【アジアインタビュー】
日本のキャッシュレス決済に変革
中国出身技術者が立ち上げたネットスターズ
QRコード決済サービスのアグリゲーター(複数のサービスを集約する仲介事業者)として日本最大手となったネットスターズ(東京都中央区)は、中国出身のIT技術者3人が10年前に立ち上げた企業だ。日本での成功を糧に、シンガポールにも進出した。李剛(り・つよし)社長兼最高経営責任者(CEO)に経営戦略や今後のアジア展開について聞いた。(文・写真=NNA東京編集部 江康慧)
ネットスターズの社長兼CEOを務める李剛氏=東京(NNA撮影)
キャッシュレス化の波に乗る
ここ数年で異業種からの参入が相次ぐキャッシュレス決済。日本の経済産業省は2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、16年に20%だった国内のキャッシュレス決済比率を25年までに40%に引き上げる目標を掲げた。コード読み取り型のモバイル決済が加速し、インターネット上での取引だけでなく、実店舗にも広がった。
店にとっては管理が複雑になるが、ネットスターズはアグリゲーターとして、小売店が複数のQRコード決済を一つの端末で利用できる統合プラットフォーム「スターペイ」を提供。スターペイの導入店舗では、インバウンドの中国人観光客向けの「微信支付(ウィーチャットペイ)」や「支付宝(アリペイ)」のほか、「LINEペイ」「ペイペイ」など日本国内の主要各社10種類以上のQRコード決済を一つの端末で処理できる。
スターペイの決済端末のほか、各社の販売時点情報管理(POS)レジ端末や携帯アプリを通じた利用も可能で、個人商店でも初期費用なしで導入できる。決済手数料はクレジットカード決済と同等か低いという。
羽田空港や関西空港など主要な国際空港のほか、ファミリーマートとマツモトキヨシの全店、東京ソラマチなど、外国人旅行客が多く訪れる店舗・施設を対象に10万店以上が導入した。18年の決済件数は数百万件、決済総額は数百億円規模に上ったという。
李氏は「決済して終わりではなく、ウィーチャットなどで店の公式アカウントにフォローしてもらうことで購入者に対し帰国後もプロモーション情報を提供し続けることができ、越境電子商取引(EC)ビジネスにつなげることができる」と強調する。20年までに加盟店を100万店にまで拡大する目標を掲げ、「すでに達成は視野に入った」という。18年からスターペイが扱うQRコード決済に「LINEペイ」「ペイペイ」「楽天ペイ」などを続々と追加し、政府が推進する日本のキャッシュレス化の波に乗る。
「われわれは日本企業で、日本企業のために何ができるかを常に考えている」と李氏。「在日中国人の多くは中国人ネットワークを通じて(独自の)情報に接する機会が多いので、それをどのように日本社会で生かすかを考える」と話す。
信頼獲得に時間
中国・大連出身の李氏は09年、同じ中国出身のIT技術者2人と日本でネットスターズを立ち上げ、国際通信や国際ショートメッセージサービス(SMS)を開始した。当時、来日する中国人留学生が増えており、知名度を高めるため中国で普及していた騰訊控股(テンセント)のインスタントメッセンジャー、「QQ」のモバイル日本版をリリース。中国人だけではなく、中国につながりを持つ日本人もアクティブユーザーとなり一定の人気を獲得した。スマートフォンゲームや越境ECサイト、ショット動画の投稿アプリなどを試行錯誤した後、目をつけたのがモバイル決済だった。
当時、中国ではアリペイ、ウィーチャットペイなどが続々登場。財布を持たずスマホ1台で出かけられる便利さに加え、紙幣の不衛生さや安全性などの問題も解決した。店側にとっては消費者へのプロモーションを一体化できるメリットがある。李氏は「日本でも普及する直感があった」という。
モバイルQQ日本版を通じて築いた信頼関係もあり、14年8月にテンセントとウィーチャットペイの代理契約を結んだ。しかし日本の小売店に紹介すると「本当にお金が振り込まれるのか」「安全性は大丈夫なのか」と慎重に受け止められた。長く現金やクレジット決済が主役だった日本では浸透に時間がかかったが、「営業マンが全国を飛び回って1社1社に粘り強く説明してきた」という。
