新企画【アジア・ユニークビジネス列伝】
「菌から肉を作る」
「空気から飲み水」
「総統再任で記念ビール発売」
それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスによく出会う。斬新で、ニッチで、予想外。今月から始まった新企画「アジア・ユニークビジネス列伝」では、「その手があったか!」と思わずうなってしまう発想に満ちて、現地ならではの意外なニーズや支持を得たユニークなビジネスを紹介する。
【シンガポール】
菌が生みだす肉の味
歯応えも再現「代替肉」
糸状菌フザリウム・ベネナタムを発酵させてできる、代替肉の基となる繊維質の物質=1月、シンガポール中央部(NNA撮影)
シンガポールにとって2019年は「代替肉」元年とも言える年だった。
代替肉とは動物の肉そっくりの加工食品で、多くは大豆などの植物性タンパク質を基に製造される。世界的なメーカーがシンガポール市場に相次ぎ参入し、レストランやスーパー向けの供給を拡大している。
代替肉の老舗企業、英国発祥のクォーンは「菌」から歯応えのある肉を作り出す。
原料となるのは糸状菌フザリウム・ベネナタム。炭水化物をタンパク質に変換する働きを持つ。この菌の発酵により形成される繊維質の塊が、大豆由来の製品では表現が難しかった肉らしい噛み応えを生み出す。
ヘルシーさも魅力の一つだ。タンパク質と食物繊維が豊富な一方、カロリーは鶏肉の3分の1程度と少なく、コレステロールは含まない。フザリウム・ベネナタムからできたタンパク質はヒトの身体への吸収が速く、牛乳が含むタンパク質の2倍の速さで筋肉に変換されるという。
クォーンは特に鶏肉、豚ひき肉、白身魚に似た味・食感の製品を手掛ける。モニーク・スリョクスモ副社長(アジア地域マーケティング担当)はNNAの取材に対し、「シンガポールでは35の飲食店やホテルと提携し、クォーンの代替肉を使った料理メニューを共同開発している」と明かした。
クォーンの代替肉商品で、アジアで売れ筋のナゲット(右)とカツ=同
フライドチキンチェーンの4フィンガーズ、日本食チェーンのいちばん弁当、スープチェーンのスープスプーンなどで、クォーンの代替肉を使ったメニューを期間限定で提供した実績がある。
小売店では地場スーパー大手NTUCフェアプライスをはじめとする、主要なスーパーでクォーンの16商品が販売されている。商品のラインアップは、そぼろ肉、角切り肉、ささみ、肉団子といった調理素材向けが4種類、ナゲット、カツ、ハンバーグなどの調理済み食品が7種類、原材料に乳製品も一切使わないビーガン向け素材と加工食品が5種類の計16商品だ。
アジア地域ではフィリピン、タイでも販売。域内での売れ筋はチキンナゲットにそっくりの「クリスピーナゲット」だ。同商品のシンガポールの店頭価格は6Sドル(約482円)と、手頃な価格設定となっている。
「日常の食材として受け入れられている」
同社によると、16年に参入したシンガポールでの売上高は毎年倍増しているという。研究開発(R&D)を統括するアンディー・クスモ科学技術担当ディレクターはNNAに対し、「日常使いする食材として、味でも価格でも市場に受け入れられている」と、力強く語った。
同社は、アジアを最重要の市場に位置付ける。経済成長に伴う人口増加でタンパク質の消費も拡大することを見すえ、域内の需要を取り込む考えだ。まずは東南アジアに注力し、市場を開拓する。
小売り販売用の商品や飲食店向けの食材を製造できるのは英国にある3工場のみであることから、現在はアジアに生産拠点を設けるための準備を進めている。
「大豆やキノコ由来の代替肉は次々に登場しているが、まだまだ価格が高かったり、食感が肉らしくなかったりする。クォーンは菌を由来とする代替肉を製造する唯一の企業であり、既に手頃な価格で市場に提供することもできている」(クスモ氏)と、さらなる拡大への自信を見せている。(取材・写真=NNAシンガポール 鈴木あかね)
【インド】
空気から飲み水
国鉄や海軍も採用
左右が水を生成するAWG製品で、中央は冷水機=インド・南部ハイデラバード(NNA撮影)
気候変動による不規則な降雨や急激な都市化・工業化、下水からの水質汚染などにより、インドでは6億人が水不足に直面している。
そのインドで、空気中の湿気から飲料水を生成する装置が商用化された。
