「東西」の本から「亜州」を読み解く
アジアの本棚
『China2049』
マイケル・ピルズベリー 著
米中両国の対立はいまでは貿易戦争を越え、「体制の激突」「文明の衝突」というモードになっているように思える。今回紹介する本は、米国の中国専門家が中国の覇権国家戦略を書いた「China2049」(マイケル・ピルズベリー著、2015年)。現在の中華人民共和国が建国されたのは1949年。「中国はそこから100年かけて、唯一の超大国、米国に代わる覇権国家を目指し、着々と『マラソン戦略』を実行している」という内容で、副題も「秘密裏に遂行される『世界覇権100年戦略』」とおどろおどろしい。
「米国のネット右翼が書いた陰謀本?」という声が聞こえてきそうだが、著者のピルズベリー氏は1970年代のニクソン政権当時からの米政府で中国専門家として働き、中国語も堪能。歴代の中国政府幹部とも親交があり、現在はワシントンのシンクタンクの研究員という経歴の人物だ。米国では親中的な人物を俗に「パンダ・ハガー(パンダを抱く人)」と呼ぶ。ピルズベリー氏は自らもその1人だったと認めたうえで「中国はなお弱く、助ければやがて民主的な国になる」と信じて世界貿易機関(WTO)加盟などを支援したが、「それは完全な間違いで、中国はもとから民主化する気などなく、自分たちは欺かれていた」という基本認識で構成されている。
「中国の爪」を警戒する米国
中国語には「韜光養晦(タオグアン・ヤンホイ=能ある鷹は爪を隠す)」という表現があり、鄧小平以降最近までの外交基本姿勢でもあったのだが、本書は「中国はずっと爪を隠していた」という見方だ。トランプ政権のペンス副大統領が昨年秋に行った演説もまさにそうしたトーンで、いま米国全体に広がっている対中認識だと言っていいだろう。3年前に書かれた本だが「米国はなぜそういう考え方に至ったか」という点に関心のある人には興味深い内容だと思う。
いまの米国では「パンダ・ハガー」は旗色が悪いが、彼らも黙っているわけではない。7月3日には、ハーバード大学のエズラ・ボーゲル名誉教授、ステープルトン・ロイ元中国大使ら著名なアジア専門家100人が米紙ワシントン・ポストに「中国は敵ではない」と題した公開書簡を発表し、トランプ政権の対中敵視政策を批判した。書簡は「貿易上の約束を守らないなど中国の最近の行為には強い対応が必要」としながら「中国のエリートの多くは穏健で、西側との協力こそ中国の利益に合致することを知っている」と主張している。トランプ米大統領はこれも「フェイクニュース」だと言うかも知れないが、物事が一方に行きすぎるとちゃんとバランスを取る動きが出てくるところが米国の懐の深さだ。
(と思っていたら、7月18日には対中強硬派の学者、退役軍人ら約130人が、トランプ大統領宛てに「中国共産党の野心と米国の戦略的利益とは相容れない」として、現在の対中強硬路線を継続するよう主張する公開書簡を発表した。相手側の内部対立は中国にとっては歓迎すべきニュースだろう)
『China2049』
- マイケル・ピルズベリー 著 日経BP社
- 2015年9月発行 2,000円+税