【アジア取材ノート】
走り出したインドのカーシェア
所有より経験、車利用に変化
インド
ズームカーの引き渡し風景。利用者とスタッフが車体の状態をスマホで撮っている=ニューデリー近郊(NNA撮影)
年に300万台超の乗用車が売れるインドで、カーシェアリングの利用が広がり始めている。所得の上昇を背景に車を「所有」する層が拡大する中、使いたい時だけ使う「経験」を重視するユーザーが若い世代を中心に増えつつある。シェアリングの使用車両は2022年までに現状比10倍に増える見通しだ。
自動車のシェアリングといえば、インドでは運転者と利用者をマッチングする米ウーバーのような配車サービスがまず挙げられる。地場調査会社レッドシアーによると、17年の配車サービスの総予約額は前年比4割増の21億米ドル(約2,324億円)に拡大したという。
その活況の裏で、最近は利用者が自ら運転するカーシェアの利用が増えている。使いたい時に車両を借りる形態はレンタカーと同じだが、スマートフォンやインターネットを通じた予約や、数時間単位で利用できる手軽さが特徴だ。韓国・現代自動車は、インドにおける18年の使用車両は1万5,000台と小規模であるものの、22年には15万台に増え、市場規模は18年から20年の間に15億米ドルから20億米ドルに拡大すると試算する。
利用増の根底にあるのが自動車を持たない層の需要だ。自動車調査会社フォーインのまとめでは、四輪車普及率(15年時点)はインドネシアが8.8%、中国が11.9%、タイが24.0%であるのに対し、インドは3.2%とアジアの途上国の中でも低い。野村総合研究所インド・自動車産業コンサルティンググループの松原正尚グループマネジャーは、「車移動へのニーズの高さと、車を所有する際のコスト面でのハードルの高さから見て、インドでも都市部を中心に、中長期的にカーシェア市場が拡大していく可能性が高い」と分析する。
セダン購入よりSUV利用
カーシェアの広がりには、自動車に対する消費者の意識の変化も影響している。首都ニューデリー郊外にある商業ビルの駐車場。ITエンジニアのアニル・ダタさんは会社を早退し、カーシェア最大手ズームカーの車両を受け取りに来た。夜までに親戚を訪ねる急用ができたため、アプリで車両を予約した。「車を持ちたいと思ったことはないよ。必要なときにこうして使えれば十分」
この駐車場では入居企業向けのほか、4~5台分のスペースがカーシェアに割り当てられている。常駐するズームカーのスタッフがダタさんの免許証を確認。返却時の照合用に車両の状態をスマホで撮影して引き渡しは完了する。「車両さえ空いていればすぐに乗れるのが良いね」と言ってダタさんは車に乗り込み、暮れ始めたニューデリーの街に消えていった。
車は必要だが所有するつもりはない――。こうした考えは若者を中心に広がりつつある。15年に創業したカーシェア運営会社Revvで最高経営責任者(CEO)を務めるアヌパン・アガルワル氏は、「コンパクトセダンを持つよりも、その購入費と維持費をシェアリングの費用に充て、ワンランク上のスポーツタイプ多目的車(SUV)に乗るという考え方だ。若者は所有よりも『経験』を重視している」と話す。
アガルワル氏によると、カーシェアの主な利用者はマイカーを持たない20~40代。目的はレジャーや出張などで遠方へ出かける「旅行」と、買い物や通院などの近距離移動を主体とする「ワーク」に分かれる。Revvは創業当時、旅行の利用が9割、ワークの利用が1割だった。現在はワークが3割に拡大し、いずれ5割になる見通しという。カーシェアを街乗りとして利用し、日々の足にする層が広がってきたといえるだろう。