NNAカンパサール

アジア経済を視る February, 2019, No.49

「東西」の本から「亜州」を読み解く

アジアの本棚

『日本の「中国人」社会』

中島恵 著


高知県の人口に匹敵する在日中国人

日本に暮らす中国人が増えているのは間違いない。街頭でも電車の中でも中国語を耳にすることは多く、旅行者などまず来ない私の住む郊外の住宅地ですら例外ではない。中島恵『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)は、われわれの知らない在日中国人コミュニティーの現状を詳しく報告している。

本書によると、2017年末の日本在住の中国人(香港、台湾除く)は73万人。在日外国人256万人の3分の1を占め、高知県の人口に匹敵する。ビジネスでの短期滞在者や帰化した人も加えると97万人と百万人に近く、2000年(32万人)の約3倍。入国管理法改正で4月から外国人労働者受け入れが拡大されるが、在日中国人はすでに単純労働中心ではない。政府が推進している「高度外国人人材」の65%が中国人。経営・管理ビザで来日する層も少なくないという。

中国人は首都圏に多く、埼玉県川口市の芝園団地は住民の半分が中国人。神奈川県横浜市南区にも新たな中国人コミュニティーが形成されており、地元の小学校はインターナショナル・スクール化。学校行事では、日中の父兄が肩を並べて餃子を作る。中国で普及しているSNS「微信(ウィーチャット)」は日本の中国人社会でも広く使われており、中華料理の出前広告から「学校の授業参観には何を着ればいいのか?」といった質問まで飛び交っている。

中国では不動産価格が高くなり過ぎて「日本ならマイホームを実現できる」という人もいれば、母国の激烈な競争社会に疲れて日本での静かな生活を選ぶ若者もいる。同胞が増えれば「中国人の多いところには住みたくない中国人」も出て来るし、母国の発展をみて「そろそろ帰国するべきか」悩む層もいる。多彩で多様な日本の中国人社会を知るには格好の一冊だ。

旧日本軍の軍服を着る中国の若者

合わせて読みたいのが、古畑康雄『精日-加速度的に日本化する中国人の群像』(講談社+α新書)。中国ではここ数年、旧日本軍の制服を着た自らの写真をネットにアップしたり、日本のサッカーチームを熱く応援する若者たちが登場。「精神的日本人=精日」と呼ばれている。彼らは「日本が大好きだ」「第2の故郷だ」と堂々と訴えたりしているのだが、なぜそうした層が生まれたのか?そもそも愛国教育をどっぷり受けた世代ではないのか?など日本人にとっても不思議に思える。

著者はそうした若者たちに直接会って話を聞き、彼らの心情を解きほぐして説明している。現在の中国の若者の多くは日本の漫画やアニメに親しんで育ち、日本旅行が容易になったので自らの眼で日本の諸相をしっかり観察していることが背景にあることが分かってくるが、それにしても人間の心理は複雑だ、と改めて考えさせられる。

今回紹介した2冊の著者とはいずれも20年来のつきあいだが、2人とも高い中国語力を駆使した対面取材を得意とするジャーナリスト。書店には大所高所から論じた「いわゆる中国論」が並んでいるが、まじめに日中関係を考えるなら、こうした徹底したミクロ情報を出発点にしないと話にならないだろうと考える。


『日本の「中国人」社会』

  • 中島恵 著 日本経済新聞出版社
  • 2018年12月発行 850円+税

『精日-加速度的に日本化する中国人の群像』

  • 古畑康雄 著 講談社
  • 2019年1月発行 860円+税

【本の選者】岩瀬 彰

NNA代表取締役社長。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年より現職

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