一日に最大1,000リットルを生成することができ、既に南部の国鉄駅やインド海軍が利用している。製造・販売を推し進める新興企業マイトリ・アクアテックは、東南アジアやアフリカへの販路拡大も計画している。
装置名は、アトモスフェリック・ウオーター・ジェネレーター(AWG)。吸引された空気がフィルターを通過、内部の低温コイルで冷やされて結露し、水になる。いわば冷蔵庫のような仕組みだ。さらに別のフィルターで不純物や臭いを取り除き、殺菌処理を施して飲料水にする。
創業者で社長を務めるM・ラムクリシュナ氏は、18年6月に商用のAWGを発表し、19年から販売を開始した。
「類似の技術は以前から存在したが、ほぼ全ての天候に対応し、商業規模での実用化を果たしたのは当社が世界初だと認識している」と語る。
今年1月末までに、国内と海外で計170台ほどのAWGを販売した。インド国内では、軍需用が主要な仕向け先となる。
「インド海軍は航海中の大型艦で飲料水を作り出すため、われわれの製品を試験的に採用している。AWGがあれば、大量の飲料水を積み込む必要がないからだ」(ラムクリシュナ社長)
また、同社は貸出料を徴収する方式で公共機関や民間の施設へのAWGの設置を推進。向こう1〜2年をめどに1,000台のAWGを鉄道駅に設置する方向でインド国鉄と協議に入っている。
一般的なボトル入りミネラルウオーターの価格が1リットル当たり15ルピー(約22円)なのに対し、既にAWGを設置した南部ハイデラバード近郊のセカンデラバード駅では、その3分の1の5ルピーと格安で販売する。
大企業や集合住宅、教育機関などにも導入を働きかける。「生成した水は人工透析に使うこともできるため医療部門への展開や、工場の生産過程などで発生する湿気を水の生成に活用する考えもある」(同)
装置の価格は1台10万〜100万ルピー(約15万〜150万円)。水の生成能力により異なり、日量で30・100・250・1,000リットルという4種類の規格を用意している。水1リットルの生成に必要な電力は0.3〜0.4キロワット時(kWh)、平均コストは2ルピー以下となっている。
東南アジアの気候に向いている
「空気中の湿気は豊富な水資源であり、飲料水の持続可能な生成と確保はインドだけでなく世界中で需要がある」と、ラムクリシュナ社長は意気込む。
生成した水をボトルに詰めて販売する計画もある。写真は試作品=インド・南部ハイデラバード(NNA撮影)
これまで海外では、マレーシア、ザンビア、ケニア、南アフリカ、エチオピア、パプアニューギニアなどで販売。主に個人を対象にしていたが、最近は各国政府とも協議を進めている。
「AWGの運用は気温28度・湿度80%が理想的。沿岸部や海上など高温多湿の環境に適している。インド、アフリカと東南アジアの気候に向いている」(同)といい、インドと同じく清潔な飲料水の確保が難しい東南アジアでの売り込みに重点を置く考えだ。(取材・写真=NNAインド アトゥル・ランジャン)
【台湾】
総統2期目で記念品発売
切手にビール、ウイスキーも
蔡英文総統(左)と頼清徳副総統の記念切手(中華文化総会提供)
5月20日、2期目の就任を果たした蔡英文総統。台湾の文化団体である中華文化総会(総会)は同日、就任記念の切手と酒を発売した。中央通信社などが伝えた。
記念品は公営企業と協力し製作。酒は計5種類あり、公営の台湾エン酒(TTL、エン=草かんむりに於)が製品開発を手掛けた。
このうち、ビールの「サイ(さんずいに卒)」は、台湾エン酒のビールブランド「台湾ビール」を基にベルギービールの醸造方法を取り入れた新商品。他の品に先駆けて6日からスーパーやコンビニで販売した。
台湾エン酒のウイスキーブランド「オマー」の限定品や、黄酒(中国や台湾の醸造酒)の「玉泉珍蔵30年陳紹」なども売り出した。
記念酒のパッケージは、台湾人デザイナーの聶永真氏が担当。「脱権威主義」などをイメージしたという。
一方、切手は公営の中華郵政が製作に当たった。主に5種類の切手を用意しており、聶氏が同じくデザインを担当。うち4種類は抽象画のイラストをあしらったシンプルなデザインで、聶氏によると「民主」などをイメージした。
もう1種類は蔡氏と頼清徳副総統の写真を使用した切手。2人とも白いワイシャツを身にまとい、さわやかな雰囲気を演出している。
蔡氏は1月の総統選で、最大野党・中国国民党の韓国瑜氏などを破って再選を果たしていた。