NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2021, No.79

【新連載】アジアSNS・リスクウオッチ

第1回 噴火が世界で激増
    火山情報をつかむ

今月から連載させていただく株式会社Spectee(スペクティ)の根来諭と申します。当社は危機を可視化して人々を災害や事故から守ることをミッションとし、リアルタイム防災・危機管理ソリューションを提供しています。日々、SNSを介してさまざまな危機事象を見つめている立場より、アジア各国のSNSからどのようなことが読み取れるのかを紹介していきたいと考えています。

読者の皆さまにも日々、SNSに親しんでいる方がおられるかと思いますが、SNSの登場前と後で、情報の流通構造は大きく変化しました。

以前は、大きな事故が起きると報道機関がカメラを持って現地に乗り込み、ニュース素材に仕上げ、テレビや新聞を通して報道されることで初めて人々の知るところとなりました。しかし現在では、スマートフォン(スマホ)を持ち歩く全員がカメラを持った記者のようなものと言えます。現場の情報が、SNSを介して瞬時に世界中に向けて発信されるのです。「リアルタイム性」と「現場性」が最大の特徴と言えるSNS。これを使いこなすことは、現代社会を生きる上で大きな武器となります。

そのため当社では、自然災害や事件・事故が発生した際にツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどのSNSに投稿された画像やテキストを収集・解析し、気象データやカメラ画像、交通情報などと組み合わせてお客様に提供。“現場で何が起きているか”をリアルタイムに覚知できる「Spectee Pro」というサービスを行っています。

「火山」の投稿急増
世界中で活動顕著に

連載1回目のテーマは「火山の噴火」です。飛行機の運航に大きな影響を与え、溶岩流が人の住むエリアに迫ることもある自然災害の一つです。スペクティでは、世界中の火山噴火のSNS投稿についても収集・配信を行っていますが、2021年の3月、4月に配信数が急増していることに気がつきました。

あくまでスペクティが収集して配信したSNS投稿の数ですので、実際の噴火回数や規模を必ずしも表すものではありません。しかし「SNSの投稿が多い」ということは、それだけ人々の注意を引き付けているわけですので、「その噴火が人間社会に与えるインパクトの大きさ」に比例するものと考えられます。

上の棒グラフは月別の配信件数です。20年7~11月は非常に落ち着いていた配信数ですが12月から増え、特に21年3、4月で跳ね上がったことが見て取れます。

グレー色の部分が日本国内の配信で、このうち多数を占めるのは鹿児島県の火山・桜島です。世界でも類を見ないほど人々の日常生活に密着した距離にあることから、SNSでの投稿も多くなります。

次に、配信件数が多かった火山を世界地図上に表しました。

地図に「~倍」とあるのは、20年5月~21年2月の期間に比べて、21年3~6月の配信件数(月平均)が何倍に増えたかを表しています。

アイスランドのファグラダルスフィヤル火山、コンゴ民主共和国のニーラゴンゴ火山はそれまで噴火がなく新たに活動を始めたため「-」としていますが、どの火山も軒並み活動を活発化させていることがわかります。

アジアを見ると2~9倍に増加しました。「環太平洋火山帯」の火山活動が活発化し、それが日本からインドネシアに至るエリアでも噴火という形で現れたということができます。

各地の火山の噴火の様子は、どのようにSNS上に投稿されているのでしょうか。東南アジア・インドネシアの火山を筆頭に、簡単な解説とともに紹介します。

スマトラ島で400年ぶり
世界遺産に影響の噴火も


[インドネシア]

シナブン火山は、スマトラ島北部に位置する標高2,460メートルの活火山です。400年以上も目立った活動はありませんでしたが、10年に大きな噴火を起こして近隣住民1万8,000人が避難する事態となりました。その後は13年から毎年噴火し、今年3月には噴煙が上空5,000メートルに達する大きな噴火がありました。今年7月現在、火山から半径5キロメートル以内に居住者はおらず、特に大きな人的・物的被害や、航空便への影響は出ていません。SNSでは、噴煙が派手に吹き上がる様子を捉えた動画や写真が、感嘆の声とともに多く投稿されました。
 ムラピ火山は、ジャワ島中央部にあるインドネシアで最も活発な火山です。歴史的にも何度も噴火を繰り返し、犠牲者を出してきました。近くのジョクジャカルタには世界遺産のボロブドゥール遺跡がありますが、大きな噴火があると火山灰から保護する目的で閉鎖を余儀なくされることから、地元の観光産業にも影響が出ます。夜の闇の中、真っ赤な溶岩流が流れ落ちるさまを捉えた動画がSNSに投稿されました。

スマトラ島のシナブン火山。数百年ぶりに活発化(スペクティ提供)

ジャワ島のムラピ火山。近くには世界遺産がある(スペクティ提供)

[フィリピン]

噴火したタール火山。一時、周辺の避難住民は1万人を超えた=7月7日、フィリピン・バタンガス州(NNA撮影)

タール火山はルソン島に位置する火山で、1977年の大規模な噴火から長らく静かだったものが、昨年より活動を活発化させています。約1,300万人を擁するマニラ首都圏からは南に約50キロメートル。人口密集地からほど近く、降灰による社会生活の停滞や航空機の運航への影響、噴火に伴う大気汚染など直接的に影響を受ける可能性が高いことに注意が必要です。SNSには、街が灰に覆われた様子が多く投稿されました。



[北朝鮮・中国]

