【Aのある風景】
食の企業の責任感
ムスリム思いハラル食品集める 業務スーパー
2020年の東京五輪を控えた日本では食文化の多様化が進み、外食産業を中心にビーガン(完全菜食主義者)・ベジタリアン(菜食主義者)をはじめ、食への対応が迫られている。中でもここ数年で急速に知名度を上げたのがハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)フードで、主にアルコールや豚由来の原材料や添加物を使用しない食品を指す。東南アジアや中東地域からの訪日客呼び込み強化に伴い、ハラル認証を受けた飲食店や祈とう室も増え、ハラルビジネスがブームとなっている。 そうした中、日本に暮らすムスリムたちの食料問題解決のため一足早く動いていた企業がある。業務スーパーを運営する神戸物産(兵庫県稲美町)だ。
東京都台東区の上野広小路駅から春日通りに沿って徒歩3分ほどの場所、韓国やベトナム、インド料理店のほかフィリピンパブやアジアンバーが建ち並ぶ中に、「業務スーパー 上野広小路店」がある。店内は日本人よりも東アジアや東南アジア系の客が多い。
御徒町駅からも徒歩3分ほどの上野広小路店。営業時間は午前9時から午前0時。繁華街の近くにある。「お客様が楽しめる店づくりをしている」と、同店店長。13年にオープンした
業務スーパーは飲食店向けに業務用食材を販売する「プロ仕様スーパー」の一種。一般客も利用可能で、海外直輸入商品の取り扱いや高品質・低価格の徹底で幅広い層に人気がある。他店よりも比較的小さい店舗という同店、周辺の飲食店スタッフと思われる人々に混じり、キャリーバッグを持った観光客が狭い通路を器用にすり抜けていた。
来店者のうち半分は訪日観光客、半分が近辺に在住する外国人と日本人だ。 ピークタイムは午後3時~午後8時で、昼ごろは観光客を含む一般の客が多く、朝と夕方は近辺のレストランからの仕入れ客が増える。日の平均売り上げは言えないものの、関東一帯を担当するスーパーバイザーは「店舗の規模に対し比較的高い」と話す。
神戸物産が本格的にハラルフードに注力し始めたのは8年前だ。国内でアルコールや豚由来の原材料を使用しない食品を見つけるのは容易ではなく、日本在住ムスリムの食料調達は困難だった。食に関わる企業としての責任感からこれを重要課題と受け止めた同社は、ハラルフードの展開拡大を決意。12年から輸入したハラルフードに認証マークを付けて販売し、ウェブサイトにも専用ページを設けるなど積極的に取り扱いをアピールし始めた。ムスリムの社員からの意見も参考に商品選定を行い、70~80種類だったハラルフードはいまや200種類に増加した。
上野広小路店の特設ハラルコーナー。この棚以外にも多くのハラルフードが並んでいた
業務スーパーのウェブサイトではハラルフードの取り扱いを大々的にアピールしている
ただ今のところ、上野広小路店ではハラルフードだけを求める客は少ない。「一定の需要はあるが、売り上げの中で特段大きな割合を占めているわけではない」と同店の店長は話す。ハラルフードについての問い合わせも日に2、3度あるかないか程度だが、浅草でほぼ毎年開催されているフードダイバーシティ(食の多様性)対応商品の展示商談会が近づくと問い合わせは増えるという。店長のおすすめハラルフードはチキンナゲット(1キログラム)で、「1人用にしては量が多いが、おいしい定番商品だから」。「ココナッツミルク」(1リットル)も同店の売れ筋ハラルフードのひとつだが、ムスリムよりも自炊が好きな一般客への需要が高いようだ。
神戸物産おすすめのグリーンカレーヌードル。日常的に食べられるハラルフードが手頃な価格で手に入る点がポイント。この日は5袋入り235円で販売されていた。(在庫状況、価格は店舗により変動あり)
神戸物産は今後コーシャ(ユダヤ教の戒律で食べることが許された食品)やビーガンへの対応も視野に入れている。
価格の安さや「世界の本物」のラインナップで、日本人のみならず在留外国人や訪日客にも多くのファンを持つ業務スーパー。ファン層の広さは、食への強い責任感と消費者への愛が実った結果かも知れない。