【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─コロナ下の飲食店編─
秋に入ってからの新型コロナウイルス感染者の減少傾向を受け、アジア各国・地域で行動制限などが緩和され、食堂やカフェなどの飲食店に客足が戻ってきている。アジア各地の記者たちから届いた「コロナ下の飲食店」にまつわるコラムを紹介する。
タイでは行動制限が緩和され、営業を再開したカフェには少しずつ顧客が戻っている=9月1日、タイ・バンコク(新華社)
タイ
これもコロナ禍の影響だろうか。行動制限が緩和され、営業を再開したなじみの簡易食堂に久しぶりに入った。注文した焼きそばを一口食べるとひどく辛い。「しまった。注文を間違えたか」とメニューを見直すが、以前から食べ慣れている「いつもの焼きそば」に間違いない。
店の利用客は元々、ローカルと観光客を含む外国人が半々程度だった。外国人旅行者がいない現在、外国人客の利用客は相対的に減る。店員に確かめたわけではないが、外国人客の割合の低下に合わせ、味付けもローカル客向けに変えたのではないだろうか。
舌はひりひり、鼻水はだらだら。本来、あまり激辛料理は得意ではなく、出された焼きそばを完食するのはかなり苦労した。「新型コロナは大なり小なり社会にさまざまな変化をもたらしているのだ」と、しびれた舌を水でうるおしながら、独りごちた。(須)
台湾
「店内飲食が再開してから、一番忙しい」。知り合いの台湾人が運営するカフェはこのところ盛況らしい。台湾では新型コロナウイルス感染症の警戒レベル(第1級が最も緩く、第4級が最も厳格)が5月に第3級に引き上げられて以来、店内飲食が禁止されていた。
知り合いのカフェは店内飲食が禁止されていた間、持ち帰り弁当を提供していた。ただ元々料理を売りにしていたわけではないこともあり売り上げは芳しくなく、「このまま第3級が続けば店が続けられない」と嘆いていた。8月初旬に再開が認められてからも、しばらくは客の入りが悪かったという。
これまでの苦労を知っているだけに、「疲れた」とどこかうれしそうに愚痴る姿を見ているとほっとする。ただバーやクラブはいまだ再開できていない。ワクチン接種率が上昇し、規制緩和が進むのを多くの人が待ち望んでいる。(屋)
フィリピン
「あれ、こんなに高かったかな」。なじみのカフェで注文して引っかかった。商品の値札をよくよく確認してみると、値段が上がっている。日本円にして数十円程度。仕方ないと納得し、購入した。
気になり始めると切りがない。スーパーマーケットで「価格調査」をしてみると、やはり商品は値上げされていた。中でも肉、野菜は跳ね上がっている。地元住民に聞けば、以前から食料品の価格は上昇傾向。給料が伴えば問題ないが、そうもいかない。ただでさえ、新型コロナウイルス禍で庶民の生活は苦しいのに、世知辛い世の中である。
外出制限で「おうち時間」が増え、支出が減っているかと思いきや、インターネット通販などでお金は出ていく。食料品の値上げには敏感なのに、散財は気にならない。物価上昇を気にする前に、都合のいい貧乏性を改善するべきか。(内)
韓国
ソウル市内で「東京牛丼」という店が店舗を拡大している。20年前に東京で食べた牛丼の味に感動したという創業者のパン・ヒョンウさんが、数十回にわたって日本を訪問。レシピや店舗運営など人気の秘密を研究し、2015年冬に自身の店を開業した。 東京牛丼の看板メニューは、もちろん日本風の牛丼。紅しょうがも付いており、「トッパプ(ご飯を覆うの意)」と呼ばれる韓国風牛丼とは一味違う。女性の間でも人気だ。
ところで、ある韓国人女性は、留学先の日本の大学で日本人男子学生から好きな日本料理は何かを聞かれたので、「牛丼」と答えたそうだ。男子学生の反応に違和感を覚えた女子学生は「牛丼店に1人で入っていく女性の姿を連想したのではないか」と恥ずかしそうに当時を振り返る。それ以来、「日本のケーキは最高」などと答えるようにしているという。(碩)
中国
早朝、上海市長寧区の虹橋路沿いにある食堂を訪れた。その食堂は先月オープンし、中国で初めて人工知能(AI)を導入した食堂として話題になったばかり。いかほどAIが活用されているのかかねて気になっていた。
食堂に足を一歩踏み入れると、店員はいなかった。その代わりに傍らではロボットが器用に麺類を調理し来店客をもてなしていた。食堂内には中国定番の朝食である肉まんやかゆ、シューマイなど約30種のメニューが並んでいた。セルフで何種かをトレーにとり会計に進むと、カメラが自動で料理を認識し値段が提示された。決済アプリで支払うと会計が完了した。
料理の味はまずまず。値段も10元(約170円)ほどでリーズナブル。少子化で労働力人口の減少が進む時代、こうした形態の店は今後拡大していくのかもしれない。中国の自動化の波を感じながらおなかを満たした。(東)