NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2021, No.80

【アジア取材ノート】

インド女性「韓流推し」
トッポギ片手にBTS

韓国ドラマやKポップの人気が世界で高まる中、インドでも10~30代の女性を中心に「韓流」が浸透している。動画配信サイトでは韓国コンテンツの視聴回数が急上昇し、韓国の化粧品や食品に興味を持つインド人も増加。韓国コスメが大手美容通販サイトで人気ブランドとされ、韓国の麺製品の輸入量も前年から倍増するなど、韓流消費の勢いも止まらない。(NNAインド 天野友紀子)

ショッピングモール内の「イニスフリー」の店舗。韓国コスメはインドで一定のシェアを得ている=7月、インド北部グルガオン(NNA撮影)

「韓国ドラマは同僚の勧めで見るようになった。周りに韓国好きがたくさんいるから紹介するわよ」――プリヤンカさんは北部グルガオン在住でIT企業勤務の30代女性。韓流について質問すると、そんな答えが返ってきた。

その後、すぐさまSNS上にグループチャットが立ち上がる。デリー首都圏、南部ベンガルール(バンガロール)、チェンナイにそれぞれ住む、20代のインド女子5人による韓流座談会が始まった。

「インド人の感覚に近い」
韓国ラブコメに胸キュン

通信アプリで交わされたインド韓流女子によるグループチャット(NNA撮影)

韓国ドラマの魅力は、豊富なジャンルとユニークな脚本、細やかな感情表現、全編の短さだ。

ベンガルール在住のプラチさんは「時代劇にアクション、ホラーまで全てそろう。インド人が共感できる感情表現が詰まっている」とコメント。他に「目新しさに欠ける他国のドラマと違い、いつもユニーク」「インド人の感覚に近い」といった声が上がり、5人中2人が「何シーズンも続く米ドラマと違い、20話以下で完結するため時間の投資が少なくて済む」という現実的な理由を挙げた。

彼女らの大半が「初めて韓国ドラマを見たのは学生時代」と語る。2010年代の中ごろ、日本の漫画をドラマ化した『花より男子~Boys Over Flowers』など、韓国のラブコメディーが一部の女子学生に人気だったようだ。

デリー首都圏在住のミーナクシさんは「大学時代は友達の間でもはやっていた。胸キュン系を求める年頃に(韓国のラブコメは)ぴったりだから」と話す。その後は見なくなったが、新型コロナウイルス下で急増した米動画配信大手ネットフリックスのユーザーの間で韓国ドラマの人気が高まっていることを知り、再び見るようになったという。

昨年はインドでも『梨泰院クラス』『愛の不時着』といったドラマがはやった。英調査会社ユーロモニターによると、米動画配信サービス大手ネットフリックスのインドでの韓国コンテンツの視聴回数は昨年、前年比4.7倍に拡大した。

韓国のドラマ制作最大手に出資するネットフリックスは、人気作品の独占配信権を次々に獲得し、ラインアップを充実させた。新型コロナの影響で劇場での上映に至らなかった映画や人気アイドルグループのドキュメンタリー作品などもそろえ、韓流がインドを含む世界各国へと深く浸透した。

インドのマックにBTS
ナゲットソースは韓国風

Kポップでは男性グループ「BTS(防弾少年団)」の人気が群を抜いて高い。BTSは世界の若者に自己肯定感の大切さを呼びかける運動を行っているほか、10代の悩みに寄り添った作品を多く発表している。座談会メンバーによると、彼らが発信するメッセージに共感し、魅了される若者がインドにも多いようだ。

韓国コンテンツの人気が消費に及ぼす影響も拡大している。米ファストフード大手マクドナルドは今年4月、BTSとコラボしたメニューを世界48カ国・地域で展開すると発表。インドでも6月に全土で発売された。その名も「BTSミール」という。チキンナゲット、フライドポテト、コーラのセットメニューで、韓国で人気があるスイートチリとケジャン(マスタードをベースにトウガラシなどの香辛料を利かせたピリ辛風味)の2種類のディップソースが付く。

マクドナルドのBTSコラボメニュー=7月、インド北部グルガオン(NNA撮影)

動画などを通じて浸透しつつあるのが韓国グルメだ。バーラティさんは「ドラマに登場する料理に興味がわき、菜食バージョンの韓国料理をいろいろ試した。トッポギとキムチ、ラーメンが好き」と話す。

