NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2021, No.75

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─春到来編─

中国重慶市で咲いた梨の花が春の訪れを告げる=3月11日(新華社)

中国重慶市で咲いた梨の花が春の訪れを告げる=3月11日(新華社)

中国

上海では5日連続で平均気温が10度を上回ると「春到来」という。上海気象局によると、今年は例年より1週間も早く春になったそうだ。最近はぽかぽかと暖かい日もあれば、急に雨が降り出す日もある。「春に三日の晴れなし」というように上海の春も天気が変わりやすい。

日本では実家暮らしをしていたので、出掛ける際は母が天気予報を元に傘の要不要を教えてくれていた。上海ではスマートスピーカーがその役目を担っている。ある日「傘はいらない」と言われ出勤したところ、退社時に土砂降りとなっていた。仕方なく駅まで全力疾走していると、後ろから突然腕を捕まれた。振り返ると同世代の女性で、駅まで送ると傘を差しかけてくれた。その親切に心を打たれ、思わず連絡先の交換を申し出た。

上海でも桜が咲き始めた。天気が良くなったら、お礼も兼ねて新しい友人を花見に誘いたいと思う。(東)


台湾

とある週末、娘を塾に迎えに行き、このまま家まで歩いて帰ろうということになった。台北北部の現在地から自宅まで徒歩で1時間弱。この日は空が高く、寒からず暑からず。何だか気分が良くなり、これまで歩いたことのない道から帰ることにした。

左手に陽明山の前衛に当たる山が迫り、目の前は細い車道が続く。ただ右手は畑で視界が広がり、いくつかの色の花もちらほら。台北ではないような牧歌的な雰囲気だ。車道の横にある長さ200メートル程度の小さな排水溝をのぞくと、小魚とオタマジャクシが群れていた。

幅30センチメートル、水深10センチの場所にこれだけの魚がいることに驚く。大きな川から離れているので、山水がこの溝を満たしてるのだろうか。後ろからは網を持った親子がこちらに向かってきた。春遠からじ。どこかでかじった詩の一句が頭に浮かんだ。(崇)


韓国

ソウル市を東西に流れる漢江で、「チューブスター」と呼ばれる6人乗りの円形浮き輪型ボートが、ソウル市民の新たなレジャーとして注目されている。

漢江と言えば、遊覧船に乗ってロマンチックな夜景を楽しむことが最大の目玉だった。ところが新型コロナウイルスの感染拡大防止対策に反して、遊覧船はどうしても「密」になりがち。ボートの真ん中に位置する円卓を少人数で囲んで、チキンやピザなどを食べながら周囲の景色を楽しむスタイルへの関心が高まっている。漢江沿いでも食べ物を配達してもらえる韓国特有の出前文化も、ボート人気の追い風になっているのだろう。

ボートに乗るにはライフジャケットの着用が義務。お酒も持ち込み禁止で少々ロマンチックな雰囲気には欠けるが、春めいた陽気に誘われて、一度水上でのピクニックを楽しむのはいかがだろうか。(碩)


香港

1カ月近く自宅アパートの玄関先に飾ってあった旧正月用のミカンの植木。ついに撤去されたと思ったら、その日は二十四節気の啓蟄(けいちつ)だった。冬ごもりをしていた虫たちが動き始めるといわれる日だ。

香港では毎年、啓蟄に香港島中心部の一角で「打小人」と呼ばれる呪いの儀式に多くの市民が集まる。実際は厄払い的な意味合いが強いが、啓蟄が最も効力が発揮されるからだそう。祈祷(きとう)師のおばあさんたちが個々の方式で、依頼者の呪いたい相手の名前が書かれた人型の紙をスリッパなどで独特の節回しでたたくのが特徴だ。

新型コロナ感染防止策で人の集まりが制限されている状況だが、警察は遠まきに見ているだけで注意はしなかったという。香港の無形文化財でもある打小人。後継者問題が指摘されて久しいが、春の風物詩としても長く続いてほしいと願う。(輝)

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