【アジアエクスプレス】
ワッツアップでお買い物
イオンのローコスト通販
総合スーパーのイオンが、メッセージアプリ「ワッツアップ」で客が店員と直接やりとりをしながら買い物できるサービスをインドネシアで提供している。ネット通販といえば設備投資や手間がかかるという常識を覆し、現地で普及したツールを用いて設備投資を抑えた。商品は店舗受け取りも可能で、客の在店時間を短縮して感染症対策にもつなげた。(NNAインドネシア 山本麻紀子)
買い物担当のスタッフが、顧客から注文を受けた商品を写真に撮り、画像を送信して注文に間違いがないかどうかを確認する=2020年12月23日、インドネシア・バンテン州タンゲラン県(NNA撮影)
サービス名は「RAISA(ライサ)」。サービスのイメージキャラクターである女の子の名前で、インドネシア語で「イオンが推薦する生活用品」を意味する略語でもある。昨年4月にサービスを開始し、現在は首都ジャカルタと郊外2カ所のスーパー3店舗で展開する。
利用方法は、客がまずワッツアップで3店舗のうち自分が買い物したいスーパーの電話番号にメッセージを送信する。3店舗には、それぞれ専用の携帯電話番号が設定されている。各店にはメッセージに対応するためにスタッフが常時待機し、数分もせずに商品カタログを送ってくれる。
利用者は名前、メールアドレス、電話番号、住所などの個人情報のほか、購入希望の商品名を送信する。イオン店内で扱う全ての商品(アイスクリームを除く)を注文できる。注文後のメッセージのやりとりは、店内に待機する買い物担当スタッフが受け持つ。
実物写真がすぐ届く
自分で選んだ気分に
買い物担当スタッフとのワッツアップメッセンジャーでのやりとり。パプリカは希望する色の種類がなかったので「代わりに黄色のはどうですか?」と提案してくれた=20年12月23日、インドネシア・ジャカルタ市(NNA撮影)
試しに「たい焼き」「お好み焼き」「ミカン」「パプリカ」の4点を注文してみた。
店舗で扱っていない「たい焼き」については、「申し訳ありませんが、品切れです」とすぐに連絡が入る。「お好み焼き」「ミカン」はトッピングや品種により複数の種類があることから、「どの種類がいいですか? 大きさは?」とスタッフが商品の写真入りメッセージを送ってくれる。
「パプリカ」なら「何色ですか」「ラップ包装された日が本日ではありませんがよろしいですか」と、丁寧に尋ねてくれる。買い物客が商品を手にとって見なくても、送られた画像とスタッフとのやりとりから自分で商品を選んでいるような気分になる。
購入品の確定後は、宅配、店舗受け取りのいずれかを選択する。宅配エリアは店舗から10キロ圏内。送料は距離に応じて配車・配送サービス大手2社の代金が適用される。
宅配しない場合は店が商品を預かり、買い物客は店内の特設ブースに受け取りに行く。ドライブスルー形式で車から降りずに店の出口付近で受け取ることも可能だ。買い物を代行してもらうことで店内の滞在時間や接触機会を減らすことができる。
支払い方法の選択は、ワッツアップで送信されてくるウェブサイトのリンクにアクセスする。(1)配車・配送サービス大手ゴジェックの電子決済サービス「ゴーペイ」(2)民間最大手銀行バンク・セントラル・アジア(BCA)への送金(3)クレジットカード――の三つの決済から選べる。
イオン・インドネシアの菓子豊文社長によれば、ライサは新型コロナが流行し始めた昨年4月に開始し、現在は3店舗合わせて月平均5,000人が利用している。政府がコロナ対策の行動規制を強化した影響もあり、5~6月には利用者が一時的に同7,000人にまで増えた。昨今国内で自転車が流行していることを反映して、このサービスを利用して自転車を購入した人もいるという。
顧客から商品注文のワッツアップメッセージを受け付ける「RAISA」サービス部門のスタッフ=20年12月23日、インドネシア・バンテン州タンゲラン県(NNA撮影)
初期投資1000万円以下
追加注文も柔軟に対応
買い物客は購入した商品を特設ブースで受け取ることも可能だ=20年12月23日、インドネシア・バンテン州タンゲラン県(NNA撮影)
コロナ禍で人々が外出を控える中、ネット通販の利用が格段に増えた。イオンのライサは店員とリアルタイムでやりとりをするので、希望する商品がない場合でも代替品の提案をしたり、突然の追加注文にも柔軟に対応したりできるのが強み。同様の販売サービスは、イオンでは日本国内や海外の店舗も含めて初めての試みだ。
ネット通販事業は通常、システムの構築に数億円規模の投資が必要になる。商品画像を一つずつ撮影してウェブを更新するのも、イオンのように数万点もの商品を取り扱う大規模な小売店では非常に手間もかかり負担が大きい。
ところが、イオン・インドネシアのEコマース担当シニア・マネジャーのアトリ・シンギ氏によると、ライサ開始のための初期投資はパソコンなどの備品や人件費まで含めて1,000万円以下に抑えたという。
アトリ氏は「コロナ禍の行動制限下でも、お客は食品を中心に日々の買い物の必要に迫られていた。当社もそのニーズに早急に応えるため、もっとシンプルな方法はないかと考えた」と話す。
当初、インドネシアで普及率が高いワッツアップのメッセンジャーアプリは個人用アカウントを使用していたが、すぐに注文が殺到して対応しきれなくなったためビジネスアカウントに切り替えた。
買い物を代行する店内スタッフは1店舗当たり十数人。イオンの正規社員ではなく、地域住民を起用して注文金額の数パーセントを報酬として支払っている。業務に参加する前には1週間ほど商品知識などについて研修を受けてもらう。
今後の課題は、配送中に溶けてしまう冷凍食品など商品の劣化を避けるための対策だ。宅配用に保冷バッグを貸し出すことを計画しており、今年6月までの実現を目指して準備を進めている。