NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2021, No.76

【アジアエクスプレス】

コロナ下の日本人を癒やす
タイBLドラマに熱視線

若い女性を中心に、タイドラマの人気が急拡大している。けん引役となっているのが、男性同士の恋愛を描いたいわゆる「ボーイズラブ(BL)」作品。中でも昨年春にリリースされた『2gether』(トゥゲザー)は、主演2人の美形ぶりとピュアな恋愛模様が話題を呼び、一大ブームを巻き起こした。この動きに日本のテレビ局やタイ政府も加わり、“泰(タイ)流”が本格化している。(取材=NNA東京編集部 古林由香)

テレビ朝日が主催・企画したタイドラマの展覧会「GMMTV EXHIBITION in JAPAN」用に制作された、タイ人俳優の等身大パネル。本社ロビーと会場前に展示されている=4月15日、東京都港区(NNA撮影)

テレビ朝日が主催・企画したタイドラマの展覧会「GMMTV EXHIBITION in JAPAN」用に制作された、タイ人俳優の等身大パネル。本社ロビーと会場前に展示されている=4月15日、東京都港区(NNA撮影)

4月中旬、東京都港区六本木の複合施設アークヒルズにタイのイケメン俳優8人がずらりと登場した。といっても本人ではなく等身大のパネル。それでも、次から次へと女性たちが意気揚々とやってきては、記念撮影にいそしんでいた。

パネルが設置されたのは、「GMMTV EXHIBITION in JAPAN」の会場。タイの音楽・芸能大手GMMグラミー傘下のテレビ番組制作会社、GMMTV制作のドラマに主演した人気俳優をフィーチャーした展覧会で、“世界初”として4月16日からスタート(緊急事態宣言を受け4月25日から5月11日まで休業)。今後、福岡・仙台・大阪・名古屋の各市での巡業も予定されている。

主催・企画は、昨年11月にGMMTVとの業務提携を発表したテレビ朝日。同社の武田徹取締役副会長は「当社は他局に先駆けバンコクにビジネスの拠点を置き、コンテンツビジネスの発展に力を入れてきた。GMMTVの作品を通じ、互いに協力しながらエンターテインメントビジネスを広げていく」とコメント。一連の事業を“泰流”と名付け、この企画展はその第1弾として開催された。

日本で放送・配信されるアジアドラマといえば韓国の“韓流”と、中華圏の“華流”が主流の中、突如起こったタイドラマブーム。現地では、2016年放送の『SOTUS/ソータス』のヒットをきっかけに、BLドラマの制作が増加。それらは、日本発祥のやおい文化(男性の同性愛を題材にした小説や漫画などの二次創作物の総称)からもじった「Yシリーズ」と呼ばれ、日本でも会員制交流サイト(SNS)などを通じて徐々にファンを獲得。そして昨年2月、GMMTV制作の学園ラブストーリー『2gether』の登場で、一気に人気が加速した。

GMMTVは、無料通信アプリLINE(ライン)の動画配信サービス「LINE TV」他でタイで配信するのと並行して、同社の公式ユーチューブチャンネルでも英語字幕を付けて配信。さらにファン有志がユーチューブ版に日本語字幕を付けたことで、「面白いタイのBLドラマがある」と日本でも評判が広まった。

イケメン大学生2人の恋の駆け引きを描いたラブストーリー『2gether』。タイ、日本のみならず、世界各地でもファンを獲得し、第5話の公開後にはツイッターの世界トレンド1位を記録(コンテンツセブン提供)

『2gether』効果でファン拡大
タイBL小説も日本に上陸

『2gether』をきっかけに、タイドラマを見始めたという東京都内在住の30代女性は、「この作品の話題をツイッターで目にしたのは、昨年4月に1回目の緊急事態宣言が発令され、在宅勤務が始まった時期。時間を持て余していたところ、タイドラマという新しいジャンルを知り夢中になって視聴した」と振り返る。「陽気なストーリーと南国の雰囲気たっぷりの映像が、コロナ禍で不安いっぱいだった心を癒やしてくれました」

