アジアを走れ、次世代モビリティー
自動運転の未来都市、実現なるか
中国・雄安新区訪問記
中国政府が世界最高のハイテクと環境対応の未来都市「雄安新区」を北京近郊に建設すると発表したのは2017年4月だ。「国家、千年の大事業」とされ人口2,000万人を超える北京の機能の一部を、東京23区の3倍近い広大な土地(面積1,700平方キロメートル)に移転させる狙いだ。発表から1年後にはモデル地区とも呼べる「雄安市民サービスセンター」が完成。自動運転バスや無人移動販売機、無人清掃車が走り回り、スーパーマーケットも無人という未来型都市ができたと報じられているが、実際はどうなっているのか。(文・写真=NNA東京編集部 遠藤堂太、写真はいずれも雄安新区内)
アジア最大規模とされる雄安駅は18年12月に着工、20年末完成を目指し建設中だ。北京までは1時間弱で結ばれる。今年9月末に開業予定の北京新空港を経由する
北京中心部から高速道路で南へ130キロメートル。途中、今年9月末の開業予定の世界最大級とされる「北京大興国際空港」のそばを通過しながら1時間45分で「雄安市民サービスセンター」の駐車場に到着した。見学者はここからセンターまでの3キロを専用の電気自動車(EV)バスで移動する。
センターで最初にみるのは「新石器」と書かれた検索大手の百度や華為技術(ファーウェイ)のステッカーが貼られた無人移動販売機だ。売っているのは記念メダルだが、故障の際の電話番号が手書きで貼られていた。よほど故障が多いのだろうか。
500~600メートル四方ほどの人工的なサービスセンターの区画にあるのは、雄安新区管理委員会のほか、スターバックスなど飲食チェーンも入居する低層事務棟、住宅棟、映画館、無人スーパー、顔認証で入退室できるホテル、職員用キャンティーンなどだ。
雄安市民サービスセンター内の無人モビリティーは、現段階では観光用のショーケースといった印象だ。ただ、同区は全国から注目され、観光客や視察客も多い。雄安新区は数年内にも自動車・通信産業の研究開発(R&D)拠点開設、自動運転を前提としたスマートシティー建設に向けた動きが本格化するとみられる。日本企業が雄安新区でビジネス展開を行えば、宣伝効果は大きいかもしれない。
アジア最大の駅、わずか2年で完成
北京への帰り、麦・トウモロコシ畑が広がる華北平原の一般道を西へ20キロほど走ると、突然視界が開けた。巨大な雄安駅の建設現場だ。昨年12月に着工、来年末に完成後は北京・大興新空港・天津を結ぶ一大ターミナルになる。この駅の巨大さと建設スピードに、政府の雄安新区開発の決意を感じる。
雄安駅予定地への移動中、不動産広告の看板はみなかった。政府が不動産投機を抑制しているためだ。雄安新区の計画の全容を公表しない理由もここにある。
中国とドイツ、EVの電力源に課題
電気自動車(EV)自体は、走行中に二酸化炭素(CO2)や排ガスを出さない。しかし、「ウェル・トゥー・ホイール」(油井からタイヤを駆動するまで)の排出量という観点でみれば、風力や太陽光など再生可能エネルギーによる発電比率を高める必要がある。
中国では電力源の75%が石炭火力由来だ。中国で低速EV(LSEV)を製造する時風集団(山東省高唐)の工場敷地内には、石炭火力発電所と職員住宅が「同居」し、煙を上げていた。農機メーカーからスタートした時風。石炭火力が経済成長のシンボルだった時代もあったのだろう。
ドイツは、「脱原発」に舵を切り、風力発電といったクリーンな電力を生産するイメージがあるが、電力源のうち石炭火力が占める割合は45%と意外に高い。電力価格と失業率を抑えるため国内炭田が維持されている。写真右下は、ドイツ西部の露天掘りのガルツバイラー褐炭田と火力発電所。