【インフルエンサーinアジア】
中国トレンドを日本から発信
才色兼備のユーチューバー
レイレイさん(中国)
SNSで多数のフォロワーを持ち、強い影響力を持つインフルエンサーが注目を集める昨今。そんな彼・彼女たちの中から、日本とアジアをつなぐインフルエンサーをご紹介。(取材=NNA東京編集部 古林由香)
1984年、中国四川省南充市生まれ。北京師範大学卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)北京事務所に入構。その後、一橋大学大学院で修士課程を修了し、2010年に野村証券に入社。ゲームソフト開発会社のネクソンを経て、15年に「シンフロンテラ」(東京都千代田区)を設立し代表取締役に就任。訪日中国人を対象にしたインバウンド旅行や日中のビジネスマッチング、同時通訳、調査、コンサルティング業務などを手掛ける。16年より航空券販売サイトを運営するアドベンチャー(東京都渋谷区)の社外取締役。「今年で日本在住は15年目。中国に帰るとよく日本人ぽいと言われます(笑)」
Twitter : レイレイの中国トレンド(@leirleirr) 1,139人
leileiの中国エンタメ(@leilei_CPOP) 1,114人
※登録者(フォロワー)数は21年7月27日現在
騰訊控股(テンセント)、阿里巴巴集団(アリババグループ)といったIT企業を筆頭に、次々と革新的なトレンドを生み出している中国。そのダイナミックな動きを、流ちょうな日本語で鋭い分析と等身大の見解を交えながら伝えているのが、東京在住の中国人ユーチューバー、レイレイさんこと雷蕾(れい・れい)さんだ。
四川省出身で、名門の北京師範大学で日本語を専攻。日本貿易振興機構(ジェトロ)や野村証券でキャリアを積み、現在は起業家として多忙な日々を送っている。そんな彼女がなぜユーチューバーになったのか。朗らかな人柄の中に忍ばせた、強い信念を語ってくれた。
――日本に興味を持ったきっかけは?
レイレイ 最初のきっかけはアニメでした。子どもの頃、地元のテレビ局では『ドラえもん』『聖闘士星矢』などが放送されていて、学校から戻ると必ず見ていました。中学生になってからは漫画や星新一さんの小説を読み始め、高校時代は宇多田ヒカルさんの歌にハマって。「First Love」を聞いた音のまま中国語に置き換えて歌っていましたね。
ずっと日本のコンテンツに触れているうちに、「日本人と直接交流してみたい」という思いが湧き、大学では日本語学科を専攻。きちんと勉強するのは初めてで、「あいうえお」から始めました。新歓パーティーのような集まりで宇多田さんの曲を歌ったのですが、先輩たちに「歌詞が全然聞き取れない」と言われたちょっぴり苦い思い出があります(笑)。
初めて日本に来たのは3年生だった2004年。猛勉強して学年で成績1位になり、交換留学制度の資格を得て広島大学で1年間学びました。
――大学卒業後、ジェトロの北京事務所に入所した経緯は?
レイレイ 留学を終えた後、もう一度日本に留学したいと思い、4年生になっても就職活動を本格的にしていなかったんですが、たまたま行った企業の合同面接会でジェトロの面接を受けたら、とんとん拍子で決まりました。どんな団体かあまり知らずに受けていたので、あとで学校の先生に「いいところですよ」と言われて、「そうなんだ」と(笑)。
所長秘書的なポストだったんですが、30人ちょっとの規模だったので、何でも屋さん(笑)。各種展示会の手伝いや、国際ビジネス情報誌『ジェトロセンサー』のための中国地方調査、企業インタビュー、レポートの執筆といった業務も任されていました。
1年ほどでジェトロを退職し、一橋大学大学院に留学。商学研究科で経営マーケティングコースを学び、修士課程を修了後に野村証券に就職しました。いわゆるピンポン(飛び込み)営業をする自信はなく(笑)、法人向けの投資銀行部門を希望し採用されたんですが、大企業の経営陣の方や、アジア、中東、アフリカ各国・地域の財務省や中央銀行といった普通の仕事なら会えないような方々を相手に、グローバルな仕事ができました。おかげで肝が据わり、ちょっとしたことでは動じなくなりました(笑)。
――その後、東京で起業したきっかけは?
レイレイ 野村証券時代は、業務で中国と関わることがあまりなく、母国語なのに下手になったなと感じるほど中国から遠ざかった生活をしていました。また、以前から起業の夢があり、中国と関連した事業をやろうと会社を設立しました。
中国の富裕層向けの訪日ツアーをオーダーメイドで手掛けるインバウンドがメイン業務で、派生業務として翻訳や同時通訳、調査コンサルティング、イベント運営などもやっていました。新型コロナウイルス流行後は、オンラインでの日中ビジネスマッチングや、日本の地方自治体の市場調査なども手掛けています。
中国のSNSで600万人のフォロワーを持つテンセント出身のインフルエンサーで、現在は日本在住の蘭さんを迎え、テンセントの社内事情を語った動画。給料や福利厚生など、リアルな情報が視聴者から高評価を得た。中国語と日本語、両方の字幕があり語学勉強にもおすすめ。「作業的には手間が掛かりますが、学習の助けになったらいいなという思いで、できるだけ字幕を付けています」
中国人のリアルな声を届けて
「知らない怖さ」を解消したい
――20年3月にユーチューブに「leileiレイレイの中国トレンド 」を開設したきっかけは?
レイレイ 野村証券で勤務していた時、ユーチューブで英会話を教えている“バイリンガール”こと吉田ちかさんのことを知って、「自分も中国語バージョンができるかも」とずっと関心を持っていました。そんな中、コロナ禍で旅行関連のビジネスが一気になくなり、突如生じた時間で今しかできないことをやろうと始めました。
――チャンネル登録者の属性は?