この『2gether』の日本配給権を取得したのは、韓国や中華圏のドラマを主に扱ってきた映像配給会社「コンテンツセブン」(東京都中央区)。「弊社では初のタイドラマで、作品の面白さにひかれ版権を購入しました。ヒットの要因は、ストーリー展開の面白さに加え、監督の作品への愛情、そして主役のブライトとウィンの圧倒的なビジュアルの良さがあったと思います」と、買い付け担当者は分析する。

「版権の取得直後から日本の放送局や出版社などから数多くの問い合わせを頂き、今年2月に発売したDVDおよびブルーレイも多くの方に手に取っていただいています。この4月からはテレビ大阪で同局が流す初のタイドラマとして放送が始まりました」(同担当者)

『2gether』のヒットにけん引される形で、BL作品を中心に過去のタイドラマにもスポットライトが当たり、視聴者層が一気に拡大。この動きを出版業界も捉え、タイドラマの特集本が刊行された他、女性誌でも特集記事が次々と掲載された。

また、出版大手のKADOKAWAはタイの子会社カドカワ・アマリンを通じてBLドラマの原作小説の翻訳出版権を獲得。今年1月から日本語版小説と漫画版のリリースを開始するなど、タイ産ソフトコンテンツのすそ野がっている。

『2gether』の日本版ティーザー動画。「主演のウィンはドラマ初出演、新進気鋭の俳優だったブライトも本作で大ブレーク。2人の成功により現地でもBLドラマが広く認知されるようになり、BL作品への出演を機に知名度を高める俳優も増えているようです」(日本での配給を手掛けたコンテンツセブンの担当者)

大使館主催でドラマフェス
泰日の文化外交推進に期待

この日本でのタイドラマブームに、タイの政府機関も大きな期待を寄せている。駐日タイ王国大使館は、4月3、4日に「タイドラマフェスティバル」を東京都品川区の大使館の敷地内で開催。毎年、代々木公園で開催していた「タイフェスティバル」は新型コロナの影響を受け2年連続で中止となったため、その代替イベントに当たる。来場者は抽選式にするなど規模こそ縮小されたものの、人気俳優とのオンラインファンミーティングなど、趣向を凝らした企画が催された。

4日午前、シントン・ラーピセートパン大使はあいさつの席で、「新型コロナの影響により家で過ごす時間が増加する中、日本でのタイドラマ人気が急速に上昇。各放送局(配信プラットフォーム)で27作ものタイドラマが放映された」と開催の背景を説明。「ドラマに文化外交推進の役割を担ってもらい、タイ人と日本人がもっと近しい関係になることを望んでいる」と期待を寄せた。

日泰をオンラインで結び開催されたセミナー「日本におけるタイドラマの流行について」には、タイ外務省広報局のオラピン・ハーンチャーンチャイクン氏、放送局「チャンネル3」を運営するBECワールド副社長のナタポン・ルンカジョンクリン氏が出席。東京会場には、テレビ朝日ビジネスプロデュース局の水髙愛氏と、司会に青山学院大学助教の石川ルジラット氏が登壇し意見を交わした。

外務省のオラピン氏は、「ドラマは今後、タイブームを起こすためのさらなる重要なコンテンツになっていく。長期的にはドラマ制作に携わる人材の能力向上も重要だ」とコメント。テレビ朝日の水髙氏は「タイドラマが日本でさらに流行するかは今年が正念場。BS朝日でドラマを放送するなどし、まだタイドラマを知らない人にも広めていきたい」と意気込みを語った。

 

新型コロナの感染拡大で、ステイホーム期間が長引きそうな今。ほほ笑みの国のドラマは、新しい世界と出会えるコンテンツとしてまだまだ需要がありそうだ。

俳優が登場したオンラインファンミーティングの様子。東京の会場には抽選で選ばれたファンが足を運び、スクリーン越しの交流を楽しんだ=4月4日、東京都品川区(タイ王国大使館提供)

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