【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─山川草木編─
新華社
シンガポール
ガーデニングが趣味の母の影響で、花や植物が目に留まるとつい見入ってしまう。シンガポールでは政府の緑化政策が功を奏して、街中に自然が多く、散歩するだけでも楽しい。商業施設には花屋が何店舗か入っていることも多く、仕事帰りや買い物のついでによく足を運ぶ。
先週末も、ふと近所の花屋に立ち寄った。そこで見つけたのが、小さな花を咲かせる、かわいらしい観葉植物。店員によると、朝1回の水やりだけで、手入れは非常に簡単だという。マイナスイオンを放出してくれる効果もあるそうだ。
財布を開こうとする私に、店員が尋ねた。「確実に虫が寄ってくるけど、同居人は大丈夫か」。頭に浮かんだのは、私の「シェア」メイトたちの顔ぶれ――長期居候中のアリのほか、最近入居したクモやヤモリ。「みんな喜ぶに違いない」と、開きかけた財布の口を固く閉じた。(真)
インドネシア
花が好きな日本人の友人は、ジャカルタの書店には植物の図鑑がないと嘆く。確かに地場大手出版社の系列書店にも、洋書を扱う店の本棚にもそれらしきものは見当たらない。
豊かな自然に恵まれたインドネシアには、熱帯特有の色鮮やかな花たちが咲き誇る――という風景は、想像の域を出ないのだろうか。日中暑いジャカルタの街中で、花をめでる機会はあまりない。郊外のボゴール植物園まで足を伸ばしてみたが、どうやらそこは花よりも樹齢100年以上の大きな木々に囲まれて森林浴を楽しむ場所のようだ。
実は、ボゴールを含め国内3カ所の植物園に咲く花々を紹介した書籍があるそうだ。先日死去したアニ・ユドヨノ元大統領夫人が、生前に音頭を取って発刊したらしい。この本、ネットショップでは2万円弱で売られていた。もっと気軽に買える値段なら手が届くのに。(麻)
香港
ここ最近の香港はスコールのように短時間に強い雨が降る。ゆえに傘の携帯は必須だ。
先日、香港島西部にある西高山に登る機会があった。頂上からはビクトリア湾や九龍が望め、反対側にはラマ島などの島々が見える。高さにおびえながら国際金融都市・香港の街並みを一望していると、世界を制覇したような満足感に駆られるから不思議だ。そんな中、同行した知人が上げたのは「雨が降るぞ」の鋭い声。指さす方向を見ると、黒い雨雲の下をカーテンのように降り注ぐ雨が接近している。下山を急いだが、やはり途中で土砂降りの雨に見舞われた。
しかし、傘のありがたみを実感しながら30分ほどすれば、すっかり雨はやみ、青空が木々の隙間からのぞく。いつも以上に空気が澄んで、緑も濃く見える。高温多湿で雨ばかりの面倒な時期だが、あえて自然のど真ん中に飛び込んで楽しむのも悪くない。(亀)
オーストラリア
日本への一時帰国からシドニーに戻り、自然に触れたくなったので、ベロウラ・バレー国立公園へブッシュウオークに出掛けた。電車で行き帰りできる範囲で長く歩きたかったので、公園の南端から始めた。数年前に歩いて以来だが、自宅から30分以内にブッシュウオークができる場所があるのはシドニーの良いところだ。
都市の近郊とは思えない緑の中を2時間歩き続け、気分も良くなったところで、木に何やら掲示板が掛けられているのを見つけた。自分とは反対に北から南へ下る人だけを対象にした向きの掲示だ。回り込んで読むと、自分が歩いた日から、ちょうど歩いてきた区画への立ち入りを禁止する内容だ。山火事防止で緩衝地帯を作るために木を燃やす予定だという。
管理側ののんびりした仕事のおかげで何事もなかったが、危うく煙に巻かれるところだった。(頼徳)