【アジア・ユニークビジネス列伝】
「コロナで爪切り大ヒット」
「変わり種のマイクロ保険」
それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。
【インド】
コロナで爪切り大ヒット
カレー食べる手を清潔に
インド仕様の爪切りは、爪の間の汚れを取るピック付き(貝印提供)
包丁、爪切りなど刃物を用いた調理器具や衛生用品のメーカー大手、貝印のインド事業が急伸している。
インドでは新型コロナウイルス感染症が大きく拡大する中、感染への警戒感から健康や衛生に対する意識が向上。カレーを素手で食べるなど手食文化が根強く残るインド人の間で、爪を短く清潔に保つことの大切さが見直されている。
2019/20年度(19年4月~20年3月)の売上高は、前年度比5.6倍と劇的に拡大した。現地法人のラジェシュ・パンディア社長は「右手でご飯を食べるインド人にとって、爪切りは必需品。新型コロナはチャンス」と語り、衛生観念の高まりが追い風になるとみる。
インド法人のカイ・マニュファクチュアリング・インディア(カイ・インディア)は、16年11月に西部ラジャスタン州ニムラナで工場を開所した。貝印にとっては米国、中国、ベトナムに続く海外4カ国目の生産拠点となった。爪切り(定価199ルピー=約280円)、ひげそり用のカミソリ(20ルピー)、包丁(130ルピー~)の3種類を生産する。
コロナ禍の全土封鎖により3月下旬に操業を停止。5月の最終週になって2カ月ぶりに生産を再開した。非必需品であることから販売活動も大きく制限されたが、パンディア社長は本年度も売り上げ倍増を目指している。
美容カミソリも人気
KAIショップで売れ筋のL字カミソリ(右)とビキニライン用カミソリ(左)(同)
インド人にはどんな商品が好まれるのか。カイ・インディアは首都ニューデリーの直営店「KAIショップ」やソーシャルメディア「インスタグラム」の公式アカウントを通じて、消費者の反応を探る。KAIショップは全土封鎖の段階的解除を受け、6月8日に営業を再開した。
2年前に販売を始め、売り上げが伸びているのが、女性向けのL字型カミソリとビキニライン用カミソリだ。「ビキニライン用はかなり売れている。予想しておらず意外なヒットだった。L字型カミソリは顔のうぶ毛を整える用途で、美容室に行く時間がなかなか取れない女性たちに選ばれている」とパンディア社長。
KAIショップは数百点の商品をそろえるアンテナショップとして機能させ、インスタでは美容系の人気インスタグラマーを活用しながら、ヒット商品の発掘を続ける考えだ。
2018/19年度(18年4月~19年3月)に始めたインド工場からの輸出もカイ・インディアの成長の原動力となった。インドを輸出拠点とする魅力は、人件費の安さと豊富な労働力だ。
パンディア社長は「米中の貿易摩擦により米国向け中国製品は高い関税をかけられているため、インド製品の需要が増している。さらに中東・アフリカ向けに輸出できる可能性のある拠点だ」と期待する。
美容カミソリなど輸入して販売している商品もまだまだ多いが「できるだけ多くの製品で、インド生産を実現させていきたい」(パンディア社長)と意気込む。(NNAインド 天野友紀子)
【シンガポール】
食事や乗車で保険料払う
変わり種のマイクロ保険
シンガポールのNTUCインカムは、日常の特定の行動に応じて保険料を支払う仕組みのマイクロインシュアランスを提供する(スナック公式サイトより)
シンガポールの保険大手NTUCインカムは、保険料の支払い方法がユニークなマイクロインシュアランス(低額保険商品)の提供を始めた。保険になじみのない消費者に、気軽な加入を促す狙いだ。
保険は「スナック」という名称で、掛け捨ての生命保険、重病保険、傷害保険の3種類。
保険料を支払うタイミングが、保険の契約時や年払い、月払いなどではなく「特定の行動をする度」であること、そして1回当たりの支払いが非常に少額であることが特徴だ。
加入者は飲食店で食事をしたり、交通系ICカードでバスや都市高速鉄道(MRT)に乗車したり、フィットネス用ウエアラブル端末の記録歩数が1日当たり5,000歩を超えるなど、日常生活で特定の行動をする度に保険料を支払う。
1回当たりの保険料は、30Sセント(約23円)、50Sセント、70Sセントのいずれか。保険の申し込みは、スナックのスマートフォン向けアプリから受け付ける。保障期間は360日間。
NTUCインカムのピーター・テイ最高デジタル責任者は、「保険に加入したことがない人などに気軽に利用してもらいたい。日常の行動に応じて保険料を支払う形態は、未来の保険の在り方だと考えている。今後、貯蓄型保険や投資型保険などにも広げていく余地がある」と述べた。