NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2021, No.77

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─ワクチン接種編─

シンガポールでは、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されて以来、深刻な副反応の事例も報告された(PHOTO: ST FILE)

シンガポールでは、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されて以来、深刻な副反応の事例も報告された(PHOTO: ST FILE)

シンガポール

新型コロナウイルスの2回目のワクチン接種を受けてきた。1回目と同様、近所の公民館に出向いたが、2回目ということもあってか、接種前の問診はほぼなく、順番が来て椅子に座ったら1分以内に注射針を刺された。30分の経過観察後は、速やかに家路についた。

数時間後に注射部位を中心に少し腕が重くなったほか、全身に軽いかゆみを生じただけで、翌日以降は体に異常を感じることはなかった。2回目の方が副反応が重いと聞いていたが、自身はそうではなかった。

足元では経路不明の市中感染が出ており、ワクチン接種者や既感染者の陽性も判明している。ワクチン接種済みとはいえ、油断は大敵だ。集団免疫を得るには、接種率が7割以上に達する必要があるといわれている。4月半ばの発表では、当地で2回目の接種を終えたのは約15%。まだまだ低い水準といわざるを得ない。(樹)


フィリピン

「目が回ってひどい倦怠(けんたい)感に襲われている」。2日前に新型コロナウイルスのワクチン接種を完了した当地の友人から、気掛かりな連絡が来た。基礎疾患があるため優先対象に含まれており、先月に1回目の接種を終えた。重い副反応は初めてという。似た症状が出た高齢者の知人は、ココナツ飲料を大量に飲んで乗り切ったとか。頭痛もあるが熱はなく「鎮痛剤を飲んで様子を見る」と疲弊しているようだった。

ドゥテルテ大統領は3日夜、中国製の新型コロナワクチンを接種した。接種前の動画が公開され、多くの国民が関心を示したようだ。安全性を宣伝する思惑もあるが、どこまで響くか不透明だ。

倦怠感に襲われた友人は接種自体に初めから前向きだったものの、中には政府による無料接種をためらっている知人もいる。ただ望んだところで、接種が可能になるまでしばらく時間が掛かりそうだ。(堀)


台湾

「コロナウイルスワクチン接種中」。病院で順番待ちをしていたある日、斜め前の診察室の扉にかかった札を見て今更気がついた。毎週通っている診察室の隣は自費接種を対象とする接種会場だった。

台湾で現在ワクチンの自費接種ができるのは、仕事や留学に加え、医療を受けることを目的に海外へ行く必要がある人。見渡すと、その診察室の前の一角は私の座っている場所よりも年齢層がやや若めか。まず隣の診察室で医師の診察を受けて、同意書にサインをしたら接種が受けられるという流れらしい。そばにはボランティアスタッフが3人も控え、同意書の記入などを手助けしていた。

自分もいつかは接種することになる。つい気になって見つめていると、ボランティアスタッフが視線に気付き、優しくほほ笑みかけてくれた。「その際はどうぞよろしく」。そう心の中でつぶやいた。(屋)


マレーシア

グルメでオシャレ好き、毎年の海外旅行を欠かさなかった華人の女友達から久々に連絡が来た。「新型コロナウイルスの流行が始まってから友人に会っていない」「5カ月間実家に帰っていない」「同僚からランチに誘われても断って、毎日1人で食事している」。感染対策としては百点満点だが、お一人様文化のない当地で人と会わず孤食を貫くのはストレスだろう。

1年近く外出を控えていた彼女も、友人の婚姻届提出には立ち会ったという。その後、両隣に座っていたメンバーから立て続けに感染報告があり「つくづく人と会うのが怖くなった」。

数日たって、彼女から再び連絡があった。先着順のアストラゼネカのワクチン接種に応募し、今月中の予約が取れたという。「お互いワクチン打ったら、また会おうね」「ぜひ!」。打って変わって弾んだメッセージに胸をなで下ろした。(旗)


香港

手にシュッシュッ、トレーにシュッシュッ、ハンバーガーの包み紙にシュッシュッ、少し考えてケチャップの袋にもシュッシュッ。もういいかと思いきや、食べ始める前にもう一度手にシュッシュッ。ファストフード店で隣り合わせた男性が、ものすごい勢いでアルコールスプレーをまき散らしていた。

香港では新型コロナの域内感染が落ち着きを見せ、懸念された変異株の流入は何とか食い止められている。ワクチンの接種率も徐々に上がってきた。経済活動と市民生活の正常化に向けて政府は感染対策の緩和を進めているが、1年以上にわたりすり込まれた恐怖心はそうやすやすと消えるものではない。

猛スピードで食べ終えた男性は、大急ぎでマスクを装着すると、またひとしきり手や体にアルコールを吹き付けて去って行った。社会が本当に元通りになるのはいつのことだろう。(港)


タイ

タイ人の間でフェイスブックに立ち上げられた「海外に引っ越そう」というページが話題になっている。タイから海外に移住を希望する人たちが情報交換などのために利用している。4月30日にページが開設されてからわずか10日間でフォロワー数は90万人を超え、日々増え続けている。

フォロワーたちが海外移住を希望する理由は、タイ政府の新型コロナ対策やコロナワクチン接種の遅れに対する懸念、裁判の不当な判決、税制に対する不満などさまざまだ。一方で、このようなページの立ち上げは、Z世代(90年代半ば前後以降生まれ)の国に対する反発を助長する恐れがあるとの声もある。

タイの若年層は変わりつつあり、海外に留学したり、移住したりする人も増えている。結局のところ、どこで暮らしていくかは個人の自由だ。Z世代の一人として、このフェイスブックページは有用だと思う。(ビ)


インド

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないインドでは、力を持つ富裕層が数万ドルをかけてプライベートジェットで国外へ脱出している。既に多くの国がインドからの入国を制限しているが、良い医療が受けられ、さらに可能であれば適切なワクチンの接種が受けられるなら、どの国でも良いと考えているようだ。

アラブ首長国連邦(UAE)がインドからの渡航者の入国を禁止する直前には、民間の航空機の運用会社が顧客をアブダビに飛ばす機体を確保できたと報じられた。英国がインドを入国禁止とする国・地域「レッドリスト」に追加する直前にも、ロンドンへの出国ラッシュがあったという。

もしお金持ちだったなら、自分が選んだ国に入国する方法はたくさんある。実際インドの富裕層はそうしており、全国民が危機に直面している状況では、彼らの行動を責めることはできない。(虎)

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