【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─コロナ禍の観光業編─
ソウル中心部の明洞。外国人観光客で賑わっていた通りも閑散としている=7月、韓国・ソウル(NNA撮影)
韓国
韓国の旅行業界が新型コロナウイルス感染症の影響で危機にひんしている。
最も大変なのが、中小の旅行代理店の社長たち。人件費の肩代わりとして国から月170万ウォン(約15万2,000円)を援助されている社員と違って、社長は支援の対象外だ。自宅のローン返済や子どもの教育費のために、建設現場や宅配、保険などの営業の現場に飛び込むものの、これまで経験したことのない職種だけに、けがをするなど苦労が絶えないという。
一般社員も安穏とはしていられない。副収入があれば、その分だけ国の援助から差し引かれる。つまり、月170万ウォン以上は稼げないということだ。その援助さえも9月末で終了する見通しとなった。関係者によると、10月からは人件費を支払えない中小の旅行代理店の大量倒産が始まるとみられる。
旅行業界に日常が戻るのは、まだまだ先のようだ。(碩)
マレーシア
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で、ホテルやテーマパーク、飲食店などの観光業界は深刻な打撃を受けている。
「ペナン国際空港の飲食店や免税店はほとんど閉まっている」と友人が言っていた。開いている店も、商品を補充していないため、陳列商品は限られるという。航空業界も悪影響を受けているが、少なくとも国内線の運航はできる。ただ、マレーシア航空で働く別の友人は、首都クアラルンプールからペナンへの便の乗客は10人未満だと言っている。
そんな中、報道によれば、海外では航空機の運航を続けるため「どこにも飛ばない」フライトを始める航空会社も出てきた。シンガポール、日本、台湾などを離陸して、同じ空港に戻るフライトだ。奇抜なアイデアだが、航空会社も復活に向けて懸命だ。(張)
タイ
コロナ禍の中、約5カ月ぶりに訪れたバンコク。強制隔離を終えて街へ出ると、かつてのにぎわいは戻っていたが、外国人観光客の不在が顕著だった。
「店がSNSで紹介され、タイ人がどっと来てくれて生き残れた。日本人だけが相手では、もうやっていけない」。何軒かの居酒屋が同じことを言う。商売は地元に根付かねば駄目だということだろう。日本の観光産業も、インバウンドには頼れなくなった。製造業におけるサプライチェーンの集中依存の見直しにも通じる話だ。
しかし、畳んだ店も多い。バンコクで長年、腕を磨いた日本人やタイ人のシェフたちは、どうしただろう。生き残り組の店主も「先月あたりから、企業駐在員の帰国が目立つ」と言う。ほぼ日本人専用の歓楽街があるなど、東南アジアで日本の存在感が飛び抜けて強かったバンコク。コロナは、それをも変えるのか。(範)
シンガポール
このご時世、海外旅行に出掛けられないため、自国内で観光を楽しむ動きが世界的に広がっている。日本のように国内旅行だけでも多様な目的地があればよいが、国土の狭いシンガポールでは国内ツアーとはいっても目新しい場所は少ない。
そう思っていたところ、ある地元紙の記事が目に留まった。「公共バスに乗って、あなたの知らないシンガポールの風景を見てみよう」という内容だ。特に景色が楽しめる公共バスの5路線を紹介していた。観光地チャイナタウンやボートキーを回る定番コースのほか、ゴム農園などの作業のため1800年代に建設された北部の道を通るルート、ビジネスジェット機用のセレター空港の周辺を走行する路線といった、今まで通ったことのない道が紹介されていた。
自由に海外旅行ができるようになるまで、しばらくは公共バスに乗ってシンガポールの魅力再発見にいそしむとしよう。(雪)
インドネシア
新型コロナ対策の社会制限が緩和され、観光地もそれぞれ衛生規律を守りながら営業を再開した。ジャワ島中部の古都ジョクジャカルタの水の宮殿「タマン・サリ」もその一つだ。
6月の連休に久しぶりに訪れた。以前は朝8時から入場できたが、コロナ対策の準備に時間がかかるためか、営業開始時間が1時間遅くなった。昔はガイドなしでも見学できたが、今はガイドが必ず同伴し、好き勝手に歩き回ることはご法度。ガイド料が加算されるのか、入場料も上がった。
混雑しないように、写真撮影の時間が制限されたせいで、数枚しか撮影できなかった。一方で、「お一人さま」の来場なら、見知らぬ人と5人以上、10人以下のグループにまとまって行動しなければならない決まりも。観光地で「密」を防ぐ取り組みは、まだ試行錯誤の段階なのかもしれない。(ア)