NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2019, No.56

アジアを走れ、次世代モビリティー

次世代技術でアジアを拓く
日系新興企業の挑戦

タイで行われた小型EV「FOMM ONE」のデモンストレーション(FOMM提供)

タイで行われた小型EV「FOMM ONE」のデモンストレーション(FOMM提供)

自動車が普及の途上にある東南アジアでは、電気自動車(EV)や自動運転などの次世代技術の浸透は、先進国に比べて遅れると考えられている。そうした中、いち早く東南アジア市場で、次世代技術を使った事業に乗り出した日系企業がある。彼らはアジアのモビリティー市場にどのような未来像を思い描いているのだろうか。

FOMMの鶴巻社長(NNA撮影)

FOMMの鶴巻社長(NNA撮影)

FOMM「水に浮くEV」をタイに投入

EVでタイの国民車を目指したい」。今年から同国でEVの販売を始めたベンチャー企業FOMM(フォム、川崎市)の鶴巻日出夫社長は力を込める。

同社は、日本で開発した4人乗り小型EV「FOMM ONE(フォム・ワン)」を、3月末にタイ東部のチョンブリ県の工場で量産を開始、7月末までに同国で50台ほどを納車した。

FOMM ONEの最大の特長は水に浮くこと。トヨタ車体の1人乗りEV「コムス」の開発に携わった鶴巻社長は、東日本大震災の際に車で津波から逃げようとして遅れた人達の被害を知り、水に浮くEVがあれば助かる命もあったと考え、FOMMを設立した。最初からタイでEVを販売することが念頭にあったわけではないが、洪水被害が多発する同国にあって、「水に浮くクルマ」は大きなアピールポイントだ。

既に自動車を保有する世帯のセカンドカーとして、主婦の買い物や子どもの送り迎えなどの都市内移動での利用を主に想定している。全長2,585ミリメートル、全幅1,295ミリ、全高1,550ミリのコンパクトな車体は、狭い路地の多いタイの都市にあって、取り回しが良く、縦列駐車がしやすい。販売価格は66万4,000バーツ(約234万円)で、日産が今年タイに投入したEV「リーフ」の現地価格の3分の1だ。

EV普及の鍵は政府のインセンティブ

FOMM ONEはこれまでに2,000台の予約を受け付けた。「タイでも環境意識は高まっているが、環境性能やデザイン性だけではクルマは売れない。やはりもっと価格を下げる必要がある」と鶴巻社長。期待するのはタイ政府によるインセンティブだ。「EVが普及している国・地域では例外なく政府が購入補助金などのインセンティブを行っている」と話し、政府による支援の必要性を訴える。「補助金などによって購入台数が増えれば、生産コストが下がり、小売り価格も低下する良い循環が生み出せる」と主張する。

今後は法人向けやタイからの輸出にも注力する方針だ。来年以降にタイ国内およびタイからの輸出を合わせ、年間1万台以上の販売台数を目標に掲げる。

【メモ】

◉FOMM ONE

車輪に駆動用モーターを内蔵したインホイールモーターを採用。前列のシート下と車体後部に脱着式のリチウムイオン電池を計4個搭載する。航続距離166キロメートル、最高時速80キロ。フル充電には7時間半を要するが、5分ほどでバッテリー交換が可能な専用ステーションの整備を計画している。タイ工場の年産能力は1万5,000台。部品の現地調達率は現在70%ほどで、将来は90%まで高める方針だ。
ベトナムでのMaaS事業を発表したWILLERの村瀬茂高代表(右から2人目)。中央は合弁相手のマイリングループのホー・フイ代表(NNA撮影)

ベトナムでのMaaS事業を発表したWILLERの村瀬茂高代表(右から2人目)。中央は合弁相手のマイリングループのホー・フイ代表(NNA撮影)

WILLER ベトナムでMaaS事業

日本全国で高速バスを運行しているWILLER(ウィラー、大阪市)が、10月からベトナムで「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス、マース)」事業を始める。同国における移動手段の中心手段である都市間バスと、タクシー配車アプリを使ってシームレスな移動手段を実現する計画だ。スマートフォンを通じた1度の予約、決済で自宅から目的地まで移動できるオンデマンド交通サービスを提供する。

WILLERとマイリングループによる都市間バスは首都ハノイと約250キロ離れたタインホアを結ぶ(WILLER提供)

タクシー配車アプリは2020年までにマイリンの全車両に導入する(NNA撮影)

まず都市間バスと配車アプリを始動

タクシー配車アプリは日本語にも対応している(WILLER提供)

MaaS事業に先立ち、ベトナムのタクシー大手マイリングループとの合弁により、都市間バスの運行を9月に始める。リアルタイムでの遠隔監視や運行管理センターなど、WILLERが日本で培った安全運行システムを導入。MaaSの基軸交通となる都市間移動サービスを日本品質でまずは北部で提供する。また、6月にはタクシーの配車アプリサービスを開始した。ハノイを運行エリアとするマイリンタクシー1,000台を対象としている。10月には最大都市ホーチミン市などを運行する5,000台に拡大し、2020年までにマイリンが保有する全車両1万6,000台を対象とする方針でいる。

WILLERは、ベトナムを皮切りに、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイなどの東南アジア諸国や台湾にもMaaSのサービスを順次拡大していく計画だ。

フィンランドで始まった、公共交通やタクシーなどを組み合わせた効率の良い移動サービスを目指すMaaS。WILLERは、経済成長が著しい東南アジアでは、観光やビジネス旅行などで移動する人が増える一方、交通渋滞や交通事故が頻発し、移動上の安全・定時速達性・快適性を求める利用者の声が高まっており、MaaSに対するニーズは大きくなるとみている。

【メモ】

WILLERは、自動運転の実用化に向けた取り組みもシンガポールで進めている。オンデマンド型自動運転車の実証実験プロジェクトを西部ジュロンの公園「ジュロン・レイク・ガーデン」で実施。MRT(地下鉄・高架鉄道)東西線レイクサイド駅と公園南部の駐車場を結ぶ約2.5キロの区間を運行している。商用化に向け、利用者や近隣住民などの自動運転車に対する反応や、潜在ニーズを把握する狙いだ。

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