NNAカンパサール

アジア経済を視る November, 2019, No.58

「東西」の本から「亜州」を読み解く

アジアの本棚

『「5G革命」の真実
──5G通信と米中デジタル冷戦のすべて

深田萌絵 著


『ファーウェイと米中5G戦争』

近藤大介 著


「5G革命」の真実―5G通信と米中デジタル冷戦のすべて

米中両政府は10月、中国が米国産農産物を大量購入するなど貿易交渉での「第一段階の合意」を達成した。昨年夏に貿易戦争に突入後、米中がなんらかの「合意」に達したのは初めてだが、米国が問題にしている外国企業への強制的な技術移転といった構造改革は先送りされ、米国による通信設備大手、華為(ファーウェイ)への制裁も今後どうなるか見通せないままだ。しかも、米国がなぜ華為を狙い撃ちにしているのか、華為は本当に米国を脅かすほどの技術力を持っているのか、といった肝心な点は論点が入り組んでいて分かりにくい。

ということで、今回は華為を巡る米中対立に焦点を絞った本2冊を紹介したい。一冊は深田萌絵『「5G革命」の真実―5G通信と米中デジタル冷戦のすべて』(WAC)、もう一冊は近藤大介『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)。いずれも今夏に出たばかりで、前者の筆者はITアナリスト、後者は中国に詳しいジャーナリスト。異なる視点から華為問題を分析しているが、華為と5Gを巡る米中の駆け引きを理解する上で参考になる。

深田氏の本にはIT専門家が「一般人にとって何が5Gのメリットなのかうまく説明できないで困っている」という話が出てくるが、2人の本を読んで分かってくるのは個人がスマートフォンで動画を見る程度なら実は現行の4Gで十分であり、5Gによる高速化、大容量化のメリットがあるのは、IoT(モノのインターネット)で生産の飛躍的効率化や大幅な省エネを享受できる大企業か、個人情報を含め大量のデータを収集・解析し「資源」として活用する政府だ、という冷徹な事実だ。それを狙っているのは中国だけでなく、米国も同じだ。

デジタル主権を主張できるのは米国と中国だけ

ファーウェイと米中5G戦争

華為は年間特許申請件数で世界首位を誇り、5G基地局では30カ国と契約している。5G技術のトップランナーなのは間違いないが、深田氏も近藤氏も「技術覇権を失うことを警戒する米国が華為=中国の情報インフラ拡大を抑え込もうとしている」という構図を示している。近藤氏は、フランス人の先端技術の専門家の話として「世界でデジタル主権を主張できるのは米国と中国だけ。それ以外の国は(情報を)アメリカ人に盗まれるか中国人に盗まれるかだ」という皮肉な見方を紹介している。日本ではピンと来ないかもしれないが、アジアやアフリカでは、米国に情報を支配されるより、支援してくれる中国の方がいいという国も少なくないとされる。欧州各国も5Gでは必ずしも米国の要求通り華為を排除する方向にはなっていないようだ。いずれにせよ、華為を巡る米中の争いが次世代通信の支配権を巡るすさまじい闘争になっているのは間違いない。



『「5G革命」の真実―5G通信と米中デジタル冷戦のすべて』

  • 深田萌絵 著 WAC
  • 2019年7月発行 920円+税

『ファーウェイと米中5G戦争』

  • 近藤大介 著 講談社+α新書
  • 2019年7月発行 840円+税

【本の選者】岩瀬 彰

NNA代表取締役社長。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年より現職

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