【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─日本への一時帰国編─
新型コロナウイルス禍で、海外に赴任している日本人駐在員にとっては日本への一時帰国も貴重な機会。かつて見慣れていた日本の風景も新鮮に映る。以前は気づかなかった母国の良いところ、悪いところの発見もある。アジア各地の記者たちから届いた「日本への一時帰国」にまつわるコラムを紹介する。
新型コロナ禍の中、海外から久しぶりに一時帰国する日本人駐在員にとっては、日本の見慣れた風景も新鮮に映るもの=2021年10月17日、東京・渋谷(NNA撮影)
タイ
「お客さん、そうじゃないよ。分かってないなあ」。被害妄想かもしれないが、日本のコンビニエンスストアの店員にはそんな風に思われていたのではないか。2年ぶりに一時帰国した日本ではキャッシュレス化が急速に進んでいた。コンビニなどのレジでは、決済の手順が分からず、たびたびまごついた。
2年という月日は短いようで、やはりそれなりに変化がある。最も変化を感じたのはキャッシュレス化だ。諸外国に比べて、現金決済の比率が高いと言われていた日本だが、外食や小売り、鉄道の乗車など、あらゆる場面で現金を使う機会がめっきり減っていた。新型コロナの流行により、接触機会をできるだけ減らそうという動きが、背景にあるのは言うまでもない。
いまだコロナ禍が猛威を振るう中、再び帰国できるのはいつだろうか。その時の日本はどんな風に変化しているのだろうか。(須)
オーストラリア
日本に一時帰国してあらためて痛感するのは、テレビのグルメ番組とお笑い娯楽番組の多さだ。こちらが普段テレビを見ないタチだからかもしれないが、日本のどのチャンネルをひねっても放送されているそうした番組の数々には、いささか閉口させられる。
それは翻って、政治や経済のニュース報道や質の高い情報番組の少なさを示しているのかもしれない。硬派な番組では視聴率が取れないのだろう。だがこうした状況は必然的に、国民の政治への無関心や、お上に対する従順さを育てており、悪循環になっている。しかし恐らく日本政府にしてみれば、それは望ましい状況なのだろう。
コロナ禍や景気低迷、安全保障の危機にあって、政治よりグルメ、国会審議の現実よりドラマの虚構に関心がある国の行く末が、コメディーのような顛末(てんまつ)にならないことを祈る。(西嵐)
台湾
「とうとう日本人の帰国も制限される事態になったのか」。新型コロナウイルスの新変異株に対応するため、国土交通省が日本に到着する全ての国際線の新規予約受け付けを12月末まで停止するよう航空会社に要請したと知り、驚いた。
感染の拡大で帰国時や赴任地に戻る際に一定期間の隔離が必要になり、海外在住の日本人が一時帰国するハードルが上がって久しい。身近には日本の親族に不幸があったが、帰国できなかった人もいる。コロナ前であれば帰国して最期の別れをできたかもしれない。「日本に戻ったらお墓参りに」と話していたが、いつかなうか分からない状況が続いている。
コロナ禍が始まってもうすぐ2年。この間、今いる場所で日々健康に過ごすことが一番と考えてきたが、そうした段階を過ぎた人もいると思う。感染も隔離も心配せず、日本に帰ることができる日が来てほしい。(祐)
タイ
一時帰国中の1月16日未明、これまで聞いたことのないけたたましい着信音で目が覚めた。手探りで探し出した携帯電話の画面には、「津波注意報」「ただちに避難してください」の文字が。驚いてテレビをつけると、どのチャンネルにも警報と津波の映像が映し出された。
15日にトンガ沖で起きた海底火山噴火の影響は、世界の広範囲に及んでいる。タイでは2004年のスマトラ沖地震による津波で犠牲者が出ており、今回は大丈夫なのだろうか。気をもんでいたが、政府が特に影響はないと発表し、ひと安心した。プラユット首相は、災害時に備えて国内の警報システムを確認するよう指示している。
日本に暮らすトンガ出身の友人は、いまだに母国の家族と連絡が取れないという。もし自分が友人の立場だったら、どんなに不安だろう。通信インフラの早期復旧と、現地での被害が大きくないことを祈る。(香)