【東南アジア人材の勘所】
最終回 ピリッとした組織に生まれ変わるために
早いもので8月からスタートした本連載も、今回で最後となります。過去5回の連載で、アジアで働く人々の異なる就業感、日系企業を取り巻く採用力の慢性的な課題、報酬と言った衛生要因を中心とした人事諸制度にまつわる課題、真の現地化に向けての現地幹部人材育成に見る日本企業の弱さおよび本気度の薄さ、そして前回はさまざまな切り口で見る異文化など、筆者の経験も交えながら、日本人や日本企業の置かれている状況について触れてきました。連載を通じて共通している視点は、欧米やアジアと日本の価値観や文化との「違い」でした。この「違い」は理解した上で許容することが重要です。人事制度、育成などに見る「違い」は経営を強固にするために早期に是正すべき「違い」とも言えます。
なぜ「違い」は生じるのか
「違い」が生じてきた背景には、日本、日本企業の独自の文化があると感じています。
人間は、無意識のうちに自分たちが属している文化、環境にとても強い影響を受けて生きています。ここで言う文化とは価値、行動規範、企業で言うところのバリュー(経営理念)のようなものです。同じような文化の下に集まる集団は「内集団」と呼ばれ、共同体を形成します。日本の場合は特殊な事情、「純血主義」が加わり、無意識のうちに形成される内集団の絆は極めて高いといえます。
その企業独自の「内集団」をアジア各地に持ち込んでいるのが日本人駐在員です。ここで問題となるのは、内集団において、内なる理論のみで物事が進められ、身内をひいきする傾向もあり、「外集団」と比べ、身内が優れていると考える傾向があることです。
これが外との違いを認識しつつも、許容もしくは、改善するという方向へつながらない原因の一つではないかと感じています。
「違い」を受け入れ成功する日系企業の特徴
私は2006年からアジアを中心に人と組織の分野でコンサルティングを日系企業に提供してきました。自身も社内の中国人とどうすれば仕事ができるか、随分悩んでいました。結果的に「彼らのニーズ(就業観、価値観)を理解し、それに応えること」が答えでした。
また長年海外で人事コンサルティングを提供していく中で、成功している日本企業(組織課題が少なく、事業も堅調)には特徴があることにも気付きました。
(1)海外経験のある日本人駐在員が現地法人の中枢にいる
過去、異なる価値観に触れ(特に欧米)、非日本的な「内集団」に属した経験を有している。日本と異なる集団に身を置き、真のダイバーシティに触れた経験を有している。
(2)仕事を「任せる」ことができる
言い方を変えると、自分のすべきこと「役割」が明確である。故に自分が担当すべきこと以外は他者へ任せる。結果として、ローカルに当事者意識が芽生えるなど、組織開発でも大きなメリットがある。
(3)ローカル人事がしっかりと機能している
私が中国へ赴任した06年当時、超大手日系企業でも本社人事部門から駐在を出している企業は数えるほどでした。しかし私が中国から離れる18年には、多くの日本企業が本社などの人事部門から日本人を派遣し、人事制度の構築・改定、さらには人材育成に積極的に取り組んでいました。
また、中国は労務が複雑かつ頻繁に変わることから、ローカルによる人事体制が強化された結果、人事部長がローカルという日本企業も珍しくはありませんでした。
本寄稿の第4回目でも触れていますが、人事がきちんと機能していないと、経営自らが人事の現場まで降りてきて、ハンズオンで作業を進めることになります。これでは経営が片手間になってしまいますし、ローカルも当事者意識を持つことができません。
今からできることとは?
(1)で述べた海外経験者を現地拠点のトップまたは中枢に据えるには、社内関係者との調整も多く、難易度は高いと感じます。
現場で比較的実行しやすいのは(2)、(3)です。
(2)については、職務記述書をきちんと書いてみることです。私がプロジェクトでご一緒する際、必ず経営の役割について伺います。まずは自らの役割をきちんと言語化し、それに伴うアクションを書き出してみること、「仕事の棚卸し」が重要です。自分で何をすべきか、何を他者へ任せるべきかを明文化することで、他人に任せる意識が出てきます。「任せられる人がいない」とよく耳にしますが、「いない」理由の多くは、経営の問題と言わざるを得ません。
(3)について、永年勤続の結果として「人事の要職」におられるようなケースは、改善が必要だと感じています。もちろんパフォーマンスの結果、そのポストをつかみ取った方も少なからずおられます。
歴代の日本人経営陣からいろいろな意味で重宝され、ご褒美的に人事の要職(または総務部長)に就かれている方がいます。イメージとしては40代後半以降のローカルの方、その方を中心とした体制です。
新型コロナウイルスの影響で不透明感が増す中、これからの事業展開に照らし合わせ、どのような人物、人事機能(知識、経験、体制、予算、外部ネットワーク、社内顧客からの評判)が必要か、再考すべきタイミングだと考えます。規模が大きくない組織の場合、人事は兼務で良いと考えますが、担当の資質はよく見極める必要があります。
新型コロナの影響もあり、かつてないほど変化のスピードが速くなっている中、日本人駐在員は自らの役割を見直し、言語化し、変化へ柔軟かつスピーディーに対応するために組織の在り方を考え、実行部隊として人事機能を見直し、強化する必要があります。
優れた商品やサービス、利益の源泉、これらはリーダーの下で働く社員によってもたらされます。「ヒト」「モノ」「カネ」の本来の順番に戻す時が来ています。
最後に
短い期間でかつ限られたスペースでの寄稿ではございましたが、読者の皆様の海外事業に少しでも資する内容になっていることを願うばかりです。最後までお付き合いくださり、お礼申し上げます。
全ては日本人の立ち振る舞いで変わるのです。
東南アジアの優秀人材を活用し成功する日系企業も増えている=シンガポール(NNA撮影)