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ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心に紹介。NNA編集スタッフが選んだ今号の本は、ミャンマーの金融システムの整備に尽力した日本人銀行員が8年間の体験をつづった『ミャンマー金融道 ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日』(泉賢一著、河出書房新社)。
ミャンマー 金融 ノンフィクション
ミャンマー金融道
ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日
泉賢一著
アジアで働く意義を問う、胸熱ノンフィクション
海外の金融機関を立て直した日本人の奮闘記といえば、服部正也氏の『ルワンダ中央銀行総裁日記』が有名だが、それに通ずる熱さを感じるノンフィクションが出版された。
三井住友銀行の行員だった著者は、47歳を迎えた2013年、突然の異動によりミャンマーでのプロジェクトを任されることに。その内容とは、民主化が進められていた同国の、中小企業融資制度の整備を支援することだった。
映画『ハゲタカ』に感化されて始めた英語勉強のおかげで英語能力テスト「TOEIC」のスコアこそ良かったものの、国内業務一筋で、英文メールを書いた経験も皆無。そんな著者が身一つでミャンマーに渡り、現地スタッフと共に融資制度のプロジェクトを推進。のちにヘッドハンティングされ、地場銀行の最高執行責任者(COO)として尽力した8年間がつづられている。
しかし、何しろ相手は「通貨と銀行を信用していない」という国民たち。過去のインフレを教訓に国民は稼いだ現金は貴金属店で金に換えて保有。事業のために銀行から融資を受けるという発想もなく、「端的にいってほとんど金融は機能していなかった」と著者は振り返る。
ミャンマー政府や中央銀行からの要請を受け、日本の民間銀行から派遣されたアドバイザーという立場だった著者は、政府の要人の元に足しげく通っては法制度の整備を提言。銀行を利用したことがない事業者には、顔を合わせて融資制度をアドバイスすべく全国津々浦々に行脚。「金融の現場で働くミャンマー人が望んでいたものは、批判や単なる意見ではなく、『一緒に解決してくれる人』であった」という一文は、アジアで働く多くの日本人に刺さるに違いない。
新型コロナウイルス感染症の流行、そして21年2月のミャンマー国軍によるクーデターのくだりは、著者の無念さが伝わり思わず胸が熱くなる。「アジア最後のフロンティア」と呼ばれていた近年のミャンマーの姿をつづった記録としても価値ある一冊だ。
『ミャンマー金融道
ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日』
- 泉賢一 著 河出書房新社
- 2021年12月20日発行 税込み935円
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※書籍の紹介文は各出版社の宣伝文から引用(原文ママ)。記載の発行日、発売日、価格(消費税込み)は紙版の情報
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