前述の地図にありませんが、見逃してはいけないのは北朝鮮と中国の国境に位置する白頭山(ペクトゥサン、標高2,744メートル)です。これまで千年周期で大噴火を繰り返したとの研究結果があります。西暦964年に噴火してから1,000年以上が経ち、噴火の予兆も見られることから警戒が必要です。
 もし大噴火が起きると、北朝鮮と中国東北部では火山灰や溶岩流などで壊滅的な被害が出るほか、韓国ほぼ全域が火山灰に覆われると予想されます。日本でも中国地方を中心に火山灰が1センチメートル以上降り積もるとのシミュレーション結果が、韓国・釜山大学により発表されています。また、火山による直接的な被害に限らず、北朝鮮と中国の情勢を激変させるという意味で国際政治的なリスクもはらみます。

[コンゴ民主共和国、アイスランド、メキシコ]

ニーラコンゴ火山は、アフリカ中部・コンゴ民主共和国の東境部に位置。1977年に約70人、2002年に約150人の死者が出ましたが、今年5月22日の大規模噴火では約30人の死者に加え、東部の主要都市であるゴマ市街地に溶岩が迫り、約40万人が避難を強いられました。SNSにも溶岩が迫る非常に緊迫した動画が投稿されています。
 アイスランドの首都レイキャビク南西のファグラダルスフィヤル火山は、今年3月に大噴火しました。実に800年ぶりです。10年、同国で別の火山が噴火した際は欧州の空の交通が大いに乱れましたが、今回は影響が少ないとのことです。溶岩でソーセージを焼く動画がSNSに投稿され、話題になりました。
 ポポカテペトル火山は、メキシコ南部プエブラ州にそびえる標高5,426メートルの火山です。見た目が富士山に似ているため、日系人からは“メキシコ富士”と呼ばれることもあるとか。16世紀の噴火以来、15回大きな噴火が確認されており、昨年末から再び活発化しています。

コンゴの市街地に迫る溶岩(スペクティ提供)

溶岩でソーセージを焼くアイスランドの人々(スペクティ提供)


「メキシコ富士」の異名を持つ火山(スペクティ提供)

噴火場所は特定できる
発災時の行動の想定を

最後に、日本における火山噴火のリスクを説明します。1707年の宝永大噴火を最後に300年以上平穏な時期が続いているものの、われわれは富士山が活火山であることを忘れてはいけません。

富士山については今年3月、静岡、山梨、神奈川県などでつくる「富士山火山防災対策協議会」が噴火被害を想定したハザードマップの改訂版を公表しました。新たな知見が反映され、視覚的にも分かりやすくなっています。近隣の方は必ず目を通すようお薦めします。

噴火の予測技術や知見は進化を遂げていますが、時期や規模の正確な予測はまだ難しい状況です。しかし、噴火が起きる場所は特定されており、発災時の行動を想定しておくことは地震と比べれば容易かと思われます。日本においてもアジアにおいてもハザードマップを確認し、あらかじめ備えておくことが重要であることは言うまでもありません。

自然災害は、予測することが難しいものと、ある程度は可能なものがあります。前者で代表的なのが地震で、後者は先行して降雨がある水害や土砂災害などです。火山は突然の噴火もありますが、徐々に活動を活発化させて噴火に至る場合が多く、後者に近い自然災害と言えるのではないでしょうか。前兆としての活動の活発化に目を光らせておくとともに、現在では噴火による現地の状況をSNSでリアルタイムに確認することができます。新しい情報ソースとして、SNSをリスクマネジメントに活用してみてはいかがでしょうか。

[日本]

鹿児島県の錦江湾(鹿児島湾)に浮かぶ鹿児島のシンボル、桜島。約2万5,000年前に誕生し、17回の大噴火の末に現在の形になりました。日本で最も活動的な火山と言われ、今でも毎日のように小規模な噴火を繰り返しており、現地に住む方々には噴火や火山灰も生活の一部です。人口密集地(鹿児島市)に近接しているのは、世界的にも珍しいと言えるでしょう。
 御岳・諏訪之瀬島は、鹿児島県トカラ列島に属する火山島。現在も数十人の住民が島に住んでいます。1813年の大噴火では溶岩流が西海岸まで達し、全島民が避難、1883年まで無人島となった歴史があります。昨年末から活発化し、今年3月5日には気象庁が「諏訪之瀬島の噴火警戒レベルの判断基準」を更新・公開しました。
  浅間山は、長野県と群馬県にまたがる標高2,568メートルの火山。この200年ほど甚大な被害をもたらす大噴火はないものの、日本における最も活動的な火山の一つに数えられます。昨年6月下旬から活発化しているとして、気象庁は噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から、2(火口周辺規制)に引き上げました。

鹿児島市内に近接する桜島(スペクティ提供)


根来諭(ねごろ・さとし)

株式会社Spectee(スペクティ)取締役COO兼海外事業責任者。ソニーで日本、フランス、シンガポール、アラブ首長国連邦での事業管理とセールス&マーケティングに従事。中近東アフリカ75カ国におけるレコーディングメディア&エナジービジネスの事業責任者を経て2019年、スペクティ参画。福島県郡山市での東日本大震災の被災、パリ駐在時の同時多発テロ、危険度の高い国への多くの出張などの実体験を生かし、防災・危機管理の世界をテクノロジーで進化させることにまい進している。


<Spectee>

リアルタイム防災・危機管理情報ソリューション「Spectee Pro(スペクティプロ)」を提供。人工知能(AI)などの最先端技術を活用してSNS・気象データ・交通情報などのビッグデータを解析し、災害・事件・事故など危機管理に関する情報を数多くの自治体や民間企業に配信している。「危機」を可視化することで、全ての人が安全で豊かな生活を送れる社会の創造を目指している。

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