【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─コロナ下の商い編─
中国で開業30年の餃子店がコロナ下で弁当のテークアウトを強化すると同時に、周辺マンション住民向けの出前食品の取り置き場としても活用してもらうことで商いを成功させている=陝西省西安市(新華社)
台湾
通勤ルートに最近、下着の特設セール会場ができていることに気付いた。冬にはなかったはず。元々この場所にあったのは――そうだ、「薑母鴨」屋だ。
薑母鴨は鴨肉をショウガと漢方で煮た冬の定番料理。シーズン中は夜遅くまでにぎわう薑母鴨屋は、夏になるとぱったりと姿を消す。うだるような暑さが続く中、当方も薑母鴨の存在などすっかり忘れていた。別の薑母鴨屋を見てみると、靴のセール会場になっている。どうやら薑母鴨屋はこうした期間限定の業態転換をして夏の食いぶちを稼いでいたらしい。
一方、その隣にある観光ホテルは新型コロナで無念の閉業。昨年までは多くの外国人観光客が宿泊し、送迎に訪れた観光バスが列をなしていたホテルだ。コロナ禍を生き延びるためには、時勢に合わせてどんな商売でもする薑母鴨屋の営業スタイルが正解なのかもしれない。(妹)
フィリピン
「今週は濃厚なチョコブラウニーをいかが?」。交流サイト(SNS)を開くたびに表示される誘惑と戦う羽目になっている。新型コロナウイルスを機に、当地の友人らの間でオンラインビジネスを始める動きが活発だ。中でも手軽にできる、手作り菓子を販売する人が増えている。
ベーカリー勤めの友人は腕を生かし、当地で人気のかんきつ類カラマンシーを使ったパウンドケーキや、ココナツミルクとコーンのお菓子「マハブランカ」のアレンジ版などを販売。商品は1個100ペソ(約218円)からとお手頃で、事業開始1カ月の顧客は数百人に上ると、したり顔だ。
さてクリックして注文、といきたいが手は止まる。3カ月以上に及ぶ在宅勤務で、懸念していた体重の増加が著しい。ダイエットとは無縁の生活だったはずが、年を重ねるとそうはいかない。ストレスも相まって、甘い誘惑に負けるのは時間の問題かもしれない。(堀)
インド
インドで失業問題が深刻化している。新型コロナウイルス感染症の流行で企業が従業員の解雇に乗り出しているためだ。工場の労働者から企業の幹部までが等しく影響を受けている。
多くの人が、生き延びるために雑用や片手間仕事などで生計を立てている。デリーでは職を失った教師たちが野菜を売り始めた。東部コルカタの著名な報道写真家は、月賦の支払いに困り、必死に仕事を探しているとツイッターに投稿した。
都市部の工場で働いていた労働者は、故郷に帰って農業に従事している。7~9月のモンスーンの時季に感染者が増えるとの恐れから、彼らの大部分は元いた場所へ戻っていない。唯一の明るい要素は、彼らの帰省によって農村部に十分な労働力があることだ。政府はこの危機に対処するため、貧困層を対象に11月まで無料で食料を配給すると発表している。(虎)
インドネシア
新型コロナ対策の社会的制限が緩和され、これまで一時休業していた商業施設がようやく営業を再開した。商業施設内の飲食店や衣料品店も、多くがセールを行ったり、プロモーション価格を提供したりして、なんとか客足を取り戻そうと頑張っている。
ジャカルタ南部のショッピングモールで営業している、台湾系ブランドのタピオカ飲料店もその一つ。コロナの前はいつ行っても客が長蛇の列をつくっていたが、社会的制限で持ち帰り販売に限定された時期は閑古鳥が鳴いていた。普段なら並ぶのが嫌で購入しなかったが、再開後には二つ買えば三つくれるプロモ実施中と聞いて、ここぞとばかりに飛びついた。
こうした営業戦略で、もちろん彼らの売り上げが回復してほしい。でも割引価格につられて再びあの長蛇の列ができれば、今度は人混みのリスクも心配になってくる。(ア)
タイ
タイの夜の産業が7月から解禁となった。多くの外国人観光客を引き付けてきた産業の再開は、経済の正常化に向けた新たな一歩と考えたい。ただ、ダンサーらにもマスクやフェースシールドの着用が義務付けられている。
一方、新型コロナの市中感染が1カ月以上確認されていないこともあり、街中ではマスクを着用していない人の姿が増えてきた。第二波予防のため、引き続きマスク着用が呼び掛けられてはいるが、高温多湿の環境下、できるものなら避けたいのが本音だろう。
日本では人気ファストファッションが夏向けに機能性素材を使ったマスクを売り出したところ、購入希望者の長蛇の列ができて話題になった。常夏のタイでも顔を冷やすことのできる、ファッション性の高いマスクが売り出されればきっとヒットしそうな気がするが、いかがなものだろう。(須)