代理店契約から約1年後の15年7月、テンセントと日本で共同記者会見を開き、国内外のメディアに存在感をアピール。同年9月に大丸松坂屋が百貨店として初導入すると、徐々に浸透していった。
李氏は「技術の安全性や利用者の安心感をどう確保するかが常に最優先課題だ」と強調。ネットスターズは現在、社員約80人のうち半数が技術者という。
日本のビジネスモデルを輸出
インバウンドに関しては中国人だけではなく、急増する東南アジアの観光客向けのサービスも開始した。19年3月に戦略提携したシンガポールの通信最大手シンガポール・テレコム(シングテル)が進めてきた越境モバイル決済の国際アライアンス「VIA(ビア)」は7月25日に日本に上陸した。ビアに加盟するシンガポールの「ダッシュ」とタイの「グローバルペイ」がスターペイを利用する羽田空港の計34店舗で利用可能で、シンガポールとタイからの訪日客も自国で使う自国通貨建ての電子決済アプリで買い物や外食ができるようになった。今後はスターペイを導入した全店に順次に拡大していく予定。
スターペイの海外事業本格化に向け、18年4月にNTT東日本と伊藤忠テクノソリューションズから出資を受けた。アジア各国では異業種からの参入で決済事業者が乱立しているが、「日本のビジネスモデルを海外へ輸出できる」と李氏。複数の決済サービスをまとめたサービスは利便性が高いとみているからだ。
アジア展開について「各国は文化も商習慣も違うので、現地で暮らし、腹を割って話さない限り地元の人の本当の要望が分からないし、信頼も得られない」と強調。「現地化した有力なチーム」づくりから始めたいと謙虚な姿勢を見せた。
スターペイを導入すれば、10種類以上のQRコード決済を一つの端末で処理できる(ネットスターズ提供)
李剛(り・つよし)
1974年中国遼寧省生まれ。吉林大物理学科を卒業後、97年に留学のため来日。2001年に日本のIT会社に就職、ネットワークの設計から構築までを約10年間手掛けた。05年に日本国籍を取得。09年にネットスターズを設立し、代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。
中国出身技術者が立ち上げたネットスターズ
QRコード決済サービスのアグリゲーター(複数のサービスを集約する仲介事業者)として日本最大手となったネットスターズ(東京都中央区)は、中国出身のIT技術者3人が10年前に立ち上げた企業だ。日本での成功を糧に、シンガポールにも進出した。李剛(り・つよし)社長兼最高経営責任者(CEO)に経営戦略や今後のアジア展開について聞いた。(文・写真=NNA東京編集部 江康慧)
ネットスターズの社長兼CEOを務める李剛氏=東京(NNA撮影)
キャッシュレス化の波に乗る
ここ数年で異業種からの参入が相次ぐキャッシュレス決済。日本の経済産業省は2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、16年に20%だった国内のキャッシュレス決済比率を25年までに40%に引き上げる目標を掲げた。コード読み取り型のモバイル決済が加速し、インターネット上での取引だけでなく、実店舗にも広がった。
店にとっては管理が複雑になるが、ネットスターズはアグリゲーターとして、小売店が複数のQRコード決済を一つの端末で利用できる統合プラットフォーム「スターペイ」を提供。スターペイの導入店舗では、インバウンドの中国人観光客向けの「微信支付(ウィーチャットペイ)」や「支付宝(アリペイ)」のほか、「LINEペイ」「ペイペイ」など日本国内の主要各社10種類以上のQRコード決済を一つの端末で処理できる。
スターペイの決済端末のほか、各社の販売時点情報管理(POS)レジ端末や携帯アプリを通じた利用も可能で、個人商店でも初期費用なしで導入できる。決済手数料はクレジットカード決済と同等か低いという。
