【プロの眼】辺境写真家 栗田哲男
第3回 少数民族との出会い方
今回は、辺境の地で伝統的な暮らしをする少数民族に出会う方法をお話ししたいと思います。ただ、以下に挙げる方法は、中国に特化した方法であることをご了承ください。
定期市にて食事をとる女性たち=中国雲南省西双版納傣族自治州撮影
一つ目は、地図を見て少数民族が暮らす場所を地名で見極めることです。
例えば、中国の雲南省。中国全土における少数民族の人口比率は8.49%(2010年の第六次全国人口普査による)であるのに対し、雲南省は33.4%という非常に高い数値を誇る省です。しかも、雲南省にしかいない少数民族が15も存在します。
最も簡単で大まかな見方として「〜族自治州」を探します。「文山壮族苗族自治州」や「紅河哈尼族彝族自治州」は明らかに少数民族が多い場所ということが分かります。次に、さらに細かく州の下位の行政単位である「〜族自治県」(県は日本の郡に相当)を探します。少数民族による自治を表した地名はここまでですので、この先はより小さな行政単位である鎮や郷、さらには村の具体的な名前で判断します。
地名で少数民族が分かる
地名で何族が暮らしているかも分かります。
最も簡単に見分けられるのが、タイ族(傣族)の居住地です。傣語(タイ王国のタイ語と区別するために漢字表記とします)由来の地名が多いからです。タイ族が暮らすエリアで、場所を意味する「勐」(同音の「孟」も同じ)、集落を意味する「曼」(近い音の「芒」も同じ)が付く地名は、タイ族が集中して暮らす場所である可能性が非常に高いと言えます。
例えば、「西双版納傣族自治州」のようなタイ族の比率が極端に高い場所ではなく、普洱市のように色んな民族が混じり合って暮らしている地に行くとします。そういった場合でも、「孟連県」、その下の「勐馬鎮」とたどっていくと、「勐馬村」、「勐阿村」といった村が存在します。こうして見ていけば、タイ族が多く暮らす村が見つかるというわけです。
この方法の応用は内モンゴル自治区でも可能です。モンゴル語由来の行政単位を見ていけば良いからです。具体的には、「旗」=「県」、「盟」=「地区」または「市」、「蘇木」=「郷」または「鎮」、「嘎査」=「村」という具合に当てはめて見ていきます。
二つ目は地図の位置・地形で判断することです。
まずは省境の地域が狙い目となります。こうした地は経済開発が遅れ気味ですが、逆に少数民族の伝統的な文化が色濃く残っていることが多いのです。
幹線道路から離れ、細い道路によって通じている村落、しかも道路の先が山などで立ち消えているような地は、伝統的な文化が残った集落である可能性が大と言えます。
街で開かれる定期市に行こう
三つ目は、定期的に開かれる市場に行くことです。街に暮らしていない人たちは、普段商店などで買い物をすることが不可能です。同様に、農産物を販売することもできません。よって、そうした地域では定期的に市場が開かれ、農産物や日用品の売り買いが行われます。特に山岳部に暮らす少数民族にとっては重要な日です。
開催される場所は、村単位では小さすぎますので、市や鎮、郷の中心地となります。特に鎮や郷で開催される定期市では、民族衣装で着飾った人たちがたくさん集まります。
ここで問題なのは、定期市が開かれる日です。町ごとにバラバラですが、大きく分けると、次の四つの法則があります。
1.毎週1回開かれ、曜日が決まっている場合
例えば、毎週日曜日といった具合に決まっており、その街の法則を知っていれば、簡単に訪問できます。中国に限らずベトナムでもこういった法則があります。
2.新暦の5の倍数となる日にちの場合
具体的に書きますと、毎月5日、10日、15日、20日、25日、30日です。
3.旧暦(農暦)の日干支で決まる場合
ここから少し難しくなります。日干支とは、10種類の「干」と12種類の「支」から構成され、六十干支ともいいます。しかし、この場合は「十干」は無視して「十二支」の部分のみを見ます。例えば「甲子」の日であれば「子」とします。一般的に子(ネズミ)と午(ウマ)の日といった具合に、6日に1回開かれるような法則になっています。まれに卯(ウサギ)、未(ヒツジ)、亥(イノシシ)の日のように4日に1回という法則も存在します。
この法則は、日本人にはなかなか理解し難いですが、法則さえ分かれば日を簡単に特定できます。
4.日にちや日干支に関係なく5日に1回や、6日に1回という場合
これが簡単そうに見えて最も厄介なケースです。起点となる日が分からないからです。この場合は、現地の公共機関に電話するなどして最近開かれた定期市の日を確認するしかありません。しかし、定期市に関心のない人にとっては記憶が曖昧となるため、複数の情報を元に判断する必要があります。
今回は、非常にマニアックな内容でありましたが、特に定期市はオススメですので、機会があればぜひ訪れてみてください。