NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2019, No.57

【アジアインタビュー】

貿易戦争の再発に警鐘、ジム・ロジャーズ氏

米中貿易戦争はいつまで続くか。米国の真意は何か。トランプ大統領は来年再選されるか――。東京都内でNNAの単独インタビューに応じた米著名投資家ジム・ロジャーズ氏は、米中貿易戦争が収まっても新たな危機を警戒すべきだと指摘。世界経済の不透明感が増す中、2007年に「アジアの世紀」の到来を予測し、家族でシンガポールに移住した同氏に、アジアで投資先として有望な国や日本企業がいまできることを聞いた。(取材・文=江康慧、写真=市川かほり)

米中貿易戦争が収まっても新たな危機を警戒すべきだと指摘するジム・ロジャーズ氏=東京(NNA撮影)

米中貿易戦争が収まっても新たな危機を警戒すべきだと指摘するジム・ロジャーズ氏=東京(NNA撮影)

トランプ氏再選、待ち受ける最悪の危機

――昨年から米中両国が相互に追加関税を実施し始め貿易戦争が激化したが、行き着く先はどこか

世界に良い影響を与える貿易戦争はどこにもないし、貿易戦争を望む人はいない。米中両国だけでなく、私がいま住んでいるシンガポールや、日本などの関係国の人々も貿易戦争で大きな影響を受け、苦しんでいる。憂慮すべき状況だ。

「未来を読むために、歴史に学ぶ」というのが私の持論だが、トランプ氏は自分が歴史よりも賢く、貿易戦争が大統領再選の後押しになると信じている。実際に彼が再選するかどうかは難しい議論だが、米国の歴史上、現職の大統領はしばしば、対抗馬にはできないことができるので、常に再選を果たしてきた。もし私がどちらかに賭けるなら、トランプ氏が勝つ方に賭ける。

米国の歴史から見れば、貿易摩擦は一般的に約2年続く。近いうちに中国と米国の関係が改善したとのニュースが発表されることになるだろう。だが米国経済が悪化すれば、トランプ氏は次に、日本人や韓国人、ドイツ人のせいにして、より大きな貿易戦争を仕掛けるだろう。世界は私の人生の中で最悪の経済危機を経験することになる。世界経済は(米中)貿易戦争のために疲弊しているが、向こう数年は非常に悪い時期を経験するだろう。

米国は過去10年、経済危機がなかった。米国の歴史上では最も長かった。貿易戦争がなければさらに良い10年が続いたかもしれないが、もう遅い。

日本は外国人材を受け入れよ

――危機に揃えて日本企業がいまできることは。中国では現地の日系企業などがベトナムへ生産移管する動きもある

(日本を)逃げ出すことだ(笑)。それは冗談だが、日本企業は債務をあまり増やさないように注意すべきだ。経済が悪くなれば、多くの企業が破産する可能性がある。08年に起きたリーマン・ショックも、企業が巨大な債務を抱えて経営破綻したことに端を発し、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した。日本企業は賢明であり心配しすぎる必要はない。日本語で「危機」という言葉があるが、危機は危険でもあり、好機でもある。危険なときに債務が多いと好機を得られない。事業に奉仕し続け、大きな問題を抱えていなければ、危機を好機に変えられる。

日系や外国企業は、アジアで現地生産するのに一所懸命だ。ベトナムは中国から近いし、生産地としては悪くない。アジア全体には人口30億人の市場があるから、アジアで最善の場所を探すべきだと思う。コストがより安いシベリアや北朝鮮に移転するのも手だ。日本企業は19年時点では北朝鮮に生産移転できないが、21年になればできるようになるかもしれない。

――10月から実施される消費増税をどう評価するか

増税は安倍政権にとっては良いことだが、日本企業や国民にとってはよくない。日本をより繁栄させ、国際競争力を高める助けにはならない。少子高齢化を背景に、日本は人口が減少し、社会保障などのための債務が増える一方、人手不足によりビジネスコストが上がっている。無駄な公共事業をやめ歳出を徹底的にカットし、積極的に外国人人材を受け入れるべきだ。これは私の意見ではなく単純な事実だ。日本は世界で最も好きな国のひとつだが、いま日本で起きていることは好ましくない。

北朝鮮とロシアが有望投資先

――中国経済にリスクがある中、中国で投資する価値がある分野は。また、中国以外に投資先として有望な国はどこか

米中貿易戦争のただ中にある中国だが、今後より多くの問題を抱えることになるだろう。中国は20年前まで借金がなかった。毛沢東(中国共産党)にお金を貸す人などいなかったからだ。いまは債務を抱えるようになり、今後企業の倒産が起きて人々やメディアを驚かせるだろう。それでも中国は経済大国として台頭することに違いない。米国も経済不況や企業の経営破綻などさまざまな問題があったが、いまは成功している。中国は問題を直視し、それに対応する準備を整える必要がある。中国の経済は好調で、私自身も中国に投資しているし、新たな投資先も探している。特に農業、旅行業は有望で成長するだろう。負債を多く抱える中国企業は、米国との貿易戦争で問題が起こるかもしれない。中国の農業はそれとは関係がなく、明るい未来がある。

中国のほか、北朝鮮は最も有望だ。資源が豊富で、人々が教育に熱心で、勤勉に働き貯金もする。そうした国民性から、北朝鮮は中国と同様に成功する条件を揃えている。

ロシアは多くの欧米人などに嫌われるが、大国であり、債務がなくビジネスコストも低いことから多くの国に比べて投資先として良い。ただ注意しないといけないのは次に経済危機が起きると大きな影響を受けると予想される国であることだ。


【ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)】

1942年米国アラバマ州生まれ、76歳。イェール大学とオックスフォード大学で歴史学を修了後、ウォール街で働く。ジョージ・ソロス氏とクォンタム・ファンドを設立し、10年で4,200%の驚異的なリターンを叩き出す。ソロス氏、ウォーレン・バフェット氏とともに「世界3大投資家」に数えられる。最新の著作「日本への警告―米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く」(講談社+α新書)の出版に合わせて来日した。

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