【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─コロナ禍の秋、食欲の秋─
韓国食文化の象徴であるキムチ。キムチを作る伝統文化「キムジャン」は2013年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された
韓国
「キムジャン」の季節が近づいてきた。毎年10~11月に行われるキムチをつくる伝統文化だが、今年はやや様子が異なる。ハクサイの価格高騰で、キムジャンを諦める家庭が続出している。
この夏は台風の上陸が相次ぎ、農作物が大きな被害を受けた。韓国農水産食品流通公社(aT)の調べでは、ハクサイ10キログラムの平均価格は8月時点で2万2,780ウォン(約2,100円)と、例年よりも9割近く跳ね上がった。キムジャンでは、1年間に食べるキムチを一度に作るため大量のハクサイが必要となるだけに家計への負担は計り知れない。
このためか、CJ第一製糖やプルムウォンなどの大手食品メーカーのキムチ商品が売り上げを伸ばし、品切れ状態に陥った。コロナ禍でキムチは「免疫力を高める」との効果も期待されただけに、当地ではショックが大きいようだ。(岳)
香港
実りの秋を迎えた日本。知人の会員制交流サイト(SNS)を見ると、地元特産のシャインマスカットを味わう写真が目に飛び込んできた。昨年は日本出張の折に帰省し味わったが、新型コロナウイルス感染症が拡大した今となっては随分昔のことのようだ。
しかし、ここ香港でも日本各地から届いた果物がスーパーマーケットの店頭を彩っている。人の往来はほぼ止まったが、農産物は届いている。最近は鳥取のナシや山梨のブドウ、青森のリンゴを見掛けた。値段が高くなかなか購入に踏み切れずにいるが、こんな時だからこそ財布のひもを緩めて日本産を応援したい気持ちに駆られる。
一方、香港で存在感がここのところ増しているのが韓国産の果物。価格帯は日本産より低く、味も悪くないと聞く。コロナ禍で当地でのプロモーションは難しい状況になったが、産地間の競争は続いている。(祐)
マレーシア
テレビ東京系のドラマ『孤独のグルメ』に夫がはまっている。松重豊演じる輸入雑貨商、井之頭五郎がふらりと立ち寄った街角グルメにひとり舌つづみを打つという人気シリーズだが、観光客が足を踏み入れないような日本の住宅街や地方都市の風景、個人経営の飲食店の様子が見られて面白いらしい。
夫は日本語をまったく解さないため、五郎さんの独り言やお店でのやりとりは聞き取れていない。中年男性がおいしいものを食べる姿をひたすら眺めるだけだが、「癒やされるなあ」と満足そうだ。
ただ、五郎さんがマレーシアでもおなじみのバナナリーフカレーを食べる回だけは違った。白飯をスプーンですくってカレーに浸すのを見て「その食べ方は違う!」「全部混ぜるんだよ!」と大騒ぎ。五郎さんにはぜひマレーシア出張編で肉骨茶(バクテー)やナシレマも満喫してほしい。(旗)
インドネシア
首都ジャカルタの大規模行動制限が再び緩和され、店内飲食ができるようになった。規制を締めて緩めて、また締めてまた緩めての繰り返しで、店側も対応に苦慮しているだろう。
規制の緩和を受け、「床を出たら30秒で職場」の在宅勤務から久しぶりにオフィスに出勤した。いずこでランチぞ、とオフィスの隣にある商業施設を訪れると、いくつかの店は完全にシャッターを下ろしていた。そこにはたまに食べるとおいしいカレー店もあっただけにショックだった。
そんな中、イタリアンサンドがおいしい小さな屋台がひっそりと営業していた。コロナ禍でどうなるかと気をもんだが、「持ち帰り専門」が奏功したようだ。なじみの店が新型コロナの前に次々と倒れていく中、小さな店が踏ん張っている姿にお腹がいっぱいになる、いや胸が熱くなる。(角)
中国
近所に肉と野菜を中心に売るスーパーがある。入り口が狭く、奥に細長い。夕方過ぎに通りかかると、その狭い入り口に人だかりができている。見たところなんの変哲もない店なのだが、これほど人を集める理由は何か。
思い切って立ち寄ってみると、謎はすぐ解けた。日本のスーパーでも夜になって値引きをすることがあるが、もっとすごい売り方をしている。午後7時から全商品の1割引きが始まり、30分ごとに2割引き、3割引きと値引き幅が拡大していく。そして、午後11時にはなんと9割引きに達する。人だかりはこれが目当てか。
夜遅くに店の前を通ると、いつも商品はすっからかんだ。そして翌日には新しい商品が店に並ぶため、「毎日新鮮」と評判を呼んでいるようだ。コロナ禍をものともしない集客方法。きっと今晩も人だかりができているに違いない。(川)