発した眼科医療機器「スマート・アイ・カメラ」はiPhoneに取り付けて使用する(同社提供)

慶応義塾大学・医学部発のベンチャー企業ウイインク(英字名OUI Inc.、東京都新宿区)は1月31日、自社で開発したスマートフォンに取り付けるタイプの医療機器を用いて、インドネシアの病院で眼科の疾患を観察する実証研究を行うと発表した。

同国での実証プロジェクトは初。首都ジャカルタにある国立の小児科・産婦人科病院「ハラパン・キタ病院」と共同で行う。同院は、インドネシアの小児科・産婦人科医療で主導的な役割を果たしているという。

実証研究では、同院の眼科医が新生児に先天性の眼科疾患があるかを観察する。ウイインクが開発した眼科医療機器「スマート・アイ・カメラ」をiPhone(アイフォーン)のカメラに取り付けると、既存の細隙灯(さいげきとう)顕微鏡と同様にまぶたや角結膜、虹彩、水晶体などを観察することができる。電気のない地域や被災地でも場所を選ばずに白内障などの眼科疾患を診断できるのが特長だ。

実証を通じて機器の有用性が確認できた場合は、より大規模かつ本格的な新生児向けの眼科疾患スクリーニング(罹患者や発症可能性のある人を見つける検査)につなげていくことを検討している。ウイインクの清水映輔・代表取締役はNNAのメール取材に対し、実証研究は「まずは数カ月を予定している」と説明。3月から臨床現場での研究を開始できるよう進めているという。

島しょ国のインドネシアでは眼科医療へのアクセスが困難な状況が生まれやすい。国際失明予防協会(IAPB)によれば、インドネシアでは未治療の白内障による失明が原因として最も多く、失明人口は約370万人、視覚障害者は3,500万人に上るという。


【インド】
ココナツ高く売れる
農家DXで所得向上

インドで生産されるコイアピット(ココカラ提供)

インドで生産されるコイアピット(ココカラ提供)

ヤシ殻から生産した有機培土を販売するココカラ(東京都中央区)は、デジタル技術を活用してインドで農業の変革に挑む。独自開発のアプリを用いた農家の育成や、直接取引による農家所得の向上を目指す。

ヤシ殻が原料の有機培土「コイアピット」は、イチゴやトマト、キュウリなどの栽培に用いられる。作土に再利用でき、環境負荷も少ないことから欧州や日本で普及している。

ココカラのコイアピット製品は、世界有数のココナツ生産国であるインドの南部・タミルナド州が産地。相手先ブランドによる生産(OEM)に対応し、主に日本で販売する。年間販売量は約1,500トン。利用する農家の評判は良く、大企業からの受注が増えているという。

しかし、産地であるインドの農業は生産性や農家の所得が低いという課題を抱える。ヤシ農家は「コイアピットの原材料が売れると知らずに燃やしてしまうことがある」(大原秀基最高経営責任者、CEO)ため、環境への悪影響も懸念される。

そこで同社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)事業により課題の解決を目指す。独自開発のアプリを通じた農家の育成と、原材料の生産施設の新設を通じた農家による直接取引の実現が柱だ。

アプリは、農家育成のためのコンテンツや、農家同士でノウハウを共有するコミュニケーション機能を備える。また、遠隔地からでも品質や生産を管理し、農家の売り上げ見込み額も確認可能にする予定だ。

農家所得の低さは、仲介業者やサプライヤーを挟む流通構造にも一因がある。タミルナド州に隣接するポンディシェリに新設する原材料の生産施設では、ヤシ農家がココナツを持ち込み、ヤシ殻のハスク(中果皮)やオイルなどの中身をそれぞれの事業者に直接買い取ってもらえる体制を目指す。

インドの農家が生産したココナツ(ココカラ提供)

インドの農家が生産したココナツ(ココカラ提供)

施設にはIoT(モノのインターネット)デバイスを設置した小型の農業機械を導入。小型を使うことで農家が少量でもココナツを持ち込み、収入を得られるようにする。農家はこれまでココナツ1個を8~10ルピー(約12~16円)で仲介業者に売っていたが、新拠点ではココナツの中身を20ルピーで販売できる見通し。輸送費削減のため廃棄されていたヤシ殻もココカラが買い取ることで新たな収入になる。ココカラにとっては、農家との直接取引で原材料を安く買える。

大原氏は「インドはもちろん、同じようにココナツを生産していて課題があるインドネシアなどの国でも、農家の雇用をつくる事業に取り組みたい」と力を込めた。

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