NNAカンパサール

アジア経済を視る February, 2019, No.49

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ─病院点描─


台湾

眠りこける人、元気そうに笑う人、ぼうっと天井を眺める人。高熱を出して駆け込んだ大型病院の救急センターでは、廊下にあふれ出した患者たちが思い思いに過ごしていた。

台湾では家族や友人に付き添われて病院に行くのが一般的なためか、医師や看護師にいちいち「1人で来たの?」と驚かれる。確かに、1人で来ているのは、酒の飲み過ぎで搬送されたらしいおじさんと、ストレッチャーに乗せられて廊下のすみで点滴をされる自分だけだ。

いつの間にか眠りこけ、目が覚めるとバッグと靴が見当たらない。すると、誰かの付き添いで来ていた男性から「不用心だから足元に置いておいたよ」と声をかけられた。礼を言うと、「1人では心細いだろう。きっと疲れが出たんだよ」。優しい声援が弱った心と体に染み渡る。高熱の原因が、加熱用のカキを生で食べたためだとは秘密にしておこう。(佳)


インド

ここ数年、インドは医療ツーリズムの渡航先として脚光を浴びている。中東やアフリカの富裕層が高度な治療や検診を求めてやってくるという。

そんな医療の一端を体験することがあった。しばらく前に足をひねり、外国人向けの総合病院にかかった。触診か、それで判断できなければエックス線か、というこちらの予想に反して、ターバンを巻いた医師は「MRIでみてみよう」。診断は剥離骨折で、3種類の薬と固定用ブーツが出された。知り合いの日本人医師によると「そのレベルの骨折なら包帯で固定する程度。薬も処方しない」というから、デラックスな対応だったようだ。

医療ツーリズムでは、上客に対して何度も通院するよう病院側が勧めてくることもあると聞く。2カ月後、再診のためにターバン医師を訪ねると「治ったからもう来なくていい」とあっさり言われた。得意客とは判断されなかったらしい。(成)


インドネシア

ジャカルタ特別州が住民に対し、婚姻前に健康診断を受けることを奨励した知事令が、物議を醸している。

知事令によって、保健所や病院で受けた検診の結果が「婚姻適格証明書」となり、婚姻手続きの際に必要になった。知事令は受診を「任意」としているが、証明書がなければ婚姻の手続きができないので、事実上、義務化されたことになる。血液検査で、貧血や栄養状態などを測る以外に、肝炎や梅毒、エイズウイルス(HIV)などに感染していないかも調べている。

2017年末に公布された知事令なのに、ここにきて話題になるのは、周知不足に加えて、役所などの現場できちんと運用されてこなかったからか。インドネシアで国民皆保険が導入されてまだ5年、果たして行政の介入を機に「ブライダルチェック」の必要性に対する国民の意識が高まるのかどうか。(麻)


フィリピン

「精密検査をしましょう」と再診で医師から提案された。結核や肺がんが潜んでいる恐れがあるそうだ。結核と聞いても、明治~昭和を舞台にした文学の印象しかなくピンとこない。「結核患者は頻繁に見ますよ」と病院の日本人スタッフは言う。「費用を理由に診察を受けない人が大勢いるのが現状です」。

偶然にも、当地で結核検査の改善を図る日系企業を取材することとなった。2016年、実証試験の開始式典では集まった医療関係者から質問が絶え間なく浴びせられたという。それから2年。同社による検査機材の追加が決まった。

17年のフィリピンの結核患者数は世界で4番目の多さだった。ドゥケ保健相によると人口の1%を占めている。政府は35年までの中長期計画を策定し、死亡率の低下や医療の質の改善などに尽力している。日本の医療に対する政府の信頼は厚く、期待が高まっている。(堀)


韓国

韓国で最初に開業した産婦人科医院「第一病院」(ソウル市中区)が廃業の危機に陥っている。高齢出産や不妊治療を専門とする名医が多い有名病院だが、少子高齢化による経営難に加え、理事長の横領疑惑が浮上するなどで信用が失墜している。

ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」などで主演を演じたイ・ヨンエ氏も2人の子どもを第一病院で出産した。同病院の広告塔となり、約1,500万円を寄付するなど積極的に支援してきた。今回、病院の更生に向けて組成されたコンソーシアムに参加する報道も出ている。運営権を取得して直接、経営に参加する可能性もあるという。

当方の妻も長男を第一病院で出産。通院の際に妻はイ氏を何度か見かけたが、妊婦から声をかけられて笑顔で手を振る姿が好印象だったとか。歴史ある病院を支え続けてきたトップ女優の手腕に期待したい。(公)

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