羽田空港や関西空港など主要な国際空港のほか、ファミリーマートとマツモトキヨシの全店、東京ソラマチなど、外国人旅行客が多く訪れる店舗・施設を対象に10万店以上が導入した。18年の決済件数は数百万件、決済総額は数百億円規模に上ったという。
李氏は「決済して終わりではなく、ウィーチャットなどで店の公式アカウントにフォローしてもらうことで購入者に対し帰国後もプロモーション情報を提供し続けることができ、越境電子商取引(EC)ビジネスにつなげることができる」と強調する。20年までに加盟店を100万店にまで拡大する目標を掲げ、「すでに達成は視野に入った」という。18年からスターペイが扱うQRコード決済に「LINEペイ」「ペイペイ」「楽天ペイ」などを続々と追加し、政府が推進する日本のキャッシュレス化の波に乗る。
「われわれは日本企業で、日本企業のために何ができるかを常に考えている」と李氏。「在日中国人の多くは中国人ネットワークを通じて(独自の)情報に接する機会が多いので、それをどのように日本社会で生かすかを考える」と話す。
信頼獲得に時間
中国・大連出身の李氏は09年、同じ中国出身のIT技術者2人と日本でネットスターズを立ち上げ、国際通信や国際ショートメッセージサービス(SMS)を開始した。当時、来日する中国人留学生が増えており、知名度を高めるため中国で普及していた騰訊控股(テンセント)のインスタントメッセンジャー、「QQ」のモバイル日本版をリリース。中国人だけではなく、中国につながりを持つ日本人もアクティブユーザーとなり一定の人気を獲得した。スマートフォンゲームや越境ECサイト、ショット動画の投稿アプリなどを試行錯誤した後、目をつけたのがモバイル決済だった。
当時、中国ではアリペイ、ウィーチャットペイなどが続々登場。財布を持たずスマホ1台で出かけられる便利さに加え、紙幣の不衛生さや安全性などの問題も解決した。店側にとっては消費者へのプロモーションを一体化できるメリットがある。李氏は「日本でも普及する直感があった」という。
モバイルQQ日本版を通じて築いた信頼関係もあり、14年8月にテンセントとウィーチャットペイの代理契約を結んだ。しかし日本の小売店に紹介すると「本当にお金が振り込まれるのか」「安全性は大丈夫なのか」と慎重に受け止められた。長く現金やクレジット決済が主役だった日本では浸透に時間がかかったが、「営業マンが全国を飛び回って1社1社に粘り強く説明してきた」という。
代理店契約から約1年後の15年7月、テンセントと日本で共同記者会見を開き、国内外のメディアに存在感をアピール。同年9月に大丸松坂屋が百貨店として初導入すると、徐々に浸透していった。
李氏は「技術の安全性や利用者の安心感をどう確保するかが常に最優先課題だ」と強調。ネットスターズは現在、社員約80人のうち半数が技術者という。
日本のビジネスモデルを輸出
インバウンドに関しては中国人だけではなく、急増する東南アジアの観光客向けのサービスも開始した。19年3月に戦略提携したシンガポールの通信最大手シンガポール・テレコム(シングテル)が進めてきた越境モバイル決済の国際アライアンス「VIA(ビア)」は7月25日に日本に上陸した。ビアに加盟するシンガポールの「ダッシュ」とタイの「グローバルペイ」がスターペイを利用する羽田空港の計34店舗で利用可能で、シンガポールとタイからの訪日客も自国で使う自国通貨建ての電子決済アプリで買い物や外食ができるようになった。今後はスターペイを導入した全店に順次に拡大していく予定。
スターペイの海外事業本格化に向け、18年4月にNTT東日本と伊藤忠テクノソリューションズから出資を受けた。アジア各国では異業種からの参入で決済事業者が乱立しているが、「日本のビジネスモデルを海外へ輸出できる」と李氏。複数の決済サービスをまとめたサービスは利便性が高いとみているからだ。
アジア展開について「各国は文化も商習慣も違うので、現地で暮らし、腹を割って話さない限り地元の人の本当の要望が分からないし、信頼も得られない」と強調。「現地化した有力なチーム」づくりから始めたいと謙虚な姿勢を見せた。
スターペイを導入すれば、10種類以上のQRコード決済を一つの端末で処理できる(ネットスターズ提供)