NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2022, No.86

ビジネス書から語学本まで

アジア本NOW

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心に紹介。NNA編集スタッフが選んだ今号の本は、コロナ禍の日本で暮らす外国人の声をつづった『ルポ コロナ禍の移民たち』(室橋裕和著、明石書店)。


日本 ノンフィクション

ルポ
コロナ禍の移民たち

室橋裕和著

コロナ禍の移民たち

外国人が語るコロナ禍ニッポン

新型コロナウイルス流行後、日本で暮らす外国人はどう生きているのか。そんなテーマを基にアジア人を中心とした移民の暮らしを取材。彼・彼女たちが明かした本音を通して、日本人とは異なる目線で現代社会をのぞく。

著者はアジアと旅を専門にするルポライター。タイに移住経験があり、現在の住まいはアジアタウンとして知られる東京都新宿区の新大久保。そういった経験からか、移民を見つめる視線にはフィルターが掛かっておらず、淡々としながらも温かい。

マスクを高額販売しひともうけを狙うエスニック食材店に、オンライン授業続きで友だちもできず、孤独な留学生活を続ける学生。著者は全国各地を訪ね歩き、時にお裾分けしてもらった各国の郷土料理を頬張りながら、さまざまな事情を抱える移民の声に耳を傾ける。

印象的だったのが、外国人技能実習生として来日後、行き場を失ったベトナム人の文字通り「駆け込み寺」となっている大恩寺(埼玉県本庄市)のルポ。ベトナム人住職を頼りにやってくるのは、新型コロナ禍で解雇された人や、日本人社員のパワハラや暴力に耐えきれず逃亡した人。著者は、彼らの過酷な体験談を紹介しながら、「移民=安い労働力」としか見なさない悪徳業者の実態や外国人技能実習制度のひずみを指摘する一方、「もう少し日本で稼ぎたい」という実習生のちゃっかりとした本音も伝える。

日本に約300万人いるという在留外国人。この3月から新型コロナの水際対策である入国規制が緩和され、足止めされていた技能実習生や留学生たちが日本にやってくる。「移民も日本人と同じようにこの社会で踏ん張っている」という著者のメッセージが、多くの人に届くことを願う。

ルポ
 コロナ禍の移民たち』

  • 室橋裕和 著 明石書店
  • 2021年12月30日発行 税込み1,760円

その他のBOOK LIST

※書籍の紹介文は各出版社の宣伝文から引用(原文ママ)。記載の発行日、発売日、価格(消費税込み)は紙版の情報


中国 地政学 情報通信

『デジタルシルクロード
情報通信の地政学』

持永大 著 日経BP
2022年1月7日発行 2,970円
地政学、安全保障、国際政治におけるパワーの行使という独自の観点から、中国の一帯一路のデジタル分野での取り組みであるデジタルシルクロードの影響力を読み解き、インフラ整備、5G、デジタルプラットフォームの拡大を示すと共に、中国の技術・経済・外交的な影響力拡大の状況と対抗策を示す。

中国 経済 情報通信

『数字中国 デジタル・チャイナ
コロナ後の「新経済」

西村友作 著 中央公論新社
2022年2月9日発行 990円
コロナ禍にあえぐ米欧を横目に、中国はデジタル防疫・経済成長・デジタル金融の三位一体を実現。そこには覇権的な政治体制だけでは説明できない、重要な経済ファクターがある。民間需要を取り込み、政府主導で建設が進む「数字中国(デジタル・チャイナ)」がその答えだ。日本にとってビジネスのチャンスか、経済安保上のリスクか。現地専門家が、ベールに包まれた“世界最先端”のDX戦略の実態を描き出す。

経営 企業

『パナソニックのグローバル経営
仕事と報酬のガバナンス

石田光男、上田眞士 編著 ミネルヴァ書房
2022年1月30日発行 9,350円
日本を代表し、かつグローバル競争の最も激しい渦中にある企業、パナソニック株式会社。その詳細な観察を通じて、社内の詳細な事実を記述、グローバル経営の組織と運営を総括的に明らかにする。日本本社、国内事業部、中国、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インドの海外拠点における開発、生産、販売部門での延べ70回を超えるヒアリング調査により、通常では困難な社内の詳細な事実の記述を可能にした。

韓国 経済 ノンフィクション

『経営者交代
ロッテ創業者はなぜ失敗したのか【続】重光武雄論

松崎隆司 著 ダイヤモンド社
2022年2月1日発売 1,980円
本書は、巨大な企業グループを日韓両国で築き上げた企業家・重光武雄氏(本名・辛格浩)の事業の継続と成功を綴った『ロッテを創った男 重光武雄論』の続編です。事業継続と同じく、経営者の重大な使命である事業承継について、ロッテ創業者の承継プランと失敗のいきさつ、そこからの教訓を紐解きます。

インドネシア イスラム

『現代インドネシアのイスラーム復興
都市と村落における宗教文化の混成性

荒木亮 著 弘文堂
2022年2月10日発行 5,500円
インドネシアは世界最大2億3000万人のムスリムが暮らすイスラーム大国です。世界的に興隆するイスラーム復興がこの国でも起きています。しかし、この国では必ずしもそれが中東や西アジアで起きているような「過激化」や「原理主義化」を意味しません。都会の女性たちはカラフルなヴェールでファッションを楽しんだり、村では非イスラーム的伝統文化も大切にされています。その独特な動態を「構造主義」と「混成性」をキーワードに生活世界の日常性から紐解きます。

ミャンマー 政治

『「不完全国家」ミャンマーの真実
民主化10年からクーデター後までの全記録

深沢淳一 著 文眞堂
2022年1月31日発行 2,970円
衝撃のクーデターから1年。読売新聞アジア総局長として2010年代の激変ミャンマーを取材してきた筆者が、事実を丹念に積み上げ、アウン・サン・スー・チー政権の民政時代からクーデター後まで、10年間の「真実」を詳細に紐解いた迫力の大作。政治・経済から少数民族問題、「新愛国心」など全ての底流を分析し、今後の展開と日本の役割も指摘。

文学論 日中文学

『村上春樹と魯迅そして中国』

藤井省三 著 早稲田大学出版部
2021年12月21日発売 990円
村上春樹の文学世界を読み解く「記号」は中国であると考える著者が、「猫好きの村上春樹」と「猫嫌いで小鼠好きの魯迅」を照らし合わせることで、二人の文学世界を掘り下げる本書。 手掛かりは「魯迅」と「父親の中国戦線従軍体験」。そして「中国文化の村上受容」と「高橋和巳」。比較文学的手法を駆使する著者にいざなわれ、村上文学の深淵をのぞくとき、その先には別の深甚なる世界が待ち受けていた――。村上が中国をどう見て、中国が村上をどう見ているのか。そして中国人は村上文学をどのように読んでいるのか。それらの考察を本書でくまなく展開する。

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