すごいアジア人材@日本企業
ベトナムの有望人材を確保せよ
モスフードの取り組み
フードビジネス人材育成プログラム「ベトナム カゾク」では2023年までに350人を養成する計画だ=ベトナム・ダナン、19年9月(モスフードサービス提供)
日本で2019年4月から新たな在留資格「特定技能」が施行されたものの、19年11月時点での取得者は、同年度中に最大4万7,000人としていた政府見込みの2%弱にとどまっている。そうした中、独自に外国人材を確保しようと動きだしている企業がある。ファストフードチェーン「モスバーガー」を展開するモスフードサービス(東京都品川区)もそうした企業の一つだ。同社は昨年10月からベトナムの中部ダナン市にある国立ダナン観光短期大学と提携し、外食向けの特定技能ビザ取得を支援する教育を開始した。
特定技能の資格終了後もケア
ベトナム人を「家族のように寄り添い、帰国後も家族として応援し続ける」との思いを込めて「ベトナム カゾク(Viet Nam kazoku)」と名付けられた同プログラム。オーダーメードユニホーム製作のソーイングボックス(群馬県館林市)のグループ企業で、ベトナムの人材教育で実績がある菅沼グループベトナム(ハノイ市)と提携して進めている。
同プログラムでは、モスバーガー店舗での業務を早期に習得するための独自のカリキュラムを大学と共同開発。日本語の語学研修、外食技能研修と併せた原則12カ月の教育で、プログラム参加を希望するダナン観光短大の学生に提供する。同プログラムを受講し、在留資格「特定技能」を取得したベトナム人学生を、日本国内のモスバーガー店舗などで採用する。フルタイム正規雇用者として最長5年の在留が可能だ。
5年後の特定技能ビザの終了後もアジア諸国にあるモスバーガー店舗に就業できる体制を目指している。モスフードは、海外で計384店舗(19年11月末時点)を展開。アジアでは台湾、香港、中国、韓国、シンガポール、タイ、インドネシアに進出しており、20年にはベトナムに出店する計画も明らかにしている。
初年度は50人に教育を施し、今年夏ごろに試験合格者が初来日すると想定している。以降、毎年100人ずつ採用し、23年までに累計350人が日本のグループ店舗で働くことになる。プログラム受講生が増えていった場合、フランチャイズ加盟店を中心に他社への就業者紹介も検討する。
プログラム修了者が、日本に渡航するに当たっては、ベトナムの送り出し機関に30万~40万円の手数料を支払う必要がある。大学新卒社員の平均月額賃金が250米ドル(約2万8,000円)の同国にあって、低い費用ではないが、特定技能の資格で日本で働いた場合、日本人と同様の待遇が保証される。加えて日本からの帰国後もベトナムなどでの就業が可能となれば、就業先としての魅力は高まる。
ベトナム以外での展開も視野
モスバーガーの日本国内の店舗スタッフのうち、外国人の占める割合は1%。外国人スタッフが働く店舗は全体の2割弱と現在のところそれほど外国人に対する依存度が高いとはいえない。しかし、少子高齢化によって人口減少が続く日本にあって、日本人だけを対象とした求人はやがて行き詰まることが目に見えている。
モスフードで同プログラムの責任者を務める川越勉・経営サポート本部長は「特定技能14業種に外食を加えてもらったのはありがたい」と話す一方、外国人受け入れのための仕組みづくりや政府間の交渉があまり進んでいないことに懸念を表明。優れた外国人人材を確保するため、早急な仕組みづくりの必要性を強調した。同社では、ベトナムを第1弾とする独自の人材確保プログラムを他のアジア諸国に広げていくことを視野に入れている。
東京都内のモスバーガーで働くベトナム人留学生のバンさん。同チェーンで働く外国人はベトナム人の割合が最も高い(モスフードサービス提供)
在日ベトナム人500人超が集結
高度なテクノロジー人材を国土発展の武器に
都市部のコンビニエンスストアや居酒屋で働くベトナム人を多く見掛けるようになった。しかし、ベトナム人は日本の人手不足を支える「低賃金労働者」だけではない。高度人材を供給する対等なパートナーとして、日本がベトナムに「協力をお願いする」という時代がすぐそこまで来ている。
AI、製造業の付加価値化で日越協業
「ベトナムの周辺国は競合国といえるが、日本は協業できる国だ」と話すファン・タム情報通信次官=東京(NNA撮影)
「日本の文部科学省は2022年以降、大学全学部に人工知能(AI)を科目として義務化する。ところが、日本ではデータ・サイエンティストやAIを教える人材も不足するのは明らかだ。これはわれわれベトナムの業界にとってはチャンスとなる」。こんな議論をグーグル・ジャパンや日越両国にソフト開発拠点を構える起業家たちが交わしていた。
19年11月16日に東京・お台場地区で、500人を超える在日ベトナム人のエンジニア、理工系大学教員、学生らが参加した「ベトナム・サミット」。ほぼ100%ベトナム語だけの世界だった。
「メイク・イン・ベトナム」をテーマに、午前中はベトナムからの参加者や代表らによる基調講演が行われ、午後の分科会では日本に在住するベトナム人が、「ビッグデータ」「低炭素社会の実現」「医療」「インダストリー4.0」などをテーマに討議していた。今は日本の大手企業や研究機関で働きながら、ゆくゆくはベトナムへその技術を応用させていこうという意気込みが感じられた。
ベトナムから駆け付けたファン・タム情報通信次官はNNAに対し、「システム開発やデザインといった製造業の付加価値の部分で、日本企業の開発人材不足と、ベトナムの高度人材が協業できる。日本企業はぜひ、研究開発(R&D)センターをベトナムに開設してほしい」と訴えた。
日本の完成車メーカーと自動運転技術などで協業するベトナム最大級のIT企業、FPTソフトウェアのホアン・ナム・ティエン代表取締役会長も基調講演の冒頭で、「学生の皆さん。卒業しても、すぐにベトナムには戻らないでください。日本で習得した知識はベトナムでは生かされず無駄になります」と述べ、笑いを誘った。しかし、続けて「日本で5~10年働けば、見識や技術を得るだけではなく、ベトナム人や日本人の人脈も広がる。あなたは、ベトナムだけではなく日本にも必要な人材になるはずです。その頃、帰国してください」と熱弁を振るった。
(左)500人以上の在日ベトナム人エンジニアらが参加した「ベトナム・サミット」=東京(NNA撮影)(右)再生可能エネルギーの分科会では、スマートグリッドや電気自動車(EV)に関して議論。東京大学、豊田工業大学などのベトナム人研究者に、パナソニックに勤務するエンジニアらが熱心に質問していた=東京(NNA撮影)