【アジア・ユニークビジネス列伝】
「火葬ビジネス拡大」
「海外展示会を再現」
それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。
【フィリピン】
墓地の不足を救う
火葬ビジネス拡大
木下築炉が民間霊園と組んで建てたカビテ州タンザの火葬場(同社提供)
東南アジア最大のキリスト教国で土葬が主流のフィリピン。墓地が不足する中、築炉工事などを手掛ける木下築炉(大分市)は、首都圏周辺のカビテ州で火葬炉の1号機を近く稼働させる予定だ。火葬関連ビジネスを開拓し、販路の拡大を目指す。
フィリピンは人口の9割弱をキリスト教徒が占める。キリスト教は「最後の審判で死者が復活する」との教えから土葬が多い。マニラ首都圏などの都市部では土地不足から、石材を縦に積み上げた墓がぎっしり並ぶ墓地もある。
近年は、安価な火葬を選択する人が増加している。土葬の場合、棺おけや墓地用地などを含めた葬儀費用は10万ペソ(約23万円)ほどかかるが、火葬ではその5分の1ほどで済む。維持費がかさむため土葬した遺体を改めて火葬する例も増えているようだ。
新型コロナウイルス感染症の流行も火葬を促す。政府は昨年、コロナが死因の遺体は原則として死後12時間以内の土葬か火葬を義務付けた。地方自治体は火葬場の設置を進め、上院では設置・運営に関わる法案も提出された。
木下築炉は民間霊園と組み、カビテ州タンザに火葬場を建てて自社の火葬炉を設置した。当局の許可が下りれば本格稼働できる状態にある。安樂真澄社長は「コロナ拡大の影響でずれ込んでいるが、近く稼働できそうだ」と明かす。
火葬炉の販売は地場や中国、韓国の企業が先行しているが、稼働率上昇で機械の問題も発生しているようだ。安樂氏は「入れ替えを検討しているとの相談が増えた」と指摘する。
木下築炉は2019年2月に現地法人を設立。日本の本社では人用の火葬炉を製造していないため、ペット用を拡張して人用に改造。価格を抑え、フィリピンでの販路拡大を目指している。(NNAフィリピン 大堀真貴子)
墓地不足で積み上げられた墓=2020年、マニラ市(NNA撮影)
【香港】
行けない海外展示会
取引先を呼んで再現
再現した展示は2日間で約360人が来場した=6月16日、香港・茘枝角(NNA撮影)
海外で開かれた大型展示会での自社展示を、形そのままに香港で再現する――。ニットの横編機で世界トップシェアを誇る島精機製作所(和歌山市)がユニークな試みを行った。
渡航制限で展示会を見に行けない香港の取引先に、「同じ出展品」を「同じタイミング」で見てもらう狙い。新型コロナウイルス感染症流行の制約を受ける展示会の機能を、企業自ら補完する新たな方式として注目されそうだ。
島精機は6月15、16の両日、九龍地区・茘枝角で展示会「シマ・クロステックス2021」を開催した。これは同12~16日、中国・上海市で開かれたアジア最大級の国際繊維機械展示会「ITMAアジア」で同社が行った展示を完全に再現したものだ。
現在、新型コロナの感染がほぼ収まった中国本土では大型展示会を開くことができる。ただ、隔離を伴う厳しい水際対策のため、海外出展者やバイヤーの参加は難しい。同社は、ITMAアジアに参加できない取引先のために香港での展示を企画した。
島精機(香港)の梅田郁人・最高経営責任者(CEO)は、同じ展示会方式で日程も重ねた理由について「今回の最新機種はITMAアジアに合わせてリリースした。香港の取引先にも同じタイミングでいち早く見てもらいたかった」と説明する。
会場には、地場企業をはじめ香港に拠点を置く日本や欧米のアパレルメーカー、ブランド、商社などから2日間で約360人が来場。実際にサンプルに触れた来客は「最新機種がこれまでとは全く違う機能を持つことがよく分かった」と満足げに語った。