【アジア業界地図】
配車アプリ編
中国、韓国、シンガポール、タイ、ミャンマー、インドネシア、ベトナム
中国本土でシェア9割を占める配車アプリ最大手の滴滴出行は18年夏に日本にも上陸した(NNA撮影)
アジアではスマートフォンやモバイル決済サービスの普及を背景に、配車アプリ市場が急拡大している。中国では滴滴出行がシェア9割を占めるが、東南アジア諸国ではマレーシア発のグラブ(Grab)(本社・シンガポール)が、米ウーバー(Uber)を駆逐して独走する。地下鉄など公共交通機関が未発達な国々では、既存のタクシーに代わる市民の足として定着しつつあるが、客を奪われることになった既存のタクシー業界にとっては大打撃だ。
【中国】
滴滴出行がシェア9割
殺害事件で安全対策も
中国の配車アプリ市場は、2017年の調査では「滴滴出行」がユーザー数で90%と圧倒的。アプリ普及率でも58.6%と、2位の「首汽約車」(2.6%)を引き離して断トツだ。ただ滴滴出行では、18年にライドシェア(相乗り)サービスを利用した女性客が運転手に殺害される事件が相次いで発生。国民から大きな非難が寄せられたことを受け、相乗りサービスの無期限凍結や担当幹部解任などを余儀なくされた。アプリに乗客による通報機能も追加するなど安全対策を強化中だ。
【韓国】
カカオTの一強
既存タクシー組合が大規模デモ
韓国の配車アプリ市場はカカオモビリティーが運営する「カカオT」の一強だ。韓国のタクシー乗務員の96%に相当する24万人が加入。利用者数は1,900万人を超え、配車件数は累計で4億件に上る「国民的タクシーアプリ」になった。2018年9月にカカオTを利用するタクシー運転手約1万4,000人を対象に実施した調査では、1日の平均収入は15万2,436ウォン(約1万5,500円)にも上った。カカオモビリティーは相乗りアプリ「カカオTカープール」のサービスも開始する予定。同じ目的地に向かう運転者と搭乗者をつなげるサービスで、消費者は通常のタクシーよりも20~30%安い料金で利用できる。しかし、相乗りサービスに反対する韓国のタクシー労働組合の4団体が大規模デモを実施し、社会問題ともなった。
【シンガポール】
グラブがウーバー事業買収
相次ぐ新規参入も力不足
米ウーバーの撤退で、シンガポールの配車サービス市場は「グラブ一強」の様相が色濃くなっている。国内外から新規参入が相次いだが、グラブに対抗するには力不足の感が否めず、苦戦を強いられているもよう。2018年5月に市場参入したインドの「ジュグノー(jugnoo)」は同年8月、地場の「カーディ(Kardi)」と提携。同社に技術支援をする代わり、自らはサービスを中止する道を選んだ。同年11月末にはインドネシアでシェアトップの「ゴジェック(GOJEK)」が試験サービスの提供を開始し、グラブの牙城を崩せるかが注目される。
【タイ】
若年層に人気のリルナ
LINEはタクシー配車アプリで参入
グラブが浸透しているタイでは、グラブ同様に一般車両を使ったサービスとしては相乗りに特化した地場のアプリ「リルナ(Liluna)」がある。2017年に発表され、18~25歳の若年層で利用が広がっている。タクシーを配車するアプリも充実してきた。LINE(ライン)が18年4月に立ち上げた「ライン・タクシー」はラインのアプリで配車・決済が可能。「タクシーOK(Taxi OK)」は旅行者から悪評高いタクシーを改善するため運輸省陸運局が開発した公式アプリだ。一方、グラブは同社としてタイで初となる広告塔の「ブランドアンバサダー(大使)」に日本のアイドルグループ「AKB48」の海外姉妹グループ「BNK48」を起用するなど、マーケティング活動も強化している。
【ミャンマー】
勢力強めるグラブ
地場はトラクターの配車も
