すごいアジア人材@日本企業
「母国で独立の夢」
自動車整備業の外国人材事情
ネパール出身のサントスさん
製造拠点の主力は海外に移っても、日本で約8,000万台が保有される自動車の修理・点検は海外には出すことはできない。日本では整備士の志望する若者の減少に加えて、高齢整備士の引退・退職が始まっており、向こう5年間で1万3,000人の整備士不足が見込まれている。ディーラーや整備会社の外国人材登用は待ったなしだ。【文・写真=NNA東京編集部 遠藤堂太】
東京・千葉を中心に12の店舗・整備工場を構える鈴木自工。午後6時を回り外は暗くなったが、整備場の明るいライトの下で、もくもくと作業をしている外国人の姿があった。
ネパール出身のアディカリ・サントスさん(24歳)。2017年に来日し自動車整備の専門学校に通い、19年4月に入社した。
「10年間は日本で働いた後、ネパールで整備会社を経営します。既に土地は押さえていますから」とサントスさん。人生設計が明確でストレートだ。
日産自動車系のディーラーで整備士として入社する選択肢もあったが、鈴木自工を選んだ理由は、「日産車だけではなく、外国車を含めいろんなメーカーの車を修理して技術を身に付けたいから」と、流ちょうな日本語で答えた。
ディーラー志向の日本人
鈴木自工の鈴木将仁社長によると、外国人の場合は、技術を取得し母国で独立するため、いろいろな車を扱える自動車整備工場を選ぶ。
一方、日本人学生は、完成車メーカー系列のディーラーを志向する傾向が強い。
「ディーラーにしか就職をあっせんしない専門学校もあります。有名完成車メーカー系列の販売店だと親御さんが安心するのか、進路実績として見栄えがいいのかもしれません。でも、うちもディーラー並みに初任給20万円以上は出していますよ」と話す。
サントスさんは就労査証(ビザ)(「技術・人文知識・国際業務ビザ」)を取得しており、7月には、ネパールから奥さんも呼び寄せ新婚生活をスタートさせた。
鈴木自工の従業員260人のうち、整備士は約70人。このうち外国人は、技能実習生やアルバイトを含めると20人以上の体制だ。千葉の店舗では、中国人整備士を車検対応の接客に登用したところ、中国人客が増えたという。
出所:業界団体発表の国土交通省作成資料
「たまたま、自動車整備の専門学校から、10年前(09年)に留学生の採用提案があって、外国人の採用を始めたが、もし外国人がいなければ、今、会社はどんなことになっていたか」と鈴木社長。同業には余裕のあるうちに、外国人材を受け入れる土壌を築いた方がいいと話している。
ただ、順風満帆にも見える鈴木自工でも厳しい現実が垣間見えた。
車検のコバックや中古車売買アップルの代理店事業も行う鈴木自工本社(東京・江戸川区)と鈴木将仁社長
技能実習制度に不満
「日本の技能実習制度には納得できない。実際には就労ですよ」。フィリピン・ルソン島北部バギオ出身の技能実習生、ジャスパー・ローエンさん(27歳)が日本語に時折、英語を交えながら話す。
ジャスパーさんは、フィリピンの大学を卒業後、現地の専門学校で自動車修理を教えており、18年に来日した。当然ながら、仕事をこなす量も新卒者とは比べものにならないし、時には教えることもある。
技能実習制度に16年から新たに自動車整備士が加わり、18年には在留期間が最長3年から5年に延長された。建前は、「実習」「研修生」であり「就労」ではないが、制度と実態が乖離(かいり)している。
ジャスパーさんの不満の理由は、基本給が一般従業員より4万~5万円低いことだ。これは日本の監理団体に会社が毎月支払う分が引かれている。「この金額を負担して、他の社員と同一の賃金を払うのは今のわれわれにとっては厳しい」(鈴木社長)
実習生受け入れの費用は、監理団体への月々の支払いだけではない。渡航費やビザ手続き、研修費など事業者には初年度は50万円以上の初期費用はかかる。決して「安い労働力」ではない。事業者にとっての負担は大きく、実習生にとっても不満が残る制度だ。
それでもジャスパーさんは、鈴木自工が気に入っている。外国人を普通に受け入れる職場の雰囲気が良い上、残業代が支給されるからだ。「残業代を支払わない」という違反行為の整備工場も多いという。
「技能実習生は職場を変えることはできない。だから、自分はラッキーだった」とジャスパーさん。兄弟は4男1女の大家族で、時には月10万円を超える仕送りでフィリピンの家族を支えている。帰国後は自分の店を開く予定だ。
フィリピン出身のジャスパーさんは技能実習生として勤務する
インターンで囲い込みも
メーカー系列のディーラーも外国人材の獲得に向け独自に動く。ホンダ系のホンダサロン石川(金沢市)は19年11月から、ベトナムのホーチミン市工業大学(HUTECH)自動車学科4年生2人をインターンシップ生として受け入れを開始した。ディーラー系でインターンシップ生の受け入れは珍しい。学生は、日本での半年間の研修を授業の単位取得に振り替える。
「外国人の受け入れは初めてなので、こちらも緊張している」というホンダサロン石川の平田隆文副社長。「お互いが納得すれば、卒業後は(就労ビザで勤務する)社員として受け入れたい。この半年間はお見合いみたいなものです」と話す。平田氏は、営業休業日には、2人のアパートに行くなど、生活の様子にも気を配る。
このインターンシップ生のスキームを同社に紹介したのは、自動車関連人材紹介のアセアン・カービジネス・キャリア(東京都千代田区)の川崎大輔社長だ。「自動車整備学科卒の大卒外国人は、技能実習生のマネジメントに加え、将来はディーラーや自動車整備会社が海外進出する際のリーダーになって、日本やアジアの自動車産業に貢献してほしい」と期待を込める。