【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─新しい生活様式編─
シンガポールの電車内の風景。新型コロナの予防として外出時6歳以上はマスクの着用が義務付けられている=シンガポール(Shawn Ang撮影/Unsplash)
シンガポール
政府が新型コロナウイルス感染者の接触者追跡アプリ「トレーストゥギャザー(TT)」を始動してから、半年以上がたった。始動当初、内容を確認するためにダウンロードした際は、搭載端末同士でただ通信するだけのアプリだったが、最近は機能が進化している。
具体的には、店舗や施設での入場時に個人情報を提示する訪問者登録システム「セーフエントリー」の手続きを簡略化したり、自分が感染者と接触した可能性がないかを確認したりできるようになっていた。政府は既に追跡アプリの利用を一部義務化しており、今後さらに義務範囲が拡大する見通しだ。
個人情報を他人に把握されることに抵抗がある家人は、追跡アプリの導入を最後まで拒否する姿勢だが、便利さに弱い自分は利用を開始してしまった。心配事は、スマホのバッテリーが早く減ってしまわないかである。(薩)
インド
いろいろなことがリモートで行われる時代。最近よく聞くのは、「リモート引っ越し」だ。周囲には日本へ退避帰国をしたまま帰任が決まる人々がいて、彼らはリモートで、インドに残してきた荷物を引き揚げている。
引っ越し当日はアプリのビデオ電話を使って、荷物を一つ一つ確認しながら荷造りするそうだ。台所にクローゼットに靴箱に、通話は数時間に及ぶ。現金や貴重品、酒などは禁輸品のため運べないそうで、これらを多く残して来た知人は、SNSで涙混じりに引っ越しの様子をつづっていた。帰るつもりだったインドのわが家が片付いていく様子をスマホ画面で眺めるなんて、ものすごくさみしい気分になるのではないか。
別の国に異動が決まったり、雇用契約期間を終えて新天地を目指したりする友人もいて、コロナ禍でも人生は動くのだと実感している。インドを旅立つ友人らに幸あれ!涙。(天)
フィリピン
9月からクリスマスシーズンに突入する当地では、その重要さは言わずもがな。そんな1年で最も楽しみなイベントともいえるクリスマスパーティーの開催が、マニラ首都圏で禁止されそうだ。新型コロナのためとはいえ、正月休みがなくなるようなもの。酷な状況だ。
クリスマスが近づくにつれて、パーティーの打ち合わせをし、プレゼントやドレスを用意して、周りのフィリピン人が楽しそうにしていたのをよく覚えている。街中のいたるところが装飾されており、常夏の東南アジアにも「冬」が来るのだと実感した。
政府はビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使ってのオンライン開催を勧めているようだが、直接会う喜びには代えがたい。来年か再来年か、対面のオフライン開催ができる日を心待ちにすれば、オンラインでも割り切れるだろうか。(凪)
中国
休日の朝、自宅マンションで簡易の防護服とマスクを装着した女性とすれ違った。話を聞くと、「上の階で日本から来た人が隔離中」という。どうやら検温に来たらしい。
マンションの出入り口には、自宅隔離中の部屋と期間が書かれた紙が張り出された。この棟以外にも、全部で4世帯が隔離されているようだ。上海で海外から入国した人に対する自宅隔離が一部認められるようになってから、マンションにこういった張り紙がされるのは初めてだ。
同じような光景を、以前も見たことがあった。海外の往来が制限される前のことだ。当時は検温に来る防護服姿の人を見かけるとぎょっとしたが、いつの間にか恐怖心は薄れ、いまの状況に慣れ始めていたようだ。
新型コロナの流行が発覚して間もなく1年がたつ。防護服姿の人と日常的にすれ違うのもウィズコロナ、と言えるだろうか。(佳)
マレーシア
キャビンアテンダントとしてシンガポールに在住する友人は、コロナ禍で在宅勤務を強いられている上、賃金までカットされた。食費をいかに抑えるかに知恵を絞り、思いついたのが自宅でのバルコニー菜園だった。
ワンルームマンションの寝室の先のバルコニーでハーブやトマト、マメを育て始め、緑あふれる小さな菜園に変えてしまった。彼女はバルコニーで採れた野菜でサラダを作り、オーガニック生活を楽しんでいたのもつかの間。10匹ほどの幼虫がむしゃむしゃと葉を食べているのを発見した。
しかし、あろうことか、友人はその幼虫たちをガラスの瓶に入れて飼いだした。重要な環境の一部と至って前向きで、今度はバルコニーに幼虫の餌となる緑を植えている。彼女のインスタグラムは観察日記と化しているが、フォロワー数は増え、皆がチョウの誕生を待ちわびている。(張)