大手通販サイトなどで手軽に購入できる韓国の即席麺は、消費量が急増している。「辛ラーメン」で知られる韓国食品大手、農心の昨年のインドでの売上高は、前年比2.3倍の100万米ドル(約1億900万円)に拡大した。

インド商工省のデータによると、韓国からの麺類の輸入量は昨年2.6倍に増えた。韓国製品専門の通販サイト「コリカート(Korikart)」の広報担当者も「サイトでの麺類の販売が4倍になった」と手ごたえを語る。韓国麺の輸入量は、今年も2.8倍になる見通しだ。

「欧米品より手ごろ」
コスメ愛用者は2割

チェンナイ在住のバーラティさんがフォローしているインドの美容系ユーチューバー、ジョビータ・ジョージさん。自身が選んだ2020年のスキンケア商品ベストテンの動画で、韓国のピュリトとシークレットキーの商品を紹介している(NNA撮影)

韓国コスメは女性消費者の関心が高く、既にインドで一定の地位を得ているようだ。

ドイツの調査会社スタティスタによると、2019年7月にインド人女性2,905人を対象に行った「海外のスキンケア商品の利用状況」の調査で、「韓国ブランドを使っている」と答えた割合は18%に上った。米国と回答した30%に次いで2番目に多く、欧州の16%を上回っている。

チェンナイに住む20代の韓流ファン、バーラティさんは「多くの人気ユーチューバーが韓国コスメを紹介していて、昨年から使い始めた」という。お気に入りは「コスアールエックス(COSRX)」や「クレアス(Dear Klairs)」といったブランド。インドの通販サイトがさまざまな韓国ブランドを取り扱っているため「欧米の商品より入手しやすく、値段も欧米ブランドと比べてかなり手ごろ」と話す。

グループチャットで共有された、韓国語とタミル語(インド南部タミルナド州の公用語)の共通点を取り上げた動画。インドの韓流ファンは、韓国語とタミル語の共通点や、韓国料理と南インド料理の共通点を見つけることが楽しみのひとつだという(NNA撮影)

インドの大手美容通販サイト、ナイカの人気ブランドには韓国の「ザ・フェイスショップ」や「イニスフリー」が含まれている。イニスフリーは13年にインドに進出し、全土に約20店の実店舗も展開。「ピュリト(Purito)」や「シークレットキー(secret key)」といったインドではまだ知られていない韓国ブランドも、現地で人気の美容系ユーチューバーに取り上げられるなど、その勢いは止まらない。

自国文化の拡大を図る韓国の政府組織、駐インド韓国文化院のファン・イルヨン(Hwang Il-yong)ディレクターは「大手動画配信サイトで韓国コンテンツの需要が高まる中、インド人消費者もごく自然とそれらを目にし、その文化体験を食品や美容、ファッションへと広げつつある」と指摘する。

同院は映画などのコンテンツを玄関口として、そこで目にする韓国のグルメ、美容、ファッションなどの文化・商品をインドに広めるべく、コロナ禍でも各種オンラインイベントを開催している。

インドで今後も韓流が広まれば、韓国への親近感がインド人の消費に及ぼす影響力はさらに強まると予測される。韓国ブランドの家電、自動車への好感度や信頼感の上昇にもつながりそうだ。

コチュジャン輸出、韓流効果で3割増

韓国の伝統的調味料コチュジャン(ACワークス提供)

コチュジャン(トウガラシみそ)をはじめとする韓国の調味料の輸出額が急増している。新型コロナウイルス感染症拡大による「巣ごもり」中に韓流ドラマなどのコンテンツを視聴し、韓国料理に関心を持つ人が増加したことも輸出増の一因とみられる。韓国経済新聞が伝えた。

韓国の2020年1~9月の調味料輸出額は7,342万米ドル(約77億4,000万円)で、前年同期に比べ31%増加した。このうちコチュジャンは38%増の3,797万米ドルで、19年の年間輸出額(3,766万米ドル)を上回った。コチュジャンの輸出量は08年の4,483トンから19年は1万7,686トンに上った。米国、中国、日本向けが8割を占めるものの、輸出先は106カ国・地域に広がっている。

韓国メディアによると、『梨泰院クラス』などの韓国ドラマが韓国料理への関心を高めているようだ。農林畜産食品省は、世界各国との自由貿易協定(FTA)締結による関税引き下げのほか、企業の海外進出に向けた政府の支援も要因に挙げた。

一方、世界の食品規格に携わる国際食品規格委員会はこのほど、韓国政府が提案したコチュジャン規格を国際規格に採択した。

(NNA韓国版 20年10月20日付より)

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