NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2020, No.62

【アジアエクスプレス】

トルコ発、デニムに触ってデバイス操作

カバーにイスコタッチを使用したクッション。触れると上部のLEDが光る。裏側にバッテリーとペアリング用のタグが付いている(NNA撮影)

カバーにイスコタッチを使用したクッション。触れると上部のLEDランプが光る。裏側にバッテリーとペアリング用のタグが付いている(NNA撮影)

ウエアラブルデバイスのための展示会が2月12日からの3日間、東京ビッグサイトで開催された。そこで注目を集めたのが、トルコの大手デニム素材ブランド「ISKO(イスコ)」が開発した新技術。生地にタッチセンサー機能を持たせる「ISKO Touch(イスコタッチ)」だ。(文・写真=東京編集部 片岡野乃子)

2019年にデンマークの首都コペンハーゲンで発表されたイスコタッチは、布地を電導繊維に加工してタッチパネル化させる技術だ。ブルートゥースで電子機器と接続すれば「自宅でクッションをなでるだけで空調やテレビのチャンネルを変えられる」と同社。家電からスマートフォンなどまでさまざまな場面での活用が期待されており、現在は産業・民生用問わず技術活用のための提携先を探している最中という。同様の技術として、15年に米IT大手グーグルも衣類のタッチセンサー化計画を発表しているが、ISKO開発チームのトップであるマフムット・オズデミル研究開発センターマネジャーは、「イスコタッチの機能性はグーグルのそれ以上だ」と話す。

実際に同技術を使用して操作できる体験型展示の一つ。PCからは音楽が流れており、手前のクッションをなでるとアルバムや音量が変えられる(NNA撮影)

実際に同技術を使用して操作できる体験型展示の一つ。PCからは音楽が流れており、手前のクッションをなでるとアルバムや音量が変えられる(NNA撮影)

グーグルが米ジーンズ大手リーバイ・ストラウスとの提携で17年に製品化した「ジャカード」は、デニムジャケット型のウエアラブルデバイスで、ジャケットとスマートフォンをペアリング(無線接続)し、袖口など特定の箇所に触れることで直接画面に触らず機器を操作できる。イスコタッチもジャカードもバッテリーとブルートゥースタグを外せば家庭用洗濯機でも洗濯可能だ。

イスコタッチを使用したクッション。触れた箇所に反応して特定のLEDランプが点灯する(NNA撮影)

イスコタッチを使用したクッション。触れた箇所に反応して特定のLEDランプが点灯する(NNA撮影)

オズデミル氏によれば、イスコタッチとジャカードの違いは4つ。ジャカードは金属性の細い電導繊維を生地に織り込んでいるが、イスコタッチは布に特殊なインクを印刷、もしくは含有させた糸を織り込むことで生地をセンサー化させている。そのため生地のどこにも金属部分は見つからず、伸ばしても裁断してもただのデニムと変わらない。またジャカードが操作方向にある程度の制約があるのに対し、イスコタッチはあらゆる方向への操作を感知できるという。触れた際の圧力や接地面の大きさから、それが操作か単なる接触かをイスコタッチが判断するので誤作動の心配も少ない。2点以上の接地面をそれぞれ感知できることもイスコタッチのポイントだ。

ISKO開発部門センターマネージャーのオズデミル氏。背後にあるのはイスコタッチが張られたパネル。手のマークに触れると「うず」の中から、デニムに粗い石をこすりつけたり、ブラシでなでた時の音が流れる(NNA撮影)

ISKO開発部門センターマネージャーのオズデミル氏。背後にあるのはイスコタッチが張られたパネル。手のマークに触れると「うず」の中から、デニムに粗い石をこすりつけたり、ブラシでなでた時の音が流れる(NNA撮影)

展示会の来場者からの評判も良く、「期待した以上の反応だ」と喜ぶオズデミル氏。その他、触れた場所によって埋め込まれたLEDが点滅するクッション、生地をつまむ強さによって画面上に波形が現れるパソコン用アプリのほか、触れると音が鳴るパネルなど来場者の五感を意識した展示が行われた。

ISKOはトルコの大手財閥SANKO社が展開するグループ企業の一つ。トルコ最大手にして世界的なデニムメーカーとして欧米を中心に展開しており、日本では高品質なストレッチジーンズで有名。同社はイスコタッチ以外にも300回洗っても色落ちしないデニムや、どれだけ伸ばしても元通りになる形状記憶ジーンズといった技術を開発している。

最も重要視すべきは利益ではなく、ユーザーにとって必要な技術を提供することと話すオズデミル氏。「われわれの真の目的は、医者と患者の関係のように、技術開発によってユーザーの悩みを解決することだ」

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