アジア経済を視る April, 2020, No.63
【アジメシ】
マレーシアの新婚ビジネスマン
妻を射止めたステーキ店
昼食をはさみながら、アジアに生きる人々の生活や夢を垣間見る連載企画「アジメシ」。今回はクアラルンプール在住で、ＩＴ企業に勤めるマレーシア人のモハド・ファヒム・モハド・リズアンさん（33）が登場してくれます。国主導でグローバルＩＴ企業を積極的に誘致してきたマレーシア。日本に留学経験のあるファヒムさんはマレー語、英語、日本語が流ちょうで、それらの企業から引く手あまた。華麗なキャリアアップを果たします。今年２月に結婚したばかりの妻と共に、イスラム教徒（ムスリム）に人気のステーキ店でランチしながら今後の人生やキャリア観を聞きました。（取材・写真＝ライター 鈴木美鈴）
幸せいっぱいのファヒムさん（右）。ステーキを頬張りながら「ベンツに乗りたい」と夢を語る。妻のシャザさん（左）は「まだ早い。今ので充分」とたしなめる＝マレーシア・クアラルンプール（筆者撮影）
「日本語を習得して本当に良かった」と実感を込めて話すファヒムさん。転職で順調にキャリアを重ねて収入も大幅に上昇、私生活が一変した。
国費留学生として日本に渡り、岩手大学工学部を卒業。自国に戻り、日系大手メーカーでエンジニアとして３年弱働いた。その後、米系企業から2.5倍もの給与を提示されて社内ＩＴサポートの仕事に転職して１年勤務。次に大手ＩＴ企業に転職し、ここでも社内ＩＴサポートの仕事を２年経験した。４社目となる現在はインド系のＩＴ企業に移り、米系大手航空会社の顧客サポートを行うコールセンターの日本語対応チームで勤務する。肩書きのない一般社員だが「多分、現地採用の日系企業のマネジャークラスと同じぐらいか、少し多いぐらいの給料だと思う」（ファヒムさん）
車を買い替え、クアラルンプールの郊外にもマンションを購入した。結婚生活も具体的に思い描くようになり、婚活サイトで一目ぼれした生涯の伴侶と出会った。
ファヒムさんが妻のシャザさん（28）と初めて会う場所に選んだのが、今回訪れたカジュアルなステーキレストラン「メナーテ」。友人ともよく来る使い慣れた店だ。
ハラル専門のステーキレストラン「メナーテ」。クアラルンプール都心に近い緑豊かなアンパンというエリアに出店。電柱の電線をサルが伝うなど、のどかな風情が感じられる。イスラム系住民に知名度の高いチェーン店で国内に６店舗あり、どの店も礼拝スペースを完備。客層の８～９割がムスリムでファミリーの利用が多い。この日は偶然、有名女優が夫や子どもと来店していた＝同
仕事や私生活で落ち込んだ日は、看板メニューのステーキや、「この味が一番口に合う」というお気に入りのシーフードパスタを食べて気を晴らしてきた。
「もし彼女にフラれちゃったら、ここのパスタで元気を出そうと思った」と笑うファヒムさん。
豪州牛のストリップロインステーキ（256グラム）。同店は豪州産牛肉とラム肉が人気で平均単価70～80ＭＲ（約1,750～2,000円）とリーズナブル。焼き加減はファヒムさんがウェルダン、シャザさんはミディアムレアを好む＝同（ファヒムさん撮影）
念願の初デートは「知的なのに気取っていない。話しやすくて心地いい人」（シャザさん）と大成功だった。
24時間体制の変則シフトで働くファヒムさんと、平日の日勤中心だが夜間救急も行う公立総合病院で働く多忙な精神科医のシャザさん。
二人は少しでも時間があれば互いの職場や家の近くに出向き、できる限り食事を共にすることで距離を縮める。そして、初デートから６カ月でのスピード婚を果たした。
冷蔵ケースにハラルの生肉が入っていて、好きな肉を選んで注文、それを焼いてもらう、というシステム。政府のハラル認証機関（JAKIM）が承認する肉なので、イスラム教徒も安心して食べることができる＝同（筆者撮影）
マネジメント層目指す
しばらくは二人きりの新婚生活を楽しみ、子どもは来年以降になってから欲しいという。「子育てには戸建ての家がいいわ。まず家を買うことからね」と、シャザさん。子どもができたら、時短で働ける診療所のドクターに転身するつもりだ。
仕事のやりがいについて、ファヒムさんは「日系企業でエンジニアをしていた時が一番やりがいを感じて面白かった」と未練も見せる。しかし、転職したからこそ享受できる裕福な生活には変えられないという。
最近は新人の指導を頼まれることもあり、メンター役にやりがいを見出しつつある。
「チームをまとめるのは大変だと上司を見て思う。慎重にキャリアを積んで40代までにはマネジャーになっていたい」と、ファヒムさん。現職または転職も含めてチャンスをうかがいながら、マネジメント層への出世を目指していくつもりだ。
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