レイレイ 7対3で男性のほうが多いですが、数カ月前に『創造営2021』という中国のアイドルオーディション番組について取り上げるようになってからは、女性が増えてきています。男性の場合は、動画のコメント欄を読む限りでは中国を訪れたことがある方や、仕事で関わったことがある方が多いのかなという印象です。国籍的には9割が日本人の方です。
――動画制作で重視していることは?
レイレイ 始めた頃は、いろんなことを説明したいがために情報を詰め込んでいたのですが、最近は情報をキュレーション(収集・選別)した上で、ポイントを絞って伝えています。動画を作る際は、事前に情報収集をかなり細かくやっていて、「大変では?」と言われることも少なくないのですが、そこを評価していただき、調査やコンサルの受注につながったこともありました。
また、単なる情報で終わらないように、出来事の背景の説明や、私自身や知人たちの考えや実体験をリアルに伝えるようにしています。コメント欄に以前、こんな書き込みを頂いたことがあるんです。「自分の周辺でも中国人が増えているが、自分は中国語ができないし、交流ができなくて怖い」と。分からないこと、知らないことが怖さにつながるのは私もよく分かっているので、日本在住の中国人の声をお伝えして、その怖さを少しでもなくしていけたらなと思っています。
――やりがいを感じるのはどんな時? 逆に、苦労を感じる時は?
レイレイ 動画の趣旨が視聴者の方に伝わった時は、達成感がありますね。あと、ユーチューブを通じていろんな方と交流ができるのもうれしい点。新型コロナが収まったら 視聴者の方たちとオフ会をやってみたいです(笑)。
苦労という感覚とはちょっと違いますが、始めた当初、再生数が伸びなかった時はモチベーションの維持が大変でした。(攻撃的なコメントをする)アンチに慣れるのには時間がかかりましたが、ユーチューブでは避けて通れないことですし、私はちゃんと責任を持って発言したいので、アンチの問題は苦労には入りません。強いて苦労を言えば、字幕制作や編集作業がたまに大変、という程度です(笑)。
2008年に起きた四川大地震について取り上げた動画。被災し両足を失ったものの、義足を付けダンサーとして活躍を続けている廖智(りゃお・ちー)さんを紹介した。「動画を見たとある視聴者が、感動したと彼女の絵を描いて私に送ってくれました。その気持ちがうれしくて、彼女のSNSにダイレクトメッセージで絵を送ったら、その絵を自身のSNSにアップしてくれて。双方の気持ちをつなげるきっかけになった、思い入れのある動画です」
中国トレンドは摩訶不思議(笑)
社会の縮図として見ると面白い
――ツイッターでも情報を発信していますね。
レイレイ 中国のトレンドを毎日タイムリーに伝えたいと思い、2つのアカウントを運用中です。「レイレイの中国トレンド」では一般的なトレンド、「leilei_CPOP」では私が最近、オタクとしてはまっている(笑)多国籍アイドルグループのINTO1(イントゥーワン)を中心としたアイドルに関する情報をお伝えしています。
――レイレイさんが思う、中国の最新トレンドの面白さは?
レイレイ 私たちからしても、中国のトレンドの移り変わりはとにかく早く、一見ちょっとクレイジーだったり、理解できないものも多々ありますが(笑)、中国で何が起きているのかを知ることができるいわば社会の縮図。なぜそのトレンドが起きたのか、その背景を分析することで、これからの中国を予想することもできる。そんな面白さがあると思います。
――ユーチューバー活動について、四川にいるご両親や友人の反応は?
レイレイ どんなことでも応援してくれる両親で、活動についても気に掛けてくれています。ただ、基本的に中国ではユーチューブが見られないので、私から直接、やっている内容などを知らせています。それを両親が個人のSNSでシェアしてくれていて、うれしい限りですね。
周りの友人は、始めた当初で再生数が全然伸びない時も「坚持就是胜利(継続は力なり)」と、いつも励ましてくれたり、動画にゲスト出演してくれたりしていました。最近は視聴者数も増えてきたこともあり、「良かったね」とすごく喜んでくれています。
――インフルエンサーとしての今後の目標は?
レイレイ 中国のトレンドや、中国と日本の比較について、偏りのない視点で生の声を発信しているユーチューブチャンネルとして認識してもらえるよう頑張りたいです。
実は、ユーチューブを始めたきっかけの一つは、新型コロナで中国のイメージがまた悪くなってしまったなと実感したからなんです。中国のお客さんを連れて日本各地を回っていた時も、一部の方から良くない印象を持たれているのを感じてはいましたが、新型コロナでそれが強まり…。とてもつらかったです。
私自身が新型コロナのような大きな出来事に意見をする権利はありませんし、「中国」や「中国人」など大きな主語で語ると、一概に言えないことが多々生じます。ですので、私の動画では個人個人の声を伝えることを大事にしています。動画を通じて、「こういう人、こういう意見もあるんだ」というのを知っていただけたらうれしいですね。
きれい事に聞こえるかもしれませんが、日中両国をつなげるために、自分にできることをもっとやっていきたいです。今年で日本在住が15年目になりました。少なくとも今後10年は、引き続き日本を拠点に頑張っていくつもりです。
日本人メンバーも所属する中国発のアイドルグループ、INTO1の活動を定期的に紹介。最新情報をいち早く知れるとファンに好評だ。「彼らがとあるバラエティー番組に出演したところ、日本人メンバーが映る分量が極端に少なく日本のファンの間でちょっとした騒ぎに。なぜそうなったのかを冷静に分析してお伝えしたところ、『自分も冷静になれた』というコメントを頂けてほっとしました。インフルエンサーの世界では炎上商法も存在しますが、やはり伝える側として冷静さが大事だと思います」