NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2020, No.60

すごいアジア人材@日本企業

専門家の視点①

東京経済大学グローバル組織・キャリア開発研究所
小山健太 所長

日本企業だからこそ、
外国人材の個性を組織活性化につなげよ

「自社で優秀な外国人材にいかに活躍してもらったらいいのか」──。日本で少子高齢化による労働者不足が深刻化しつつある中、国内外の大学を卒業した「高度外国人材」の採用が当たり前になる時代はもうそこまで来ている。日本人とは異なる彼らの発想力をイノベーションにつなげていくこともできるだろう。東京経済大学グローバル組織・キャリア開発研究所所長の小山健太准教授は、「人材育成型の日本企業だからこそ、外国人材それぞれの個性を生かした役割設定が可能となる」と主張する。

異文化マネジメントの変革

「中国人は…」「ベトナム人は…」といった国・地域ごとの勤労観や価値観などを比較することが、これまでの異文化マネジメント研究の主流だった。異文化の人たちと衝突しないよう、それぞれの国・地域の文化を理解しようという考え方が背景にある。

だが、自ら母国を離れ、日本で学び、働く挑戦をしている外国人材に対し、出身国の平均的な勤労観がそのまま当てはまるかは疑問だ。彼・彼女がどういう人物なのか、その個性を見ることの方がより重要だろう。

異文化接触についても、そこで起こり得るコンフリクト(摩擦・あつれき・擦れ違い)をむやみに怖れず、むしろコンフリクトから生じる創造性などポジティブな面に関心を向けるべき。さまざまな価値観を持つ人々がチームを組むことで、新しいものを生み出せる可能性が高まる。

日本企業の人材マネジメントは、新卒を一括採用し、入社後にさまざまな業務や経験を通じて成長させることを基本にしている。欧米のように、ある特定の仕事に対して必要な能力を持っている人材を即戦力で採用する「ジョブ型」とは異なる、世界的にもユニークな「人材育成型」の人材マネジメントだ。この日本型の人材マネジメントを欧米のジョブ型に変革し、外国人材を含めた即戦力を採用していけるようにしようという考え方がある一方で、日本の「人材育成型」の人材マネジメントをいかにグローバル化させるかという議論もある。私は後者の方がより現実的だと考えている。

政府は留学生30万人計画を掲げ、実際に日本への留学生は増えてはいるものの、国内での就職は進んでいない。企業側が外国人社員を上手に活用できる自信がなければ採用は増えない。その一方で、企業のイノベーションにつなげるなど外国人材の活用で成果を上げている事例もある。外国人材が活躍する各事例に共通する要素を解明することで、日本型人材マネジメントをグローバル化する道筋が見いだせるだろう。

外国人社員が定着しない理由

実は、外国人社員を上手にマネジメントできていない組織には特徴がある。それは、上司が外国人社員に日本人社員と同じように行動することを求め、「うまくいっていて、大きな問題はない」と判断してしまうことだ。ところが、当の外国社員は「上司が自分のことを理解してくれない」と内心で思っている。異なる価値観、文化背景を持つ人材を雇えば、必ずそこにはコンフリクトが生じるということを上司が認識しなければ、相互理解という次の段階に進んでいけない。このような組織では大抵、外国人社員の個性的な発想や能力を顧みず、日本人社員との「同化」を求めている。また、前提となる文脈の説明を省いたハイコンテクストなコミュニケーションとなっていて、外国人社員は仕事内容を十分に理解できず、孤立感や不安感を深める。同化を求めるアプローチでは、外国人社員が持つ異質な視点を活用して新しいものを生み出すことは不可能だ。

個性を見たコミュニケーション

ある企業では、日本人上司が意識して、組織を活性化させるための役割を一人一人の外国人社員に与えていた。さらに、外国人社員に対して事業戦略などを言語化して説明していた。すると、外国人社員は組織から受け入れられているという感覚を持ち、組織の発展に貢献しようという意欲が高まった。

部下の役割設定において、上司の裁量が大きい日本の組織だからこそ、部下たちと綿密なコミュニケーションを取ることで、一人一人の個性を生かす役割を柔軟に設定することが可能になる。社員のジョブ(職務)が事前から明確に決まっていないからこそ可能となる、いわば日本型のダイバーシティー・マネジメントだ。

外国人材を採用することで生じるコンフリクトは、人材一人一人の個性を重視しない人材マネジメントの問題点が顕在化したことをも意味する。そうした組織では、人材を出身国、性別、年代などのカテゴリーで暗黙に区別して、個性を見ないマネジメントをしている可能性が高い。外国人材が活躍できる組織というのは、日本人も含めて多様な一人一人の人材が個性を生かし、活躍できる組織だ。そうした組織では、多様な視点から新しいものが次々と生み出され、企業全体の発展にもつながっていくだろう。

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