【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─動画編─
スマートフォンで動画などを見る生活はアジアの市民生活に浸透している=5月29日、中国・重慶市(新華社)
韓国
韓国のとある小学校の給食時間。キムチを床に落とした児童の前にカメラを近づける教師。韓国教育省によると2019年時点で、動画チャンネルを個人で運営している教師は934人。アップロードされたコンテンツには、モザイクのかかっていない児童の顔や実名が露出されたり、相談の内容まで流れたりして、批判の声が上がっている。児童は何の危機意識なく、ただ撮影を楽しむだけ。
学校としては、児童たちの元気な姿をアップすることで、イメージアップにつなげたいのだろう。「校内での先生の動画撮影は止めるべきだ」という意見には、表現の自由に反すると言う人も。
だが児童の個人情報を守るのは基本的な人権問題。授業時間に撮影まで行うと、教育の本質をおろそかにしてしまう。教師はカメラを意識して授業するより、児童にきちんと向き合うべきではないだろうか。(智)
シンガポール
当地の政治家は、会員制交流サイト(SNS)を積極的に活用している印象だ。多くの閣僚らが、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターなどで個人アカウントを持っている。住民に対する政策の呼び掛けや活動報告のほか、最近読んだ本など普段のちょっとした話の投稿も目にする。
先日は、ある閣僚が24時間限定で画像や動画を投稿できるインスタグラムの機能を使い、フォロワーから質問を募集。その後、同じ機能を通じて可能な限り質問に答える動画を公開していた。新型コロナウイルス関連の規制など、センシティブに思える質問にも丁寧に回答しており、彼への信頼度も上がったように思う。
こんなふうに一般人が閣僚に対して個人的に、かつ気軽に質問できるようになるとは。SNSのおかげで、遠い存在のはずの政治家が少しだけ近くなったように感じた。(真)
インド
ムンバイ都市圏でゲームセンターを運営するバンダイナムコから、「営業再開」といううれしい連絡をもらった。昨年は9カ月も営業を停止。第2波で、今年も店を閉めていた。送られてきた動画には、笑顔で手を振って客を迎え入れる店員の姿が。現場の喜びは、ひとしおだろう。
新型コロナで最も打撃を受けているのは、さまざまな実店舗だ。特に映画館は、ネット配信に完全に取って代わられた感がある。
インド人の同僚に、聞いたこともない日本のドラマを勧められて驚いた。周囲の日本人も「知らない」というそのドラマは、大手動画配信サイトを通じて180カ国以上で独占配信されていたのだ。全世界への配信網があるのだから、莫大(ばくだい)な予算で超大作を作ることも簡単だろう。
どうする、映画業界。でもやっぱり、映画は映画館で見たいよ。そんな価値観が、絶滅危惧種でありませんように。(天)
中国
中国の配信番組に出演した。中国IT企業主催の音楽番組が海外のオンライン観覧希望者を募集しており、応募したところ運よく当選。公演会場は海南省だが、こちらが日本でスマートフォンで自撮りした動画を基にアプリでアバター(分身)を作り、会場にいるがごとく合成して配信するという。
どうなるか見当がつかないが、開発中だというアプリを指示通りダウンロードし、他の観覧希望者も交えて本番1週間前から連夜みっちりリハーサル。さぞや精巧なアバターができるはずと期待が膨らんだ。
そして本番当日。アバターは確かに会場にいて、中華アイドルと共に画面に映った。だがサイズは米粒程度で、4時間の生放送中に映った時間は計5秒。労力対効果の低さに力が抜けたが、企業側の担当者は「大成功!」と満足したもよう。何はともあれ、中国IT企業の勢いを体感した出来事だった。(由)
インドネシア
「外国人もワクチン打てるんだって?」。インドネシアの知人から連絡が来た。「気をつけなよ」と、添えられていた。
首都ではワクチンの接種範囲が広がっている。この知人もワクチンを打てるが、「ワクチンは怖い」と言って接種を拒んでいる。ワクチンに対する市民の不安はいまだに払拭されておらず、5月中旬まで首都で行われていた民間調査では、回答者の3分の1が副反応への懸念を示した。この知人の場合は副反応の心配というよりも、「新型コロナは大して危険がないから無意味なワクチン接種は害悪」という論理だ。
こうした話をする際は情報源不明のテキストや動画を根拠として転送してくる。政府はコロナ関連の偽情報を取り締まっているが一向になくならない。外出自粛でスマホばかり見るようになったという知人に、顔見せがてらワクチン接種を勧めてくるか。(幸)