【アジア・ユニークビジネス列伝】
「細胞培養で魚肉を食す」
「バス揺られ安眠ツアー」
それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。
【シンガポール】
細胞培養で魚肉を食す
受託製造も世界初認可
アバントが開発する培養魚肉を使った魚のフライ(シンガポール科学技術研究庁提供)
香港系企業でシンガポールにも拠点を持つアバントは、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)と共同で、細胞培養魚肉の研究開発(R&D)を行う。2023年までに同国で試験生産設備も開設し、商用化を目指す。アジアで先駆けて培養魚肉を開発・生産する企業として、将来的に販売を展開したい考えだ。
シンガポールでは代替肉や培養肉の市場が拡大しつつある。代替肉とは植物性原料から製造し、培養肉は細胞培養技術によって人工培養したものを指す。
培養魚肉は魚から採取した細胞を培養して作られる。アバントによると、18年設立の同社はアジアで初めて培養魚肉を開発した企業で、既に魚の細胞を活用した薬用化粧品の商業販売を開始している。
より費用対効果の高い培養魚肉の製造技術開発に向け、科技庁傘下のバイオ処理技術研究所(BTI)と提携。シンガポール中部にあるバイオ研究集積地に共同研究所を開設し、細胞の成長促進や量産などに関する共同研究を行っている。
シンガポール政府が食料自給率の引き上げに向けて細胞培養肉の商用化を後押ししているため、培養魚肉の商業化を加速させる意向だ。
アバントの共同創業者キャリー・チャン最高経営責任者(CEO)は、NNAに「商用化はまずシンガポールで開始する。23年をめどに実現したい。試験生産設備は22年か23年初めに稼働させる」と明かした。将来的には東南アジア諸国や他の地域でも販売する意向だ。
世界で初めて認可
培養肉の受託製造
技術開発が進む中、別のシンガポール企業が細胞培養肉の受託製造開発機関(CDMO)として同国の食品庁(SFA)からライセンスを取得した。同様の事例は世界初という。
認可を受けたのは、老舗ライフサイエンス機器製造のエスコ・ライフサイエンシズ・グループ傘下のエスコ・アスター。今年9月に声明で明らかにした。
ライセンス取得により、商用販売向けの細胞培養肉の受託生産が可能になった。同社はエスコ・ライフサイエンシズが長年製造してきたバイオリアクター(培養槽)を活用し、開発・製造体制を整備。世界に45社余り存在する細胞培養肉関連のスタートアップなどにサービスを提供していく考えだ。
同社は声明で「高品質な細胞培養肉を製造することで『実験室から食卓へ』を実現したい」と述べた。
【動画リンク】アバントによる魚の細胞を増殖させた培養魚肉の切り身でシェフが調理する様子(アバント公式ユーチューブより)
【香港】
お昼を食べたら寝放題
バス揺られ安眠ツアー
香港の旅行会社ウル・トラベルの「睡眠バス」(公式サイトより)
新型コロナウイルス感染症の流行で海外旅行が制限される中、地場旅行会社のウル・トラベルが一風変わったツアーを企画した。「香港人を不眠症から解放する」をコンセプトに、走行中のバスの中で眠ってもらうというツアーだ。
「香港初の睡眠バス」「5時間の妨げられない眠りを」とうたうこのバスツアーは、新界西部の屯門公路や北ランタオ高速道路を中心とした83キロメートルのルートを6時間かけて走る。
バスに乗り込んだ参加者は寝るだけ。フォトスポットの屯門・浩和街とランタオ島の航空機整備エリアでバスが一時停車する際は、降りて写真撮影してもそのまま寝続けてもよい。いくつか設定された降車場所なら途中で降りることもできる。
席種と料金は4つのクラスに分かれ、いずれも乗車前の昼食付き。下階の「ゼロデシベル睡眠席・エコノミークラス」(2席分、睡眠用ギフトセット付き、299HKドル=約4,200円)、上階の「ゼロデシベル睡眠席・ビジネスクラス」(同、329HKドル)、同じく上階の「VIP絶景席」(399HKドル)などから選べる。
インターネット上ではこのツアーについて「バスの振動で眠りにつきやすい」と肯定の声がある一方、「バスに6時間も乗っていると腰痛になるのでは」と心配する人もいるという。