NNAカンパサール

アジア経済を視る January,2019, No.48

【スペシャルリポート】成都訪問記

勃興する消費、 物流・産業インフラ
~中国内陸部をけん引~

中国

(左)フォックスコン工場付近を最新の路面電車が走る=市北西部(右)成都市中心部の春熙路にある商業施設、国際金融中心(IFS)

(左)フォックスコン工場付近を最新の路面電車が走る=市北西部(右)成都市中心部の春熙路にある商業施設、国際金融中心(IFS)

パンダや麻婆豆腐が有名な中国・四川省だが、訪れる日本人も在留邦人数も多くはない。日本人にとっては、内陸の奥地というイメージだ。実際、上海から省都の成都へは飛行機で3時間以上かかる。しかし、沿海部から内陸部へと製造業の生産移管が進み、高速鉄道や欧州・東南アジアを結ぶ物流インフラも整備。訪れてみると、もはや「奥地」ではなかった。(文・写真=NNA東京編集部 遠藤堂太)

EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業を中核とするフォックスコンの工場は成都の地下鉄、犀浦駅から車で10分の距離にあった。すぐ隣の一角はヨーロッパと見紛う建築物や高層マンションがあり、蓄電池で走行する最新技術の路面電車が試運転中。「アジアにいる」という感じがしなかった。あるいはこれが新しいアジアの姿なのかもしれない。

(左)フォックスコン工場付近を最新の路面電車が走る=市北西部(右)成都市中心部の春熙路にある商業施設、国際金融中心(IFS)

物流施設内に掲げられた地図は、内陸の成都が欧州や東南アジアと直結していることを強調。欧州まで9,826キロと書いてあった=青白江地区

従業員募集するフォックスコンの事務所には、こじゃれた格好の若者が出入り。その向かいには電子科技大学があった。中国の起業競争力のランキングでは清華大学、北京大学に次ぐ3位に付けている。広大なキャンパスを歩くと、学生たちがプレゼンの練習をしている光景や、インド系・アフリカ系の学生を目にした。大学もある新都市開発の一角にフォックスコンを誘致した成都市や四川省の熱意を感じさせる。

四川省ではパソコンや周辺機器など電子産業の集積が進んでいる。パソコンや集積回路ではフォックスコンのほか、デル、インテル、レノボなどの内外企業が進出。液晶パネル中国最大手の京東方科技集団(BOE)も生産拠点を構える。2017年の四川省の電子計算機の生産は17.6%増の6,981万7,000台に上る。

自動車生産も急拡大している。地場系を中心に10年は10万台を超えたばかりだったが、17年には150万8,000台にも達した。

中欧班列の発着ターミナルと欧州製品を販売する店舗=成都市内北東部の青白江地区

日系の「奥地」意識に変化

13年には成都と欧州主要都市を結ぶ国際コンテナ鉄道輸送「中欧班列」も運行開始。四川省で生産されたパソコンなどが貨物列車で輸出されており、17年の運行便数は全国トップだった。欧米自動車メーカーも、中欧班列を使った中国・欧州間のサプライチェーンを構築しつつある。

在重慶日本総領事館の資料によると、成都を含む四川省の日系企業進出数は370社あるが、在留邦人数は397人と少ない。成都のライバル、重慶市も、自動車生産は成都の2倍の年間約300万台にも達するが、邦人数は似たような状況だ。

四川省と隣の重慶市で人口1億人を超え、10年以降、電子や自動車産業の集積が進んでいるのだが、日本企業は存在感を示せていない。日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所の田中一誠所長はこの理由について、「日本人は中国内陸部を『奥地』と捉え、輸出拠点とは考えてこなかった」と指摘する。しかし、直近の2~3カ月では日本企業の本社からの出張者が増えている。「中国から欧州や東南アジア諸国連合(ASEAN)との連結性を視野に入れているようだ」と話し、内陸地域に対する企業の意識の変化を感じている。

消費に熱気

11月中旬でも既にイチョウが散り始めていた成都。最高気温は10度を切る冷え込みだったが、消費市場は熱気を帯びていた。成都では7店を展開しているイトーヨーカ堂のほか、伊勢丹、地場の国際金融中心(IFS)が並ぶ成都市中心部の春熙路は週末の夕刻、多くの人で賑わっていた。

IFSの中には衣料品のユニクロ、ラーメンの一風堂のほか、外国服飾ブランドが多数入居。英バーバリーの前では入店する人の列もできていた。カメラ片手の観光客ではなく、普段着の市民が消費をけん引している。四川省の17年の小売売上高は前年比12.0%増と二ケタの伸びを示す。

ミャンマーやバングラデシュといった新興国がもてはやされるが、日本企業にとって製造拠点や市場として開拓すべき「フロンティア」はもっと近い国にあるのではないだろうか。

四川といえば麻婆豆腐とパンダ!

四川省といえば四川料理だ。サンショウを使った、しびれる辛さが病みつきになりそうな麻婆豆腐はレストランで大盛ごはん付きで15元(約250円)、担々麺は大衆食堂で7元と安かった。

もう一つ、四川省といえばパンダ(大熊猫)だ。市中心部から地下鉄と連絡バスで行ける「成都大熊猫繁育研究基地」は朝8時には開園。常時20頭以上は公開されているパンダを自然に近い環境で、ゆったりとみることができる。

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