【アジア・ユニークビジネス列伝】
「機内食の出前届けます」
「旅行HISが家電売り出し」
それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。
【インドネシア】
機内食の出前届けます
副業に励む航空系企業
コロナ禍で航空旅客が急減し、ガルーダ航空は1~3月期に赤字に転落した(アンタラ通信)
新型コロナウイルス流行による旅客減に伴い、インドネシアの航空業界は本業の減収を補うため新たな収益源を模索している。航空機の整備会社が発電所のタービン保守事業を手掛けたり、機内食を提供する会社が企業向けのケータリングに注力し始めたりしている。
現地紙コラン・テンポによると、国営ガルーダ・インドネシア航空系列の整備会社であるガルーダ・メンテナンス・ファシリティ(GMF)エアロ・アジアは、発電用タービンのメンテナンス事業に乗り出した。イ・ワヤン・スセナ社長は「利益率はなかなか良い」とコメント。今後、非航空分野の事業収入の割合を現在の10%からさらに拡大する方針だという。
同系列で機内食を提供するエアロ・フード・インドネシアは、企業向けに機内食を出前するケータリング事業に力を入れる。さらに、クリーニングの事業では従来の機内用リネンや毛布に加え、新たにホテルなどの宿泊施設からも注文を受け付け始めた。
公式インスタグラムに投稿された機内食のメニューは、1人前5万ルピア(約370円)。肉料理やサラダ、ケーキなどのパーティー用メニューも取りそろえる。配達料はジャカルタ市内で13万ルピアと、郊外の空港周辺に位置する製造施設から運ぶせいか割高だ。ただし、ジャカルタ市内にある2つの事務所まで受け取りに行く場合、配達料はかからない。
エアロ・フード・インドネシアによる機内食のケータリングサービス。チーズオムレツがメインの洋食メニュー(左)とインドネシア食メニュー(右)(同社の公式インスタグラムより)
エアロ・フードは、コロナ禍に航空旅客が減少した影響で、機内食の生産量が平時に比べて97%落ち込んだ。コロナ対策の「大規模な社会的制限(PSBB)」や移動制限が緩和され、航空路線も運航を再開し始めたものの、同社の売り上げに大きな改善はみられていない。
同社のシス・ハンダヤ・アジス社長によると、運航を再開した国内航空会社の多くは、機内食を基本的には提供しない格安航空会社(LCC)。公務員が飛行機での地方出張を控え、観光地の多くがまだ通常営業に戻っていないという事情もある。さらに、海外の航空会社がコロナ禍で衛生問題を懸念し、本国で復路分の機内食まで調達していることも、同社の売り上げ減に追い打ちをかけたという。
【タイ】
旅行のHISが家電売り出し
多角化へ「学研教室」展開も
HISツアーズはアイリスオーヤマ製の軽量スティッククリーナーなどの家電販売を始めた=7月、タイ・バンコク(NNA撮影)
エイチ・アイ・エス(HIS)のタイ法人のHISツアーズが、アイリスオーヤマの家電製品の販売に乗り出した。旅行業で培ったタイの国内ネットワークを生かし、ホテルやレストランなどに掃除機や空気清浄機を売り込む。
新型コロナウイルス感染症の影響で旅行需要が落ち込む中、タイでの販路拡大に向けて代理店を探していたアイリスオーヤマと、旅行業を通じてタイ国内に強固なネットワークを持つHISツアーズの思惑が一致した形だ。
極細軽量スティッククリーナー、微小粒子状物質「PM2.5」対応の空気清浄機、ふとんクリーナーなどの衛生家電を中心に扱う。HISツアーズの営業担当者が、取引のあるホテルや企業などを訪問してアイリスオーヤマ製品の導入を提案する。
同社のホームページや「ショッピー」「ラザダ」といった電子商取引(EC)サイトでも販売を展開。8月末までは、バンコク市内の本店や東部チョンブリ県のシラチャー支店などで店頭販売も行った。今後は取扱商品を順次拡大し、日系の工場などに対してアイリスオーヤマ製のLED照明の提案を始める方針だ。
HISツアーズの津田周和社長は「健康や衛生に対する意識が高まっている。われわれはタイのホテルやレストランなどとの関係も深く、日系企業同士で良い相乗効果が生み出せると考える」と説明した。
新型コロナを契機に形となったアイリスオーヤマとの協業だが、HISツアーズではコロナ収束後も旅行業にとどまらない事業の多角化を進めている。
8月24日には学研ホールディングスのマレーシア法人と、タイ国内での学習塾「学研教室」の展開に向けたフランチャイズ契約締結を発表。9月にHISシーラチャ、ラヨーン、チェンライ、プーケットの4支店内に学研教室を開校。25年までにタイ全土に100校を開校する計画だという。
「タイ全土に広がる支店ネットワーク、ファミリー層をターゲットとしたビジネスノウハウと学研の競争力ある教育サービスを掛け合わせることで高いシナジーを生み出せる。ツーリズムだけでなく教育事業を通してタイ社会へ貢献する」と多角化の意義を強調している。