NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2019, No.56

【アジアインタビュー ②】

アジアに未来あり、思うほど差はない
総合家電メーカー目指すアイリスオーヤマ

大山晃弘社長

プラスチック収納ケースなどの生活用品を製造販売してきたアイリスオーヤマ(仙台市)。旧来の大手電機メーカーが採算悪化で家電事業を次々と手放す中、こうした家電メーカーの早期退職者らを積極的に採用し、流れに逆行して「総合家電メーカー」を目指す。「日の丸家電」が苦しめられた中国や韓国市場では、サーキュレーター(空気循環器)や布団乾燥機など「なるほど家電」で攻める。ニッチ市場で勝負を挑む大山晃弘社長にアジア戦略を聞いた。(取材・文=NNA東京編集部 江康慧、写真・文=同 片岡野乃子)

なるほど家電で攻勢

世の中で販売される家電を使い倒して、その不便な点を見つけて開発した「なるほど家電」は、消費者を「なるほど」と納得させる実用性と手頃な価格が強み。ニッチな需要を掘り起こして日本ではヒットを連発した。2017年に人気商品のサーキューレーターや布団乾燥機などを中国市場に投入すると「予想以上の反応があった」(大山社長)。

中国では当初、サーキューレーターは一般的ではなかったため、使い方の動画を作成して店頭で試用してもらった。「天猫(Tモール)」や「京東(JD.com)」などの大手通販サイトへの旗艦店出店や販促も効いて、18年の家電売上高は前年比数倍に拡大した。

広州工場の商品展示室に並べられている各種サーキュレーター。冷房器具の消費電力を削減できる効果があり、中国でヒットした=広州市(NNA撮影)

大山社長は「サーキューレーターはわれわれが作り上げた市場だ」と自負する。認知度の拡大に伴い、今年は模倣品も出回り始めたという。中国では家電メーカーとしての知名度が高いとは言えないが、ありそうでなかった家電製品は確実に消費者の心を捉え始めている。

勢いは台湾にも広がっている。ある台湾人のブロガーがアイリスの布団クリーナーを使ってダニを取り除いたという話をブログに掲載すると、日本国内の販売台数に迫るほど爆発的に売れた。台湾人が日本を旅行した際にもお土産として持ち帰っているという。

富裕層が増えつつある東南アジアでも最近、フィリピンやマレーシア、ベトナム向けの出荷が伸びている。現地の地場メーカーと価格面で競り合うのは難しいため、「ニッチな商品かつ日本ブランド、日本品質であることを強調する」戦略だ。プラスチック収納ケースなどが売り上げの半分以上を占める中国や韓国と違って、東南アジアでは家電メーカーとしての存在感が大きい。

退職技術者を引き込む

なるほど家電の開発を担うのは、技術者の半数を占める他社からの転職者だ。同社が技術者を積極的に採用したのは大手家電メーカーが大幅な人員削減を実施した12年前後。14年に大阪・心斎橋、18年に東京・浜松町に開発拠点を作ったのも技術者採用が狙い。

働きやすい場所にオフィスを構えることで「引越しなしで来てくれる」と期待し、近隣の大手電機メーカーから早期退職者や経験者を次々と引き込んだ。技術者が企画から開発、販売まですべてのプロセスを一貫して手掛けられるのが魅力で、こうした「やりがい」は口コミで広がり、他社からの転職者は後を絶たない。「日本は人手不足。人材が会社を選ぶ時代になってきた。うちに来れば成長できると思ってもらえる会社を目指したい」と話す。

生産の中心は中国

なるほど家電をはじめ、アイリスオーヤマの製造を支えるのは中国にある9つの生産拠点だ。大連は日本や欧米などへの輸出拠点であり、蘇州は上海をはじめとする華東地域への商品供給に強みを発揮する。広州は珠江デルタを中心とする華南地域への物流拠点であるほか、地場の家電メーカーが多く、電気・電子部品のサプライヤーも集積しているため部品調達にも有利だ。

今年6月には天津に10カ所目の工場建設を発表。稼働すれば、華北地域への物流効率が大きく改善され、拡大するインターネット通販での競争力向上にもつながる。それぞれの地域の強みを生かし、家電や金属製品などのほぼすべてを生産して中国国内供給するほか、海外にも輸出する。日本や欧米などの工場は、基本的に物流コストがかかるプラスチック収納ケースやチェストなどを生産する。

今年3月には韓国・仁川での新工場設立を決めたのも、インターネット通販で売り上げが急増する韓国国内市場に供給するのが目的。18年11月に設立したベトナム現地法人は、「あくまでも中国生産向けの原材料や部品調達拠点」と位置付ける。米中貿易摩擦や人件費上昇への懸念から東南アジアに生産移転を進める企業が出てきても、大山社長は「我が社の生産の中心は中国であり続ける」と強調する。

コストダウンの秘訣

中国の自動倉庫。入出庫はコンピューター管理による自動化を実現している=広州市(NNA撮影)

中国の工場は1996年に設立した当初から自動化を進めてきた。現在はすべての生産現場にロボットを導入し、完全自動化を実現したラインもある。受注から生産、出荷までコンピューターで管理し、指示に基づいて出荷商品のパレットが自動的に取り出され、搬送ロボットが配送出口まで運ぶという流れ。品質の向上や人件費の削減につながる。「経営利益の50%を常に投資に回すという方針があり、効率改善のため自動化に投資を続けてきた」と話す。

さまざまな業種の商品をひとつの工場で生産する「デパートメントファクトリー」も特徴だ。例えば一般的な電球工場では、電球や照明のみ製造するところを、同社は電球からプラスチック収納ケース、家具まですべて同一工場で生産している。家電についても、外装はほとんどがプラスチックなので、同じ工場で内製化することでコストを抑える。多種多様な素材を組み合わせて新しい商品を作れるメリットも大きい。

多様化する消費者のニーズに素早く対応するため、工場の稼働率を7割に設定している。一時の利益率や売上高を目指すのではなく、長期的目線で投資や経営を考えていきたいと説明する。

「アジアに未来がある。日本で受け入れられるモノはアジアでも受け入れる。日本のライフスタイルを輸出したい私たち日本人が思うほど差はない」と語る大山社長。生活様式が基本的に同じとの考えから「海外向けにコンセプトから作り上げた商品はない」と話す。

日本国内の売上高は昨年初めて、家電が半分以上占めるようになった。アジアでも家電メーカーとして地位を固めつつある。


大山晃弘(おおやま・あきひろ)

アイリスオーヤマ代表取締役社長。1978年生まれ、41歳。2003年にIRIS USAに入社。10年にアイリスオーヤマのグローバル開発部部長、13年愛麗思(中国)グループ董事長を経て、18年7月から現職。仙台市出身。休日は子どもと料理を作ったり畑仕事をして過ごしている。

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