【アジア取材ノート】
台湾・王柏融選手の日ハム移籍、経済効果に期待大
入団会見に臨んだ王柏融外野手(右)と日本ハムの栗山英樹監督=2018年12月、台北(NNA撮影)
日本のプロ野球は、きょう1日から一斉に春季キャンプをスタートさせ、2019年の球春がいよいよ近づいてきた。今シーズンは、台湾プロ野球のラミゴ・モンキーズのスター選手である王柏融外野手(25)が北海道日本ハムファイターズに加入。北海道の観光産業や日台のプロ野球ビジネスに大きな経済効果が生まれるとの期待が膨らんでいる。昨年12月に台北市内のホテルで行われた王選手の入団記者会見で、日本ハムの竹田憲宗球団社長は、「経済効果は非常に大きい。北海道を訪れる台湾人観光客の数が、現在の年間60万人から100万人に増える可能性もある」と強調。また、1月に台湾で21年までのパ・リーグの放映が決まったことにも好影響を与えたとみられている。
スポーツ・観光ビジネスの商機拡大
王選手は台湾プロ野球史上最高の選手とも称され、3冠王や2年連続の打率4割超えなどの偉業を達成している。日本ハムとしてはチームに加えることで戦力の強化を図りたい考えだが、同時に地域経済面での波及効果にも大きな期待を寄せる。
竹田球団社長は会見で、「王選手の移籍により、グルメや温泉、自然などをはじめとする北海道の観光資源に野球観戦が加わった」と指摘。その経済効果について「予想を覆すほどのすごい数字になると思う」と述べた。NNAがどの程度の規模になりそうか尋ねたところ、「100万人の台湾人観光客の北海道訪問も可能」と答えた。
もちろん球団自体も、台湾でのグッズ販売や台湾人観戦者、スポンサー収入の増加などを見込む。竹田球団社長は「旅行代理店と組んで、王選手の応援ツアーを検討したい」と述べる。また、「台湾で事業展開する日本企業はたくさんある。そういった企業とスポンサー契約を結んでいきたい」とも語った。
日本ハムは23年に北広島市に総合エンターテインメント施設の機能を持つ新球場をオープンする予定。王選手の今回の契約期間は21年シーズンまでとなっているが、竹田球団社長は「王選手が新球場に立つ姿が目に浮かぶ」と述べ、長期的に活躍して新球場のPRにも貢献してほしいとの考えを持っているもよう。新球場は新千歳空港にも近く、王選手を通じたPRが成功すれば、台湾人観戦者がさらに増えるとの期待もあると思われる。
パ・リーグの台湾向けビジネスも後押ししそうだ。パ・リーグの放映権販売などを手掛けるパシフィックリーグマーケティング(東京都中央区、PLM)は1月15日、台北市内で会見を開き、米FOXネットワークス・グループ傘下のスポーツ専門チャンネル、FOX体育台(FOXスポーツ台湾)と19年から3年間の放映権の販売契約を結んだと正式に発表。年間で260試合以上が台湾で生中継される。併せてPLMの根岸友喜代表取締役(CEO)は今後、試合中継でチケット販売状況を告知するなどし、台湾人の球場への呼び込みを強化していく方針を表明した。
経済効果は活躍が前提
ただし選手を獲得しただけで、日本のプロ野球チームの収益がアップするわけではない。在籍するだけなら、既に日本ハム以外の多くの球団に台湾人選手がいる。ビジネスチャンスを広げるためには、王選手がチームの中心選手として活躍するのが必須条件だ。
日本のプロ野球関係者は「台湾でスターの地位を築いた選手が初めて海外に移籍するという意味で、王選手の移籍は日本のイチロー選手の米メジャーリーグ移籍に相当する」と解説。その上で、「仮にイチロー選手が期待外れに終わっていれば、日米間のプロ野球ビジネスは成長しなかったどころか、衰退した可能性もある」と述べ、日台間のプロ野球ビジネスがどこまで膨らむかも王選手の活躍次第との考えを示した。
日本ハムには、台湾を代表する野球選手、陽岱鋼選手(現在読売ジャイアンツ所属)が在籍したことがある。そのころから北海道におけるスポーツビジネスを研究してきたという北海道大学・観光学高等研究センターの石黒侑介准教授は、「陽選手在籍時に北海道を訪れる台湾人の観光客や札幌ドームでの観戦者が増えたのは確か」としつつ、同時期は全体的に訪日観光客が急増した時期だったとも指摘。陽選手効果があったと結論付けるのは早急と分析する。
台湾人観光客の増加を期待する声についても、「現在は年間、約5人に1人の台湾人が日本を訪れる水準。既に訪日観光は成長期から成熟期に入っている」と指摘。王選手の予想を超えるような活躍がなければ、観光業に与える影響は限定的との見方を示した。その一方で、「もともと北海道観光を計画している台湾人が、王選手の日本ハム移籍をきっかけに旅行中に球場を訪れるなど、道内での過ごし方や旅行行程に変化をもたらす可能性はある」と述べた。