もともと首位だったグラブが、ウーバーが撤退して以降、さらに勢力を強めている。2018年3月には地場大手財閥サージ・パン・アンド・アソシエーツ・ミャンマー(SPA)傘下のヨマ・ストラテジック・ホールディングスと戦略提携してさらに足場を固めた。主戦場のヤンゴンでは、地場の「ハロー・キャブス(Hello Cabs)」と「オーウェイ・ライド(Oway Ride)」、「オーケー(OK)」はグラブに大きく水をあけられ、ほぼ存在感がない。オーケーは、高原避暑地で馬車、湖畔の観光地では船、農業の盛んな地域でトラクターのサービスにも対応できるユニークなサービスを売りにしている。ただ、その利用がどこまで伸びているかは不明だ。
【インドネシア】
グラブとゴジェックが一騎打ち
出前などサービス多様化で勝負
インドネシアから米ウーバーが撤退して以降、「グラブ」と地場「ゴジェック」の2社が一騎打ちの様相を呈している。大手2社は配車サービスだけでなく、総合的なオンラインサービス(出前サービス、買い物サービス、メード配送サービスなど)も展開。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国への進出もその一環だ。ただ、両社の契約運転手(個人事業者として会社と契約)からは「基本収入が少ない」とたびたびデモや抗議の声が上がっている。会社側は「新しいサービスを導入し、契約運転手への収入拡大の機会を増やしている」と説明しつつ、基本収入の引き上げには応じない姿勢を示している。最近では乗客や運転手を巻き込んだ犯罪(強盗や殺人)が発生したため、「安全性を確保する必要がある」として、新規参入の配車アプリ事業者への規制を発表する見通し。
【ベトナム】
首位はグラブ
支払いは依然現金が主流
3年ほど前からマレーシアで創業したグラブと米ウーバーの2社が競うようにベトナム市場で勢いを増していたが、昨年4月にウーバーがベトナムから撤退して以来、ベトナムの配車アプリ市場は、ウーバーの東南アジア事業を買収したグラブが最大のシェアを握る。グラブに対抗すべく、地場フィンテック企業、ネクストテック傘下の「ファストゴー(FastGo)」のほか、「TaxiGo」「Vivu」「T.net」「Xelo」「Vato」─など多くのスタートアップが市場に参入している。18年8月にはインドネシアの配車アプリ大手ゴジェックの「ゴーベト(Go―Viet)」もサービスを開始した。ベトナムでは、スマホの普及や電子商取引(EC)が急拡大する一方、支払いは依然キャッシュオンデリバリー(代引き)が大半を占めている。急増する需要の一方、各社とも安定的なドライバー確保が課題となっている。
Close up
グラブ、東南アジアでウーバーの事業買収
ソフトバンク・トヨタとも提携
配車アプリの開発・運営を手掛けるシンガポールのグラブは2018年春、米配車大手ウーバーの東南アジア事業を買収した。グラブは事業展開するシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジアの全8カ国で、ウーバーの事業を引き継いだ。
配車事業に加え、料理の宅配サービス「ウーバーイーツ」も取得した。事業統合により、◇配車◇料理宅配◇電子決済─を3本柱に、東南アジア最大の「オンライン・ツー・オフライン(OtoO)」サービス企業を目指す考え。
勢いに乗るグラブは世界の大手企業との連携も加速している。ソフトバンクは14年、グラブに2億5,000万米ドル(約284億3,000万円)を出資して筆頭株主となり、その後も複数回にわたって追加出資を行っている。
トヨタ自動車も18年、グラブに10億米ドルを出資した。グラブとフィリピンで配車サービスの運転手向けに新車購入を支援する事業を始めている。自動車市場に陰りが出る中、急成長が期待できる新分野で新車購入を促し、市場を活性化する狙いだ。トヨタによるこの種の取り組みは東南アジアで初めて。