NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2019, No.51

人を育てる日本の技術

「カイゼン」のトップランナー・エチオピア

デス・ジェネラルの工場長(右)とカイゼンコンサルタントが意見交換

デス・ジェネラルの工場長(右)とカイゼンコンサルタントが意見交換

カイゼン(改善)は、生産現場における品質や生産性の向上のための活動として、日本以外でも展開されている。エチオピア政府は2011年、「エチオピア・カイゼン機構(EKI)」を設立し、取り組みを加速。アフリカにおけるカイゼン導入の代表例になりつつある。

16年からEKIの所長を務めているメコネン・ヤイエ氏は、「カイゼンは、エチオピアの製造業にとって発展の鍵」と語る。EKIは国際協力機構(JICA)と協力してカイゼンプロジェクトを進めている。第1、第2フェーズのプロジェクトを経て、現在は対象期間5年の第3フェーズが進行中。第3フェーズではEKIがより進んだカイゼンのコンサルティングサービスを提供するため、EKI内の人材育成、中級レベルの人材育成に努めている。具体的には、1)中級レベルのカイゼンコンサルタントの育成、2)EKIマネジメント層の能力強化、3)カイゼンコンサルタントの資格認証制度の確立─などが目標だ。コンサルタントの育成は座学に1カ月、工場内での実習に7カ月の時間をとっている。

EKIはエチオピア政府の予算で運営されており、カイゼン普及活動への投資は毎年1億ブル(約3億9,000万円)以上。EKIには100人以上のカイゼンコンサルタントが在籍し、企業(工場)に対するカイゼン導入や指導、フォローアップを行っている。

デス・ジェネラルのアルミ鍋工場。カイゼンの一環で5Sを導入した

デス・ジェネラルのアルミ鍋工場。カイゼンの一環で5Sを導入した

9000万ドル以上の資金・コスト削減

エチオピア国内では、過去5年で700社以上がカイゼンを導入。導入企業ではさまざまな無駄が減り、累計9,049万米ドル(約100億円)相当の資金・コスト削減ができたというデータがある。カイゼンを導入した工場12カ所を対象にした指標では、品質が40%向上し、不良率が大幅に低下した。無駄なコストは41%削減、必要な材料や部品を探す時間は20%短縮した。

アルミ鍋やポリ塩化ビニール(PVC)製食器などを生産しているデス・ジェネラルは、18年にカイゼンの初級の訓練とコンサルティングを受け、工場に「5S」を導入した。現在、企業戦略の策定方法を学ぶべく中級のコンサルティングを受けている。同社を担当するEKIのカイゼンコンサルタントは、「エチオピアでは今、工業団地の建設ラッシュが起きているが、製造現場では人材が足りていない。実際に生産が始まる前に、初級の5Sだけでも導入できれば、それだけで不要なトラブルや無駄をある程度防ぐことができる」と話した。

一方、慢性的な外貨不足がカイゼン導入にも影を落とす。政府によって優遇されている外資企業が優先的に外貨を調達するため、外貨不足の影響は地場企業にとって、より深刻だ。原材料を輸入できなくなり、カイゼン導入が続けられなくなる企業が多くある。デス・ジェネラルのアルミ鍋工場でもアルミが調達できず生産が止まった状態だった。

同国政府は現在、アディスアベバ市内にTICAD(アフリカ開発会議)産業人材育成センターの建設を準備している。EKIがアフリカ地域の中核的な研究開発拠点「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」となり、自国のほか、アフリカの他国にカイゼン普及・指導を行っていく予定だ。日本が建設費を援助し、土地はエチオピア政府が提供。完成後はエチオピア政府が運営を担う。建設費は2,750万米ドル、完成は21年を予定している。

初の日系専用、レンタル工場を計画

エチオピアで初の日系専用レンタル工場の設置に向けて現地視察するトモニアスの社員(右、同社提供)

トモニアス(東京都中央区)は、エチオピアで初めての日系専用レンタル工場の設置を目指している。

2016年に国際協力機構(JICA)の「中小企業海外展開支援事業基礎調査」として採択され、実地調査を開始。18年7月には日本貿易振興機構(ジェトロ)の「アフリカビジネス実証事業」に採択され、現在、エチオピア政府と交渉を行っている。

トモニアスは、関連会社のゼファー(東京都千代田区)からカンボジアの工業団地であるプノンペン経済特区社に出資し、労働集約型産業向けの工業団地を運営している。労働集約型産業にとって、ミャンマー、バングラデシュの次の展開として、エチオピアを有力視している。

同社が日系専用レンタル工場の設置を計画しているのは、首都アディスアベバのボレ国際空港から10キロほどにある「ボレレミ2工業団地」だ。

アジアで労働集約型産業の賃金が上昇している中、月額70米ドル(約7,800円)とカンボジアの半分以下のエチオピアへの企業進出の増加を見込んでいる。

現在、JICA、ジェトロ、日本大使館などの関係機関と連携を取りながら、エチオピア投資委員会(EIC)、工業団地開発公社(IPDC)と契約交渉を進めている。

出版物

各種ログイン